2025/07/11 2025:07:11:14:22:19[NBS最新情報]
今夏最大規模のバレエ公演〈バレエ・スプリーム〉。本公演ではA~Cの3つの魅力的なプログラムを上演しますが、本日より毎週金曜日、3週間にわたってそれぞれのプログラムの見どころと出演者や演目の魅力を高橋森彦氏(舞台評論家)にご紹介いただきます。
まずはAプログラム。Aプログラムでは英国ロイヤル・バレエ団より10名の精鋭が集い、バレエ団のDNAでもあるマクミランやアシュトンの作品を中心とした"ロイヤル・スタイル"を存分に披露します。高橋氏の語るAプログラムの魅力とは? ぜひご一読ください。

Aプロには日本でも絶大な人気を誇る英国ロイヤル・バレエ団の精鋭が集う。演目は、お家芸のフレデリック・アシュトン、ケネス・マクミランによる演劇的バレエ、古典名作、現代の佳編により構成。日本に居ながらロンドンの風を感じ、夢気分を味わえるだろう。
アシュトン振付「真夏の夜の夢」は、英国が誇る文豪シェイクスピアの戯曲のバレエ化。妖精たちと人間が織り成す痛快喜劇を、メンデルスゾーンの音楽にのせて情趣豊かに描く。この度上演される妖精の王オベロンと女王タイターニアが終幕で踊るパ・ド・ドゥの振付は、優雅にして繊細で奥深いニュアンスが秘められた"ロイヤル・スタイル"の最たるもの。フランチェスカ・ヘイワード、ウィリアム・ブレイスウェルが表情豊かに踊るはずだ。
同じくアシュトン振付「リーズの結婚」は、のどかな農村を舞台にした喜劇。母親から金持ちの農園主の息子との結婚を迫られる娘リーズと恋人コーラスの恋模様が微笑ましい。カンパニー屈指の若手成長株であるヴィオラ・パントゥーソ、五十嵐大地による、若々しく、いきいきとした踊りを存分に楽しめるだろう。
マクミラン振付「マノン」より第1幕の出会いのパ・ド・ドゥは、アヴェ・プレヴォーの小説「マノン・レスコー」を土台にした傑作の名場面の一つ。自由に生きる美しい少女マノンと純朴な青年レスコーが運命の出会いを果たすシーンの踊りで、マスネの「エレジー」に導かれ両者の胸のときめきが手に取るように伝わる。サラ・ラム、ウィリアム・ブレイスウェルという、麗しさと役を生き抜く表現力を兼備した名手の妙演に期待したい。
数ある古典バレエの中でも無類に楽しく華やかなのが「ドン・キホーテ」(振付:マリウス・プティパ)。スペインを舞台にキトリとバジルの恋物語が繰り広げられ、終幕の二人の結婚式は幸福感に満たされる。華麗な跳躍や回転技といった超絶技巧尽くしのグラン・パ・ド・ドゥを披露するのは、マヤラ・マグリ、セザール・コラレス。ともにラテンの血を引くテクニシャンかつ魅せることに長ける俊英なので圧倒的興奮は約束されたも同然だ。

ワディム・ムンタギロフ
「海賊」(振付:マリウス・プティパ)も盛り上がること必至である。ギリシャの娘メドーラと海賊の首領の奴隷アリによるパ・ド・ドゥは、高難度の美技のつるべ打ち。それを踊るのが金子扶生、ワディム・ムンタギロフなのが興味深い。金子はプリンセスやドラマティックな役柄の印象が強く、ムンタギロフは当代随一の貴公子として名高い。その彼らの、また違った一面に接することができるのだ。
ロマンティック・バレエ「ジゼル」(振付:ジャン・コラーリ、ジュール・ペロー)は永遠の名作。村娘ジゼルを愛しながら裏切った貴族アルブレヒトは後悔し、ウィリ(精霊)となったジゼルを訪ねるため、夜の森へとあらわれる。マヤラ・マグリ、マシュー・ボールという、心技体ともに充実した表現者による精神性の深い舞台に引きこまれるだろう。
数ある古典のグラン・パ・ド・ドゥにおいて、若いダンサーが弾ける魅力を衒いなく発揮できるのが「パリの炎」(振付:ワシリー・ワイノーネン)だろう。フランス革命を題材とした全幕バレエのハイライトで踊られる、少女ジャンヌと義勇軍の兵士フィリップによるグラン・パ・ド・ドゥ。ヴィオラ・パントゥーソ、五十嵐大地が爽やかに踊るに違いない。
20世紀の巨匠ジョージ・バランシンが1928年、バレエ・リュス(ロシア・バレエ団)のために振付した「アポロ」はギリシャ神話に基づく。音楽はストラヴィンスキー。審美的な美しさが際立つ、バランシンの新古典主義の時代の代表作の一つ。このほど金子扶生、ワディム・ムンタギロフが初めてミューズとアポロに挑み、透徹した造形美を体現する。

金子扶生
21世紀の名作も見逃せない。英国ロイヤル・バレエ団のアーティスティック・アソシエイトを務めるクリストファー・ウィールドンによる二作品である。ウィールドンは「不思議の国のアリス」「冬物語」などの大作でも知られるが、音楽性豊かで絶美な一幕ものも多い。
「アフター・ザ・レイン」はウィールドンの2005年初演作品で、その後半部を上演。アルヴォ・ペルトの名曲「鏡の中の鏡」とともに紡がれる詩的なデュエットだ。サラ・ラム、マシュー・ボールが、現代バレエにおいて研ぎ澄まされた表現力を示すことを目の当たりにできるだろう。

マシュー・ボール
「ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー」は、ウィールドンの2008年初演作品で、クリムトの絵画から着想。2019年に英国ロイヤル・バレエ団が上演する際に改訂した。エツィオ・ボッソ、ヴィヴァルディの弦楽曲にのせ7組が変幻自在に踊り、光彩に富む。今回はパ・ド・ドゥの一つをフランチェスカ・ヘイワード、セザール・コラレスが滋味深く踊る。
"スプリーム"すなわち「最高の」「至上の」バレエをお届けする〈バレエ・スプリーム〉の幕開けを飾るにふさわしい、心浮き立つステージとなるだろう。開幕が待ち遠しい。
文:高橋森彦(舞台評論家)
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