「ファウスト」全5幕

C.F.グノー作曲
「ファウスト」全5幕

(上演時間約3時間40分 休憩1回含む)

指揮 :アントニオ・パッパーノ
演出 :デヴィッド・マクヴィカー
©ROH/Bill Cooper, 2014

あらすじ

16世紀のドイツでの物語

老学者ファウストは、学問など無駄だったと嘆き、毒を飲もうとしている。そこに悪魔メフィストフェレスが現れ、欲しいのは金か名誉かと聞く。失った青春の快楽を望むファウストに、メフィストフェレスはそれを与える代償として死後の魂をわたすように言う。ためらうファウストだったが、美しい娘マルグリートの幻影に魅せられ、悪魔との取引に応じる。薬を飲んだファウストは一瞬で若者になる。

祭りで賑わう広場。ヴァランタンは明日戦地に向かうが、一人残していく妹マルグリートを心配している。そこにメフィストフェレスがやって来て人々に近づくが、悪魔であることがばれて退散する。一方ファウストはマルグリートに愛を告白。しかし慎み深く断られる。

ファウストとメフィストフェレスはマルグリートの家の前に宝石の入った箱を置く。マルグリートは美しい宝石を見て驚く。隣人のマルトと話しているところにファウストとメフィストフェレスが戻って来る。ファウストはマルグリートを、メフィストフェレスはマルトを、それぞれ口説く。頑ななマルグリートも、最終的にファウストの愛を受け入れる。

ファウストの子どもを身ごもったマルグリートが教会で祈っている。去って行ったファウストを忘れられずにいるマルグリートを悪魔たちの合唱が包む。

広場には兵士たちが集まっている。ヴァランタンも帰って来たが、妹が未婚の母になったことを知って激怒する。マルグリートへの行いを後悔するファウストだが、妹を弄んだことに怒るヴァランタンとは決闘となる。悪魔の力を借りたファウストに負け、ヴァランタンは命を落とす。

ファウストはワルプルギスの夜の騒ぎのなかに連れて来られる。ファウストは踊る美女たちのなかにマルグリートの幻影を見る(バレエの場面)。

ファウストはマルグリートのもとへ。彼女は生まれた子どもを殺した罪で囚われている。二人は再会を喜ぶが、マルグリートはすでに正気を失っていた。ファウストとメフィストフェレスは、マルグリートを牢から逃れさせようとするが、彼女はそれを頑なに拒む。やがてマルグリートの魂は昇天し、メフィストフェレスは大天使ミカエルの前に倒される。

©ROH/Bill Cooper, 2014
©ROH/Bill Cooper, 2014
©ROH/Bill Cooper, 2014
©ROH/Catherine Ashmore, 2011

見どころ&ききどころ

 オペラ『ファウスト』には、コンサートで単独でとりあげられるアリアがいくつもあります。“フランス近代歌曲の父”と呼ばれた作曲家グノーらしいといえるでしょう。また、このプロダクションでは、演出家マクヴィカーによるアイデアが作品の魅力を倍増しています。ここだけは逃さないで! (このプロダクションの設定は、1870年代のパリ)

第1幕

「私に快楽を!」は、ファウストが長らく秘めてきた願望を流麗な旋律に乗せて情熱的に歌いあげる最初の聴きどころです。悪魔との契約を結んだファウストが一瞬にして青年に変身するのもみどころの一つ。

第2幕

出征を控えたヴァランタンが歌う「祖国を離れる前に」は、のこしていく妹マルグリートを案じる歌。

メフィストフェレスが歌う〈金の小牛のロンド〉。金の小牛は神に対抗する邪教のシンボルであり、その周りで踊り狂う者たちの音頭をとるのが悪魔なのだ、とメフィストフェレスの邪悪な本性を表します。

踊り子たちが楽しげに踊り歌う〈ファウストのワルツ〉は管弦楽曲として演奏されることも多い一曲。このプロダクションでは、マルグリートは「キャバレー地獄」のウェイトレスという設定です。

第3幕

ファウスト、マルグリートの聴かせどころが続々! 「この清らかな住まい」はマルグリートへの愛慕の情を抒情の限りを尽くして歌うファウストの聴かせどころ。マルグリートが歌う〈トゥーレの王の歌〉は素朴なバラードふうの歌で、途中にレチタティーヴォ的な呟きが挟まれます。この後に歌われる〈宝石の歌〉はコロラトゥーラの技巧も要求される華麗なアリア。マルグリート役最大の聴かせどころです。

第4幕

オルガンの鳴る厳かな教会で繰り広げられるのは、マルグリートを地獄に落とそうするメフィストフェレスと敬虔なマルグリートの迫真の戦い。ゾクゾクさせられます。

帰還を喜ぶ兵士たちの合唱「武器を捨てよう」は勇壮で軽快な行進曲。

第5幕

ワルプルギスの夜に連れて来られたファウストの目の前で繰り広げられる「ジゼル」ふうのバレエにはお腹の大きいバレリーナや、死んだはずのヴァランタンが登場し、果ては乱痴気騒ぎへ。マルグリートの幻影を見たファウストは、彼女への想いを募らせます。

子どもを殺した罪で処刑されるマルグリートが繋がれた牢獄で悔恨の涙にくれるファウストと再会したマルグリートが歌うのは情熱的な愛の二重唱「わが心は恐れでいっぱいだ」。緊迫した「早く、早く!」は、彼女を逃がそうとするファウストとメフィストフェレスとそれを拒むマルグリートの三重唱。安らかな響きに幕が閉じるとき、マルグリートの魂の救済を表します。