バレエ・リュスがモンテカルロを本拠にしてから100年。最先端の美が日本上陸!
鬼才ジャン=クリストフ・マイヨー率いる
モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団
2012年日本公演
あこがれの都モンテカルロから 世界に発信される美しくも先鋭的なダンス!
20世紀初頭に新しい時代のバレエの舞台を鮮やかに示して世界に衝撃を与えたバレエ・リュス。その創造的な精神を受け継ぎ、現代のバレエ・シーンの最先端をリードするモンテカルロ・バレエ団が、3年ぶり6度目の来日を果たします。 モンテカルロ・バレエ団を率いるのは振付家のジャン=クリストフ・マイヨー。クラシック・バレエ、そしてバレエ・リュスを経由した20世紀以降のバレエの伝統を踏まえながら、同時代の舞台芸術を創造する姿勢とその振付作品は高い評価を獲得しつづけています。その英気あふれる振付家のもとには、マイヨーのミューズとして知られ、2009年の世界バレエフェスティバルにも出演したベルニス・コピエテルスをはじめ、流麗なダンスと美を体現する優秀なダンサーが集まっています。 今回日本で上演されるのは、このバレエ団の伝統であるバレエ・リュスへのオマージュとして創作された「シェエラザード」「ダフニスとクロエ」、そして緻密な美意識に貫かれた「アルトロカント1」の3作品によるAプロ、そしてプロコフィエフのおなじみの音楽にのせて、愛をさがすヒロインの物語が、その母(=仙女)と父との物語と交錯しながら新鮮な心温まる語り口で描かれるBプロ「シンデレラ」。伝統と革新を旨として活動するモンテカルロ・バレエ団の魅力がぞんぶんに味わえる2つのプログラムにどうぞご期待ください!
「アルトロカント1」 Photo : Marie-Laure Briane
ジャン=クリストフ・マイヨー率いる 気鋭バレエ団による話題作!
紺碧の地中海を望む美しい小国、モナコ。20世紀初頭、舞台芸術の世界に旋風を巻き起こしたディアギレフのバレエ・リュスが1911年に拠点を置いたのが、此処モンテカルロだった。ベル・エポックと呼ばれた時代。フォーキンが、ニジンスキーが活躍し、パリ・オペラ座と同様ガルニエの手になる絢爛としたモンテカルロ劇場で新作が上演された。第一次大戦と1929年のディアギレフの死でその活動は途絶えたが、1936年には、フォーキン、マシーンを中心にモンテカルロ・バレエ団が設立され、その後も、モンテカルロには革新を恐れない特別な舞踊文化が息づいてきた。 現在のモンテカルロ・バレエ団は、その伝統を踏まえ、カロリーヌ公女の支援の下に1985年に改めて創設された。同バレエ団を、バレエ・リュスという過去の栄光へのオマージュではなく、創造によってその精神を引き継ぐという理想の下に新鮮に脱皮させたのが、1993年に芸術監督に就任したジャン=クリストフ・マイヨーである。ハンブルグ・バレエ出身で、創意に満ちた美しい作品で定評があり、伝統を踏まえながらも、自由な発想で創造に取り組みバレエ団の新たな個性を世界に認めさせた。 多様化するバレエ表現のなかでネオ・クラシックと位置づけられるマイヨーの振付は、ある意味で抑制的だ。抽象的な作品、シンフォニック・バレエ、古典の改訂など作風は多岐にわたるものの、端正で流麗な動きはバレエの基本にのっとり、最先端の美術と才気に富む振付が融合して現代の総合芸術としてのバレエの魅力を開花させる。 今回の来日公演では、マイヨーの創作を多面的に紹介する格好のプログラムが組まれている。Aプロでは、バレエ・リュスの旗揚げから百年を祝い、2009年末から一年をかけて開催されたバレエ・リュス記念プロジェクトで生み出されたマイヨーの最新作二本が本邦初演される。 お洒落で官能的なのが、マイヨー版の『ダフニスとクロエ』。総合芸術としてバレエを捉える彼の考え方がよく反映されている。創作のテーマとして官能性に関心を持つマイヨーは、 幼い恋がエロス神の導きで成熟するまでを描くギリシャ神話の物語に魅了された。登場人物を主人公二人と恋の手ほどきをする男女に絞り、踊りの背景ではフランス人画家エルネスト=ピニョン・エルネストの手で愛の情景が同時進行で描き出されていく。マイヨーならではの才気溢れる構成で、2次元の視覚芸術である絵画と舞台上に立体的に立ち上がる舞踊によって主題である官能性が重層的に追求されていく。自らの官能の目覚めに戸惑いながら成熟していく純真な恋人達の振付が愛らしく、恋の手ほどきをする成熟した二人との二重写しのパ・ド・ドウには牧歌的詩情も漂っていた。 マイヨー版『シェエラザード』は、彼らしい原作へのオマージュ。リムスキー=コルサコフの名曲にのって後宮の宴が描かれるものの、マイヨー版では官能の描写が主眼ではなく、後宮という閉塞空間に捕らえられたサルタンの愛妾ゾベイダと奴隷を“囚われ人”として考えていることが特徴的だ。ゾベイダの心理へと分け入り、死と隣り合わせの官能の極致で得られる“自由”に光をあてているかに見える。エネルギッシュなダンスの饗宴の彼方に魂の叫びを聴き取るかどうかは、観客の見方に委ねられている。 美術のエルネスト、衣裳のカール・ラガーフェルドというコラボレーターの力を借りてそのコンセプトが具現化されたのが、『アルトゥーロ・カント1(もうひとつの歌)』(2006)だ。モンテヴェルディほかの静かな旋律にのって、燭台の灯に揺れて男女のアンサンブルが踊る。ミニ・スカート姿の男性と女性、ズボン姿の女性と男性。社会的な記号による性別を消して、人間本来が有するもうひとつの性を浮き上がらせる。ダンサー達の手で中空に浮遊する身体は宗教的な聖性も帯びる。 Bプロの『シンデレラ』は、マイヨーが情熱を傾ける古典の改訂の代表作だ。単純なお伽噺とはせず、奥行のある人生の物語として語られる。亡き母(仙女)と父の愛にも焦点があてられ、二人の印象的なパ・ド・ドウも踊られ、シンデレラは素足で登場する。交錯する二つの愛が余韻を生み、斬新な美術と新鮮な振付が古典を現代へと引き寄せる。 作品を生かすのは、マイヨーを触発し、刺激してやまないミューズ、ベルニス・コピエテルスをはじめ個性的な精鋭ダンサーたち。常に「極上」を目指すマイヨーの世界を楽しみたい。 (立木燁子・舞踊評論家)
芸術監督・振付:ジャン=クリストフ・マイヨー
「シェエラザード」
「ダフニスとクロエ」
Photo : Marie-Laure Briane