パリ・オペラ座バレエ団 2020年日本公演 新春スペシャル企画 ドロテ・ジルベール 特別インタビュー エモーションを共有する二人観る者の魂を揺さぶる『オネーギン』

パリ・オペラ座のエトワールとは、技術的にも芸術的にもバレエ界のトップに立ち、人々を魅了する存在。
3月の日本公演で『オネーギン』を踊る二人のエトワールへの、大村真理子さんによる現地パリでのインタビューをお届けします。

Photo: Julien Benhamou/OnP

「気持ちが最高にたかぶったところで幕が降りるので、
舞台の後、いつも眠りにつくのが難しいのよ」(ドロテ・ジルベール)

 ドロテ・ジルベールの自叙伝『Etoile(s)』が出版された。 バレエが要求するアン・ドゥオールもしなやかさも不足していた 子供時代から、現在に至るまでが綴られている。行間から溢れ出るのは ダンスへの情熱と愛情。2年前に女優デビューを果たし、円熟の極みにある彼女を『オネーギン』のように演劇的要素の強い作品で見てみたいと思わせる一冊だ。『オネーギン』がパリ・オペラ座のレパートリー入りしたのは2009年で、その折りにマチアス・エイマンとイザベル・シアラヴォラがエトワールに任命され、そしてマニュエル・ルグリが引退した。この時、ドロテはジョゼ・マルティネスをパートナーにタチヤーナを踊った。

——死別の悲劇がバレエ作品には多い中で、『オネーギン』は違いますね。

ジルベール そう、タチヤーナの強い意思によってオネーギンとは結ばれないのですから。彼女って信じられないキャラクターよね。生涯かけて愛している男性なのに結婚しているから、義務があるからといった理由でつっぱねるなんて、私には出来ない。彼女の強さ、勇気…‥狂気の沙汰よ。タチヤーナという女性を崇拝するわ。

——この作品で一番好きなのは第3幕ですか。

ジルベール もちろん!  最後のパ・ド・ドゥはとてもハードなのよ。衣裳を短時間で着替え、夫のグレーミン将軍とも踊って、とここに至るまでに肉体的にも感情的にもすでに疲労困憊。でもこの疲労を利用してエモーションを引き出すの。ドレスは重く、ポルテも簡単ではないのでしっかり準備して、流れるように踊ることによって舞台上では感情だけが見えるように努めています。

——第3幕のタチヤーナはどのように演じますか。

ジルベール 物静かな振付でわかるように、大人の成熟した女性です。人生が築かれ、女性としても際立ち、社会的にも自分の立ち位置がわかっていて…‥。情熱的な愛というのではなくても夫には満足していて、不幸ではない。心の中にオネーギンへの愛があっても、彼の姿が視界から消えてる限りはいいの。ところが再会するや、堰が切れたように思い出が蘇り、情熱に負けてしまいたいと思うのだけど、自分を引き止める規範があり、その両者の間で引き裂かれ…‥なぜ今になって? ああ10年前だったら!!というようにパ・ド・ドゥの振付には怒り、愛情、理性を保とうとする心がこめられています。結局、彼女は彼を拒否することに成功しますね。気持ちが最高に高揚したところで舞台が終わるので、幕が下りても私は完全に空っぽのまま。舞台の後、いつも眠りにつくのが難しいのよ。自分を鎮めるために時間が必要な役です。

——初役は10年前ですね。

ジルベール そう、まだ若い時でこれほど演技を要求される役は初めてだった。でもリハーサルにたっぷりと時間があり、それにオネーギン役がジョゼだったから彼のリードでテクニック面はスムースに進み、その分演技面での仕事に集中しました。とりわけ難しかったのは、最初のシーンね。オネーギンに恋するものの、彼は彼女も含めて周囲の人を無視しているのだから、逸る心、その思いを向ける先がなくって…‥。私を見て! っていいたくなるくらいフラストレーションよ(笑)。それに比べて、3幕目はオネーギンとの間にピンポンのようなやりとりがあるので、そういう点、仕事はずっと楽です。

——第2幕の最後、オネーギンに向けるタチヤーナの視線がとても印象的です。

ジルベール レンスキーとオネーギンの決闘があって、彼女の内側に大きな変化が生じると私は考えているの。パーティーではまだ子供っぽいまま。小説の世界に生き、自分の人生も小説のように進むと信じているピュアでナイーブな女性のまま。ところが決闘ということがあり、愛におふざけなどないのだと事態の重大さを認識したところで、彼女は成長するのです。決闘でレンスキーの命を奪ったオネーギンに、勇気を奮って 視線を向ける。悪意ではなく、彼に罪悪感を持たせる視線を。ここでも彼女は引き裂かれるのです。彼に恋心を抱いているものの、同時に彼に過ちをわからせたいの。オペラ座ではジョゼの後カール・パケット、オドリック・ベザールとも踊りました。日本ではユーゴ・マルシャンとこの作品を踊れるので、とても楽しみにしています。

——彼は相性のよいパートナーなのですね。

ジルベール はい。ユーゴとは仕事の面で理解しあえる関係なんです。役の準備の仕方も同じなら、要求の厳しさも同じ。芸術面への欲も同じなら、音楽の感じ方も同じ。おまけに頑固なところまで一緒だから、理解しやすいの(笑)。アルシミーがあるのね、二人の間には。『マノン』『ロミオとジュリエット』『白鳥の湖』…‥演劇性の高いバレエを一緒に踊るごとにお互いをより深く知る機会となっています。 日本には毎年のように行っているけれど、全幕作品を踊れるのは久しぶり。ストーリーを語ってみせる機会が得られて、とっても幸せです。

パリ・オペラ座バレエ団
2020年日本公演

【公演日】

「ジゼル」全2幕
2月27日(木)19:00
2月28日(金)19:00
2月29日(土)13:00
2月29日(土)18:00
3月1日(日)15:00

「オネーギン」全3幕
3月5日(木)19:00
3月6日(金)19:00
3月7日(土)13:00
3月7日(土)18:00
3月8日(日)15:00

会場:東京文化会館

演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【入場料[税込]】

S=¥26,000 A=¥23,000 B=¥20,000 C=¥17,000 D=¥13,000 E=¥9,000
※ペア割引[S,A,B席]、親子ペア割引[S,A,B席]あり。

★U25シート ¥4,000
※NBS WEBチケットのみで2020年1/24(金)20時より発売。