パリ・オペラ座バレエ団 2020年日本公演 新春スペシャル企画 ユーゴ・マルシャン 特別インタビュー エモーションを共有する二人観る者の魂を揺さぶる『オネーギン』

Photo: Julien Benhamou/OnP

「一人、誰とも話しをせず…‥。
もみあげをつけ、衣裳を着てといった変身の過程が
オネーギンに入っていくことに役立ちます」(ユーゴ・マルシャン)

 2017年3月3日、東京文化会館大ホールで『ラ・シルフィード』のジェイムズ役を踊り、エトワールに任命されたユーゴ・マルシャン。
 初役で踊る『ジゼル』のアルブレヒト、前シーズンのパリ公演で好評を博した『オネーギン』の主人公の2つの役で、約3年ぶりに思い出の劇場に戻ってくる。

——『オネーギン』は踊りたいと願う作品の一つでしたか。

マルシャン はい。僕がまだ24歳と若かったので、コーチのリード・アンダーソンが役の解釈のために多くの手がかりをくれ、導いてくれました。歩き方までも細かくアドバイスをもらいました。大変奥深い役柄なので、この先何度も踊れて、その度に念入りに仕上げ、より良いものにしてゆけるので、オネーギン役に若い時に取り組めたのはとても幸運でした。

——役の解釈のためご自身でどのような仕事を?

マルシャン まずはプーシキンが書いた作品を読み、オペラも見てインスピレーションを得ました。異なるダンサーたちの舞台映像も多数見ましたね。

——オネーギンを形容するとしたら、どんな言葉でしょうか。例えば第1幕の彼は?

マルシャン ひどく陰鬱、非常にロマンティック、ノスタルジック…‥手の届かない何かを探し求めていて、この探求で完全に盲目となっています。それで自分の周囲で起きていること、他の人に注意を払うという余地がないのです。タチヤーナに無関心なのもそれゆえ。意地が悪いのではなく、自分自身にあまりにも興味を持ちすぎている…‥こう僕は考えています。

——そのような人物に入りこむために、舞台に出る前はどのようなことをしましたか。

マルシャン 静けさが必要でした。一人、誰とも話しをせず…‥。もみあげをつけ、衣裳を着てといった変身の過程を経ることも役立ちました。それにチャイコフスキーの音楽がとにかく美しいので、これで役に入り込んでゆけました。オネーギンのコスチュームはケープを含めすべて素晴らしい。大好きです。

——香水に興味があるそうですが、オネーギンはどんな香りをつけていると想像しますか。

マルシャン あ、確かに彼は香水をつけていますね。レザー、そしてペッパー系のけっこう強い香りでしょう。僕の好むタイプではありませんけど。

——第2幕のオネーギンについては?

マルシャン パーティー・シーンなので、第1幕とは別の雰囲気です。 楽しみながらも、邪悪な面がある彼は、タチヤーナの態度にイラついたこともあって、レンスキーの嫉妬をかきたてるんです。この人物はとても複雑。複数の面を持っていて、明解な言葉では形容しきれない。カテゴリーづけできません。それゆえに踊るダンサーによって異なるオネーギンが表現されることになるのです。

——第3幕で彼はまた新たな顔を見せるように思うのですが。

マルシャン 幕間で年をとりますね。人生に痛めつけられ、それゆえに一種の謙虚さを知る人間となっています。若き日々を後悔していて、そこには真の愛情物語を経験していないことも含まれています。 愛情の欠如。彼は愛されたいのです、誰よりもそれを願っているのに、タチヤーナは得られない…‥。

——公演終了後、 抜け出すのが大変な役といえそうですね。

マルシャン 来日公演では、ドロテ(・ジルベール)が僕のタチヤーナ役です。彼女は舞台の上で分かち合うものが大きなパートナー。役の解釈がとても豊かなダンサーなので、エモーションの点でも二人で共有するものがとても大きい。だから東京での彼女との舞台は、僕にとって強烈な体験となるだろうと思います。この役を再び踊れることに満足しています。彼女がパートナーなので素晴らしい公演を日本の観客に披露できることでしょう。僕も初役で踊った時から少しは成長しているように思うし…‥。

——女性ダンサーは出産によって成熟した、とよく語ります。男性ダンサーの場合は?

マルシャン 日々の暮らしですね。さまざまな挑戦をし、へこまされることもあれば、良いことも。人間としての人生、私生活があって、異なるアーティストが育てあげられてゆくのだと思います。また知的、文化的リサーチによっても成熟を得られますね。例えば読書、観劇、音楽、展覧会、それに自然も。こうしたすべてから感動、インスピレーションを得て、心を満たすことでよりパワフルで真摯であることができます。

——ダンスの面ではいかがですか。

マルシャン クリスタル・パイトの『Body and Soul』の創作に参加した際に、腕が長いことが僕の切り札なのだから、羽ばたくように大きく広げて活用しなさい、と言われました。意識してなかったことなので、彼女には感謝しています。

——久々の来日。時間があれば何を?

マルシャン いつも暖かく迎えてくれる日本の観客を前に再び踊る機会を得られ、本当にうれしいです。時間があればカットの良い日本製の服など買い物もしたいし、それにラーメンやお好み焼きといった和食を食べるのも楽しみにしています。おいしいですよね!

パリ・オペラ座バレエ団
2020年日本公演

【公演日】

「ジゼル」全2幕
2月27日(木)19:00
2月28日(金)19:00
2月29日(土)13:00
2月29日(土)18:00
3月1日(日)15:00

「オネーギン」全3幕
3月5日(木)19:00
3月6日(金)19:00
3月7日(土)13:00
3月7日(土)18:00
3月8日(日)15:00

会場:東京文化会館

演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

【入場料[税込]】

S=¥26,000 A=¥23,000 B=¥20,000 C=¥17,000 D=¥13,000 E=¥9,000
※ペア割引[S,A,B席]、親子ペア割引[S,A,B席]あり。

★U25シート ¥4,000
※NBS WEBチケットのみで2020年1/24(金)20時より発売。