シュツットガルト・バレエ団 2018年日本公演 伝統に新時代の息吹を吹き込むスターたち インタビュー特集 マチュー・ガニオ、アリシア・アマトリアン、エリサ・バデネス

3年ぶりとなるシュツットガルト・バレエ団日本公演は、看板プリンシパルに加え、ゲスト・アーティストを迎えて、ジョン・クランコの代表作2作が上演されることとなりました。
新芸術監督タマシュ・デートリッヒによる、名門バレエ団の新時代の息吹への注目が高まっています。
今回は、ゲストとして迎えられるパリ・オペラ座バレエ団のマチュー・ガニオ、両作品で主演を務めるシュツットガルト・バレエ団の花形アリシア・アマトリアンとエリサ・バデネス、ダンサー3人のインタビューを大特集!     

Photo: Michel Lidvac

────パリ・オペラ座で2011年と2018年にオネーギン役を踊られましたが、7年を経て変化を感じましたか?

ガニオ:2011年はエルヴェ・モローの怪我で急遽出演が決まり、夢中で取り組みました。タチヤーナ役はイザベル・シアラヴォラ。2018年は、リュドミラ・パリエロと踊りました。7年ぶりに踊り、成熟を感じました。佇まいが変化し、動作に緩やかさや重みが加わり、役に説得力をくれた。初役の時にはオネーギンは自分とまったく違うと感じたけれど、年を重ね、人生や物事への幻滅も経験して、今では自分とオネーギンが重なる時もあります。

──オネーギンという人物を、どう解釈して踊っていますか?

ガニオ:オネーギンをただの不愉快な人物に留めるのは、僕には難しいことです。彼はもっと深い。そうでなければ、第3幕で賢いタチヤーナがあれほど苦しまないでしょう。タチヤーナがなぜ彼に魅かれたのかを考えて、オネーギンを理解していきました。オネーギンは美しい。でも美貌が彼の魅力なら、むしろオリガが彼に魅かれたでしょう。オネーギンの魅力は知性です。過ちを犯すけれど、彼は人生や物事に関する智慧をもっているのです。愛は過ぎ去る。愛し合っても、飽きて、裏切る時が来る…‥。タチヤーナの恋文を破るのは、彼女に愛の失望を経験させない、一種の誠実さだったのかもしれない。悪意と見える行動の後ろに、さまざまな思いがあると僕は考えるのです。

──作品でどの場面がいちばん好きですか?

ガニオ:最後の手紙のパ・ド・ドゥです。振付にはハードな技術が盛り込まれ、身体も疲労しているので、考えすぎずに本質に近づくことができる。互いを心から信頼し、身を任せて踊ります。愛を乞い、己の罪を償う姿は、極めて悲痛だけれど美しい。二人が愛し合っているのは疑いない、でももう遅い。人生では時を誤ることがあるでしょう? この悲劇的な結末は、人生の本質を語るのです。

──オネーギン役の稽古はどのように進みましたか?

ガニオ:今年のパリ・オペラ座での『オネーギン』上演にあたり、芸術監督のタマシュ・デートリッヒが指導してくれました。技術や音楽性は完璧に、振付も変えませんが、ダンサーの個性に合った提案をしてくれるのが面白い。ダンサーが探求する余地を与えてくれるのです。

──タチヤーナ役のエリサ・バデネスとの共演は初めてですね。

ガニオ:2年前、シュツットガルト・バレエ団のガラにゲスト出演した時、皆が互いを気遣う、人間的で温かいバレエ団だと感じました。エリサは、このイメージを体現するダンサー。初めての相手と踊ると多くを学ぶし、彼女と役を深めていくのが今から待ち遠しいです。

──日本のファンにメッセージをお願いします。

ガニオ:皆さんの支えと惜しみない愛情に、心から感謝しています。僕にとって、日本は夢やプロジェクトを実現できる特別な場所。大切なこの役を、作品が生まれたバレエ団で踊れるのは夢のようです。皆さんにも自分にも、忘れられない公演になるよう努めます。

