夢フェスト30
ヨーロッパを席巻する、マラーホフ率いるドイツ最大のバレエ団! 華やかな全幕バレエと感動のドラマティック・バレエを携えて再来日!
ベルリン国立バレエ団 2011年日本公演








引き裂かれた魂。心に迫る叫び。圧倒的な演技! こんなマラーホフは、見たことない!
「チャイコフスキー」 全2幕
TCHAIKOVSKY A ballet in two acts
振付・演出:ボリス・エイフマン 音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー 装置・衣裳:ヴァチェスラフ・オクネフ 照明:グレーブ・フィルシュティンスキー
バレエの代名詞である「白鳥の湖」や「眠れる森の美女」の作曲家として有名なチャイコフスキー。その豊かな才能の泉から湧き出る美しい音楽とは裏腹に、苦悩と孤独感に苛まれた内なる魂をマラーホフが渾身の演技で表現し、絶賛を浴びた舞台がついに日本に登場します。 死の淵にあるチャイコフスキー。その不明の意識の中にさまざまな情景が去来します。サンクトペテルブルクの街、白鳥たちの幻想、寝室…そこに現れるのは、文通を通してチャイコフスキーを励まし援助したフォン・メック夫人。心が離れたまま苦痛の種となった妻。理想と情熱の結晶である“王子”。そしてチャイコフスキーに寄り添いながらも、彼を挑発し混乱をもたらす、もう一人の自分─アルター・エゴ。交響曲5番や6番「悲愴」、「弦楽セレナーデ」などの名曲にのせて、エイフマンの振付特有のアクロバティックなダンスが舞台を満たす中、マラーホフが強烈な存在感と圧倒的な演技で、引き裂かれた芸術家の内面をみごとに描き尽くします。それまでのバレエの貴公子からは「想像がつかない俳優としての成熟を果たした」とまで激賛され、彼の大芸術家への転機ともなったこの舞台を見逃すと、生涯に悔いを残します!
photo : Sandra Hastenteufel、Enrico Nawrath
[使用楽曲(すべてP.I.チャイコフスキー作曲)]
第1幕: 交響曲第5番 ホ短調 op.64 第1楽章、第2楽章、第3楽章 聖ヨハネス・クリュソストムスの典礼 op 41 第6楽章 交響曲第5番ホ短調 op 64 第4楽章 第2幕: 弦楽セレナード ハ長調 op 48 第2楽章、第3楽章 イタリア奇想曲 イ長調 op 45 交響曲第6番「悲愴」 ロ短調 74 第4楽章
CAST
チャイコフスキー 分身/ドロッセルマイヤー フォン・メック夫人 チャイコフスキーの妻 王子(若者/ジョーカー) 少女 1月20日(木) 6:30p.m. ウラジーミル・マラーホフ ヴィスラウ・デュデク ベアトリス・クノップ ナディア・サイダコワ ディヌ・タマズラカル ヤーナ・サレンコ 1月22日(土) 3:00p.m. ウラジーミル・マラーホフ イブラヒム・ウェーナル エリサ・カリッロ・カブレラ ナディア・サイダコワ マリアン・ヴァルター セブネム・ギュルゼッカー 1月23日(日) 3:00p.m. ウラジーミル・マラーホフ ヴィスラウ・デュデク ベアトリス・クノップ ナディア・サイダコワ ディヌ・タマズラカル ヤーナ・サレンコ
※上記の配役は2010年9月5日現在の予定です。バレエ団の都合、ダンサーの怪我等の理由により変更になる場合がありますので、あらかじめご了承ください。変更に伴う払い戻し、他日への振替には応じかねます。正式な発表は公演当日になります。
STORY
第一幕
偉大なる作曲家がこの世を去ろうとしている。彼の力は衰えゆき、彼を生涯苦しめてきた光景が次々と目に浮かぶ。狂気の妻が差し向けた邪悪な妖精カラボスに取り憑かれているのだ。身をすり減らすような自己との対話が続く。 魂に安らぎはない。近しい者たちは友人も親族も、彼の最期の時をなんとか楽にしてやろうとするが、過去からの情景が湧き上がるのを止めることはできない。 若き作曲家はたった一人でサンクトペテルブルグの冷たい雨に打たれている。フォン・メック男爵夫人の優しさと心遣いだけが、彼に束の間の慰めを与えてくれる。夢の世界に生きる男の人生は苦しみに満ちていた。現実に戻ろうとして、彼はアントニーナ・ミリュコワと知り合う。彼女はチャイコフスキーの目に留まったことを喜ぶ。しかし、この甘く短い日々は結局、彼をほとんどノイローゼも同然にしただけだった。 