英国ロイヤル・オペラ 2019年日本公演 だからこの『ファウスト』って面白い! Photo: ©️ROH/Catherine Ashmore, 2011 Photo: ©️2017 ROH. Photographed by Catherine Ashmore

『ファウスト』というオペラは、そもそも悪魔と魂をやりとりする…‥などという、
荒唐無稽な物語。デイヴィッド・マクヴィカーの演出では、
あれよあれよという間に場面が展開していきます。
交錯する現実と非現実のなかに、「わぁっ!」と声をあげそうになってしまう場面も!    

ヘンシーン!の
インパクトは大きいぞ〜!

Photo: ROH 2011. Photograph by Catherine Ashmore

 第1幕、老ファウストは悪魔メフィストフェレスに魂を渡す代わりに”若さ”を手に入れます。ヨボヨボだったファウストが、一瞬にして青年へとヘンシーン! グリゴーロ自身、この変身シーンには特別な思い入れを持っていると言います。老人のときには、その動きだけでなく、歌い方にも“老人らしさ”が必要だと。それだけに、青年になったときの溌剌感もたっぷり。観ている方も思わず微笑んでしまいそうです。
 このプロダクションでヘンシーン!するのはファウストだけではありません。悪魔メフィストフェレスの方がこのプロダクションならではのインパクトを与えるはず。第5幕、魔女たちが集まるワルプルギスの夜には、メフィストフェレスもティアラとドレスをつけた“魔女”にヘンシーン!するのです。


「キャバレー地獄」の
ショーガール

Photo: ROH 2014. Photograph by Bill Cooper

 メフィストフェレスの正体を知り、ヴァランタンたちが悪魔に対抗する決意が重厚にあらわされたすぐ後に、舞台は有名な〈ファウストのワルツ〉をカンカンふうの振付で踊るショーガールたちの楽しげな雰囲気に一転します。「キャバレー地獄」です。この転換に驚きを感じるかもしれませんが、このスピード感こそ、マクヴィカー演出の魅力。実際、ロンドンではこの場面で若者たちのケラケラと笑う声が聞こえることもあります。
 このプロダクションでは、マルグリートは「キャバレー地獄」のウェイトレスという設定。わいわいと騒ぐ人々の中で、ファウストはマルグリートに告白し、あっさり振られることに。その様子を、ショーガールたちが冷やかすように再び〈ファウストのワルツ〉で歌い踊ります。

聴き惚れる
のはどれ?

Photo: ROH 2014. Photograph by Bill Cooper

 オペラ『ファウスト』で聞き惚れるべきアリアは数々あります。登場順で言うなら、まずヴァランタン。妹への深い思いがひしひしと伝わって来て、話の展開を知っている方なら、マルグリートを弄ぶファウストに憎しみを抱いてしまうかも? とはいえ、マルグリートの家の前で叙情的に彼女への愛を歌うファウスト最大の聴かせどころのアリアを聴いたら、女性は彼の虜になって当然かもしれません。ちなみに、メフィストフェレスの最大の聴かせどころは札ビラをきって、邪教のシンボルである金の子牛を讃える歌。不思議な魅力はあるけれど、悪魔ですからね、聞き惚れるにはご用心!
 紅一点のマルグリートがコロラトゥーラの技法で華麗に聴かせるのが「宝石の歌」。宝石を身につけ、彼女自身も興奮を抑えられない様子に、引き込まれずにはいられません。
 オペラ『ファウスト』には、シリアスな場面とコミカルな場面、キャパレーあり教会ありと、極端に違う場面が繰り広げられていきます。ただ、聴かせどころのアリアの場面では、あくまでも「聴かせる」舞台となっています。演出家のマクヴィカーは、手がけるオペラの歌は全て覚えて、リハーサルでは自分が歌いながら歌手に指示を出すのだとか。過激と呼ばれることがあるマクヴィカーですが、そこには大切にされた音楽が確実にあるのです。


悪魔が仕組んだ
ワルプルギスの夜

Photo: ROH 2019. Photograph by Tristram Kenton

 ワルプルギスの夜は、中欧や北欧で行われる行事で、古代ケルトの春の祭りの前夜に魔女たちが集まるという言い伝えから生まれました。ケルト人の信仰がキリスト教徒からみると「異端」だったということに基づくともいわれています。また、北欧では死者と生者の境が弱くなる時間とされているとか。こうした背景を知ると、この第5幕ワルプルギスの夜はこのプロダクションならではの傑出した魅力を納得できるはず。マクヴィカーは、この場面に結婚を前に亡くなった精霊たちが登場する「ジゼル」ふうのバレエを取り入れました。もっとも、これは踊りを見せるためのものではありません。ファウストも観ているそこには、死んだはずのヴァランタンが出て来たり、お腹の大きいバレリーナが登場します。これを観ていたファウストは、自分の所業を思い起こし、みんなにいじめられ嘲笑われる妊婦のバレリーナの姿にマルグリートを思い出すのです。この間、メフィストフェレスは舞台の端でファウストの様子を見ています。ワルプルギスの夜で繰り広げられたことのすべては、この悪魔の仕業であることがわかるのです。

英国ロイヤル・オペラ 2019年日本公演

『ファウスト』

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:デイヴィッド・マクヴィカー

【公演日】

2019年
9月12日(木)18:30
9月15日(日)15:00
9月18日(水)15:00

会場:東京文化会館


9月22日(日)15:00

会場:神奈川県民ホール

【予定される主な配役】

ファウスト:ヴィットリオ・グリゴーロ
メフィストフェレス:イルデブランド・ダルカンジェロ
マルグリート:レイチェル・ウィリス=ソレンセン

『オテロ』

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:キース・ウォーナー

【公演日】

2019年
9月14日(土)15:00
9月16日(月・祝)15:00

会場:神奈川県民ホール


9月21日(土)16:30
9月23日(月・祝)16:30

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

オテロ:グレゴリー・クンデ
ヤーゴ:ジェラルド・フィンリー
デズデモナ:フラチュヒ・バセンツ

【入場料[税込]】

S=¥59,000 A=¥52,000 B=¥45,000 C=¥37,000 D=¥30,000

U29シート \8,000  *8/2(金)20:00発売開始

*E,F席は完売しました。