Photo: Stuttgart Ballet

──11月のシュツットガルト・バレエ団東京公演では、アマトリアンさんは『オネーギン』と『白鳥の湖』に主演、フリーデマン・フォーゲルさんと共演する予定です。

アマトリアン:フリーデマンは、ジョン・クランコ・バレエ学校で一緒に勉強し、シュツットガルト・バレエ団で何度も共演したパートナーです。長い時間をともに経てきたので、舞台に立つと、互いの気持ちを感じ合えるのよ。同じ作品、同じ役柄を演じていても、型通りの演技にはなりません。たとえば『オネーギン』のヒロイン、タチヤーナに扮した私が何気なく身じろぎすると、オネーギンになりきったフリーデマンは、思いもよらない視線を返してくる。すると私のなかにいつもと違う感情が湧き上がり、二人の関係が微妙に変化します。これが信頼できるパートナーと作り上げる、生の舞台の醍醐味ですね。

──もう一つの演目、『白鳥の湖』もクランコの振付・演出による全幕作品です。

アマトリアン:バレエ学校で勉強していた頃から、このヴァージョンを見てきました。尽きない魅力があります。なかでも第4幕の演出は独特で、オデットとジークフリート王子が踊る別れのデュエットは、クランコ作品の真髄と呼びたいくらい。一見、シンプルな振付のようでも、実際には、伝統的な振付とは異なる複雑な動きが織り込まれていて、二人のダンサーが、一つに溶け合うのです。男性はもちろん、女性にもパワーが不可欠です。上半身をしっかりと保ち、一つひとつの関節を細やかに使いこなし、なだらかなラインを生み出さなくてはなりません。

──オデットと王子が悪魔に打ち克つ演出ではありません。二人の愛を、どのように受け止めていますか。

アマトリアン:オデットと王子は愛し合っていました。真実の愛です。王子がオディールに求婚したのも、彼女がオデットだと信じてたいからこそ。彼はオディールにもてあそばれてしまったのよ。第4幕は悲痛な場面で締めくくられます。オデットは王子との愛を貫けるかもしれない、という微かな望みを抱くけれど、次の瞬間、全てを失い、白鳥の姿に戻っていく。これほど悲しい別れがあるでしょうか。

──音楽構成を変更するなど、クランコ独自の演出がある一方、第3幕でオディールが披露する〈32回転のグラン・フェッテ〉を始めとする、古典作品ならではのテクニックの見せ場もあります。

アマトリアン:技術的に難しいソロが幾つもあり、本当に大変! といっても、いちばん大切なのは、技巧の優劣ではなく、踊りを通して物語を語り、観客の心に訴えかけること。バレリーナとしての自分が試される作品です。全幕を踊り終えた後、全てを出し切り、虚脱感におそわれるほどです。

──タマシュ・デートリッヒ新・芸術監督の元で、2018/2019年シーズンが始まろうとしています。

アマトリアン:シュツットガルト・バレエ団は、ジョン・クランコが手塩にかけて育てたバレエ団です。そのアイデンティティが揺らぐことは、けっしてありません。でも変化も必要です。新たなレパートリーに挑戦し、成長し続けることも、私たちの伝統です。タマシュと共に、新しい世界に踏み出すことが楽しみでなりません。

Photo: Stuttgart Ballet

──『白鳥の湖』のオデット/オディールは、バレエ団に入って初めて踊られた主役だそうですね。

バデネス:ええ、当時まだ19歳だった私にはとってもチャレンジングでした。オディールは、私が得意としているテクニックを見せられる役ですし、ふだんはできない意地悪なことができることもあって(笑)、最初から楽しんで演じることができたんです。でもオデットは、抑制された静かな動きしかないなか、存在感だけで舞台を埋めなければならない役。最初はそれがすごく難しかったのだけど、踊るごとに役に入り込みやすくなってきているから、今回は今の私ならではの成熟したオデットをお見せできると思います。ジークフリート役のアドナイは今回が初役だから、彼に教えることで私も改めて学ぶことがあると思うと、それも楽しみですね。

──クランコ版『白鳥の湖』は、そのジークフリートに焦点が当たっていることが大きな特徴になっています。

バデネス:『白鳥の湖』と聞くと、多くの方が女性の物語を思い浮かべるなかで、クランコ版では男性にも物語があるんですよね。それによって、ストーリーにも音楽にも、より豊かな命が吹き込まれているのを感じます。ジークフリートが悲劇的な結末を迎える第4幕が、私は特に大好きなんですよ。本当に悲しいけれど、最高に美しいエンディングです。

──そして『オネーギン』では、タチヤーナとオリガの二役を踊られます。バデネスさんの年齢で、タチヤーナ役を務めるのは珍しいのでは?