自らを騙すことはできない。それは暴力行為に等しい。 邪悪な黒鳥の思いが彼を苦しめ、彼の内なる精神をずたずたにする。救われる道は創造すること。曲をつくり、白鳥をつくることだ。そう思うとチャイコフスキーの魂は安らぎと調和への希望に溢れた。だが、現実の世界を捨て去り、自分自身の本質をも欺こうとするのは、音楽の天才をもってしても叶わぬことであった。 ここで再びミリュコワが彼の音楽の世界に土足で踏み込んでくる。しかし、ミリュコワよりもっと恐ろしいのは、彼とつねに共にいた人物だ。それは彼の運命、彼の第二の「自己」。彼の内なる苦しみを容赦なく暴き立てる多面的な人格である。いわばロットバルトとドロッセルマイヤーである。善と悪。チャイコフスキーの魂がもつ悩める部分と幸福な部分だ。 激情の渦の中で、黒鳥は白鳥を追い払う。見慣れた女性の顔がねずみのように見える。調和も、幻想も、何もかもが踏みにじられる。だが、作曲家は自分が最も愛する創造物を守る。王子だ。 チャイコフスキーは、荒れ狂う黒い激情を恐れているわけではない。彼の苦しみは別のところにあった。美女は傲慢で感謝を知らない。彼のむき出しの魂はたやすく傷つけられてしまう。作曲家の理性と情熱が生み出した王子は、自らの命を得て、自らの道を歩み始める。作曲家は苦痛とともに残され、自己との対話に向き合う。彼には屈することもできなければ、音楽にすがることもできない。 彼は狂気の瀬戸際にあった。しかしフォン・メック夫人の手紙が彼を救い、再び作曲の仕事へと彼を引き戻す。彼は人々から求められ、その才能は賞賛を勝ち得る。世間から評価されるという素晴らしい瞬間。 だが、自分自身とも周囲の人々とも一体になれたその日々のなんと短く、はかなかったことか。ミリュコワの要求はますます執拗になり、内なる誘惑に背を向けているのがしだいに難しくなっていく。これまで禁じてきたものや軽蔑してきたものへの憧れの念に逆らえなくなっていく。ほかの人と同じようにふるまい、ごく普通の生活を送ることは苦しみでしかない。その苦しみから解き放ってくれるものは死だけだ。 しかし、彼にはその救いの道に進む決心がつかない。フォン・メック夫人が支援の手を差し伸べてくれるか、新たな作品が完成するかすれば、死の足かせから逃れられるが、おそらくはもっと恐ろしい運命が待っている。 彼の体は花嫁のベールにくるまれ、縛られ、彼の魂から彼らしさが奪われる。 彼が再び作曲をする日はくるのだろうか。
第二幕
彼のもとに音楽が戻ってくる。 知り合い、夢中になり、情熱を傾けるという発見のワルツ。円舞するカップル。どちらもそれぞれの人生と運命を抱えながら。フォン・メック夫人は孤独感に苛まれていた。チャイコフスキーの頭の中では、彼は美貌の女性を手に入れ、それを楽しんでいる。ところが現実の彼は、世間からまったく顧みられていない男。やむにやまれぬ肉体の命令が時代の道徳性とぶつかり合う。それでも彼は若さと美を追い求めずにいられない。しかし、自分の情欲を正直に打ち明けたところで理解が得られるとはかぎらない。かつての王子がそうだったように、理想と若さもその創造者を見捨てる。乙女の官能はあまりに魅惑的で、その先に失望が待っているようには思えない。彼らはわが道を行く。混乱と恥辱に苦しむチャイコフスキーの叫びには耳を貸さずに。彼の運命は孤独である。フォン・メック夫人の精神的・物質的な援助によって彼は命をつないでいる。だが、金持ちの気まぐれに頼らざるを得ないことがどれだけ屈辱的か。情けを受けるために嘘をつくことがどれだけの犠牲を払っているか。 浅ましいミリュコワは正気を失い、忌まわしい激情に身を任せる。この深みから抜け出さなければ、彼はもう戻ることができない。彼には自らの人生を歩んでいく権利があった。たとえその行き着く先が破滅であろうとも。 賭博の世界は不思議な力で人を引きつける。カードは人を成功させもすれば、滅ぼしもし、幸福と苦痛をもたらす。世界はカードテーブルの大きさに縮んだ。願いはただひとつ――激情を押し切り、勝つこと。すべてを忘れる日々。だが、幸運は続き、勝つのはいつもスペードの女王だ。 交流の手紙は途絶える。フォン・メック夫人にすべてを打ち明ける手紙を出したのだ。彼の魂は引き裂かれ、一組のカードのようにばらばらになる。救われる道は死のみ! 永遠の世界へと足を踏み出すのだ!