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2025/01/07 2025:01:07:14:00:00

バンジャマン・ベルナイム 公演評紹介ーその2 ノートルダム大聖堂再開記念の祝典に寄せて
まもなく日本初となるソロコンサートのために来日する世界的テノール、バンジャマン・ベルナイム。昨年12月、ノートルダム大聖堂の再開記念の祝典にも出演し、『アヴェ・マリア』(シューベルト作曲)を歌って会場を沸かせたのは記憶に新しいところです。
この記事ではフランスを代表する有力紙『フィガロ』に掲載された評、さらにインタビューの一部をご紹介します。ベルナイムの真摯な人柄が伝わってくるインタビューをぜひご一読ください。

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photo_CYRIL MOREAU  BESTIMAGE


ノートルダム大聖堂再開の式典は、瞑想に満ちたこの夜の偉大な栄光として記憶され続けるだろう。ノートルダム大聖堂聖歌隊の熱気と正確さ、そして均質性の際立った歌唱に彩られたが、テノール歌手バンジャマン・ベルナイムの歌唱は、それに続くコンサートのハイライトのひとつであり続けるはずだ。大聖堂内で撮影された彼の瞳は半分閉じられ、謙虚でありながら目に見えて感動的であり、オリンピックの閉会式ですでに頭角を現していた彼は、シューベルトのアヴェ・マリアを控えめに美しく繊細に歌い上げた。オーケストラの伴奏は、ベネズエラ出身の指揮者グスターボ・ドゥダメルによってこの場と瞬間の荘厳さを演出した。

Si la cérémonie de réouverture fut marquée par les prestations remarquables de ferveur, de justesse et d'homogénéité de la Maîtrise de Notre-Dame de Paris, qui restera sans nul doute comme la grande héroïne de cette soirée pleine de recueillement, la prestation du ténor Benjamin Bernheim demeurera comme l'un des temps forts du concert qui suivait. Filmé à l'intérieur même de la cathédrale, les yeux à demi clos, tout en humilité mais visiblement habité, celui qui s'était déjà distingué lors de la cérémonie de clôture des JO a livré un Ave Maria de Schubert en retenue et en belle délicatesse. Accompagné par un orchestre philharmonique de Radio France transporté aussi bien par la solennité du lieu et du moment que par la direction très investie du chef vénézuélien Gustavo Dudamel.

【以下はインタビューの抜粋】

―オリンピックの閉会式で歌ったその3か月後にこうした大きなイベントに参加したことはあなたにとってどのような意味がありましたか?
この上なく光栄に思います。自国のためにこの数か月のうちに2度も特別な、そして喜ばしいイベントで歌う機会をいただけたことは、大きなチャンスであり、全人類において意味のあるものだと感じました。大聖堂に入り最初に頭に浮かんだのは、自分がいかにこの聖堂に対してちっぽけであるかということ。物理的なモニュメントの大きさに対してだけでなく、改修とこの再開に向けた、全人類的であり集団的な途方もない冒険に対して自分がいかに小さな存在であるかということです。世界中がまだ2019年のあの悲劇を脳裏に記憶しています。それぞれが明確にあのときあの場所で何が起きたのかを覚えています。国境を越えて私たちにとってノートルダム大聖堂がどのような意味を持つのかを考えさせました。火事の後の数か月、海外での公演のたびに、同僚たちがこの悲劇に対して関心と同情を私に語りかけてくれたことも、私にノートルダムの存在についてを意識させました。この大いなる哀しみに対し、決意をもって臨んだ人々の団結と、何世紀にもわたる技術的なノウハウと希望が、この大いなる喜びをもたらしたのです。

―シューベルトのアヴェ・マリアを歌って何を感じましたか?
まず感じたのは大いなる謙虚さです。あの場で私はもはやオペラ歌手ではなく、ただ自分自身のみ、バンジャマンでしかありませんでした。最上の自分をささげるということが、ノートルダム大聖堂がふたたび生き返ることに尽力したすべての皆様へのオマージュになると思いました。事件当時炎のなかで懸命に闘った消防士たちや再建に向け昼夜問わず修復に取り組んだ職人たち、見放すことなくこのプロジェクト完遂に向け取り組んだ政治家たち、再建に向け大小問わず寄付をしてくださった庇護者の皆様。哲学的とも言っていいほどの大きな意味がここにはありました。現代性やテクノロジーにとらわれがちな今日に、この過去の遺物をよみがえらせようと皆が尽力したのですから。火事で焼け残った部分と生まれ変わった部分が示すその歴史は、この大いなる森ともいうべき建物がどのようにして生命を取り戻したのかを感じさせ、私を揺さぶりました。それゆえに、本番前この建物に歌うために入った時、自然をこみあげてくる感情がありました。

―どのようにシューベルトのアヴェ・マリアを選んだのですか?
テレビ局や教会側などさまざまな方々と話し合ったうえでの選択です。聖母マリアに関する作品を選びたい、そしてなにより誰もが知っている曲にしたいと自然と思っていました。捧げる歌でありながら大衆的な、誰もが一度は聴いたことがある曲。こうした宇宙規模の壮大さがこのノートルダム大聖堂の再開に合うのではないかと。このイベントは、大聖堂が人々が集う場所であり、また戻ってくることのできる場であることを皆様に思い出していただく機会だと思ったのです。ここは信者のみならず、あらゆる人々が集うことができる場所なのです。
また、アヴェ・マリアは私が歌の勉強をしていた時とても親しんでいた曲でもありました。ルチアーノ・パヴァロッティの録音をよく聴いていたのです。

―聴衆がいない、とても反響する空間をどのように使いましたか。
私は若いころやスイスで学生時代を送っていたころ、よく教会で歌っていました。けれども、ここの真新しく磨かれた石や聴衆が全くいない椅子のみが並ぶこの巨大な空間では、これまで経験したことがないかたちで音が吸い込まれていきます。ですがこの空間が生み出す魔法と一緒に演奏してくれた音楽家たちの笑顔が私に技術的な側面を忘れさせてくれ、謙虚で内省的なトーンを見つけることに集中することができました。 

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