バデネス:そうですね、だから最初にお話をいただいたときは本当に、本当に驚きました。私にはまだ踊れないと思ったけれど、本番を重ねることでしか近づけない役だとも思って舞台に立ったのが、前回の日本ツアーのときのこと。そんな特別な国で、また別のパートナーと一緒にこの役に挑めることに心からワクワクしています。クランコの振付は人間の感情に忠実で、私は自分が演じているのだと意識することなく、私自身のままで生き、恋をすることができます。その上オネーギン役がマチューなら、舞台上で恋に落ちるのは本当に簡単(笑)!

──とても明るく朗らかな性格の方とお見受けしますが、ドラマティックな役柄にどうやって入り込んでいかれているのでしょうか。

バデネス:衣裳を着て音楽が鳴った瞬間にスイッチが入る感じですね、パチン!って(笑)。だから舞台上ではそんなに難しくないのだけど、リハーサル中にも入り込むためにはまだまだ訓練が必要です。そんなとき、大きな助けになってくれるのがカンパニーの仲間たち。これは特に『オネーギン』のような作品でよく起こることなのですが、コール・ド・バレエのみんなが自分たちのリハーサルが終わったあとも残って、私たちの踊りを最後まで見守って拍手をしてくれるんです。私が役に入り込んで踊れるのも、素敵な舞台が作れるのも、そんな家族のようなカンパニーだからこそだと思っています。

シュツットガルト・バレエ団

『オネーギン』全3幕

【公演日】

2018年
11月2日(金)19:00
11月3日(土・祝)14:00
11月4日(日)14:00

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

タチヤーナ: アリシア・アマトリアン(11/2)
ディアナ・ヴィシニョーワ(11/3) ★ゲスト(マリインスキー・バレエ)
エリサ・バデネス(11/4)
オネーギン: フリーデマン・フォーゲル(11/2)
ジェイソン・レイリー(11/3)
マチュー・ガニオ(11/4) ★ゲスト(パリ・オペラ座バレエ団)

『白鳥の湖』全4幕

【公演日】

2018年
11月 9日(金)18:30
11月10日(土)14:00
11月11日(日)14:00

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

オデット/オディール: アリシア・アマトリアン(11/9)
エリサ・バデネス(11/10)
アンナ・オサチェンコ(11/11)
ジークフリート王子: フリーデマン・フォーゲル(11/9)
アドナイ・ソアレス・ダ・シルヴァ(11/10)
デヴィッド・ムーア(11/11)

会場:東京文化会館

【入場料[税込]】

【オネーギン】
S=¥20,000 A=¥18,000 B=¥16,000 C=¥13,000 D=¥10,000 E=¥7,000
【白鳥の湖】
S=¥19,000 A=¥17,000 B=¥15,000 C=¥12,000 D=¥9,000  E=¥6,000

※学生券¥3,000はNBS WEBチケットのみで10/5(金)より発売。
★ペア割あり[S.A.B席]

「白鳥の湖」親子券[S,A,B席]

対象公演:11月9日(金)、11月10日(土)、11月11日(日)
【S席】大人¥19,000+お子様¥5,000=¥24,000
【A席】大人¥17,000+お子様¥4,000=¥21,000
【B席】大人¥15,000+お子様¥3,000=¥18,000

*お子様は小学生~高校生が対象。お子様2名までお申込みいただけます。

【その他の公演】

福岡 11月14日(水)

「白鳥の湖」 福岡サンパレス (問)KBCチケットセンター 092-720-8717

西宮 11月17日(土)

「白鳥の湖」 兵庫県立芸術文化センター (問)0798-68-0255

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