2022/12/07(水)Vol.459
2022/12/07(水) | |
2022年12月07日号 | |
TOPニュース インタビュー オペラ |
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オペラワルトラウト・マイヤー |
写真提供:ワルトラウト・マイヤー
松田暁子さんによる電話インタビューをご紹介する2回目は、『ばらの騎士』のオクタヴィアンを歌わなくなった時のこと、『ローエングリン』のオルトルートや『トリスタンとイゾルデ』のイゾルデを歌うことになったきっかけなど、マイヤーのオペラ歌手としての魅力をご存じのファンにとっては興味深い内容です。また、リートについても、自身のキャリアを重ねるとともに熟成してきたことがうかがわれます。
――これまでのキャリアのなかで、同じオペラや歌曲でも歌う時(ご自身の年代やキャリア)によって変わられることがあるでしょうか。"今ならでは"の新たな発見や解釈があれば教えていただけますか。
マイヤー:私は1976年にデビューし、最初のころは『ばらの騎士』のオクタヴィアンをかなりの回数歌っていて、とても好きな役でしたが、ある時、シュツットガルトでゲッツ・フリードリヒのとても良い演出の『ばらの騎士』で、急にこの役はもう自分ではないと、舞台に立って感じたのです。自分の中にオクタヴィアンを感じられなくなったのです。この役はもう私ではないと。
またその反対に、オルトルートの役は、長く歌っていませんでした。私はオルトルート役はすごく叫んでばかりで自分の声をダメにすると思っていたのです。ある時、メゾ・ソプラノ歌手の(ゲオルギーネ・フォン・)ミリンコヴィッツ、日本では知られてないでしょうか、もうだいぶ前に亡くなっていますが、彼女に言われたのです。「どうしてオルトルートを歌わないの?」と。「オルトルートはとてもいい役で素晴らしく歌える役よ」と。かなり考えて勉強して歌ってみると、本当に私の声に合った良い役で、役柄としては悪者ですが、私はその後長くこの役を歌い続けられました。
2011年バイエルン国立歌劇場日本公演
『ローエングリン』
Photo: Kiyonori Hasegawa
それから、『トリスタンとイゾルデ』もそうです。私は長い間ブランゲーネを歌っていましたが、ある日、マエストロ・バレンボイムが「何故イゾルデを歌わないのか?」と聞いてきました。「イゾルデは私は歌えない」と答えたのですが、「そんなことないよ、やってみたら」と言われ、その後4年間、時々は数カ月間も放っておいたこともありましたがイゾルデに取り組み、4年間かかりましたが、やっと自分に確信をもって歌うことができました。日本でも聴いていただきましたね。
2007年ベルリン国立歌劇場日本公演『トリスタンとゾルデ』
Photo: Kiyonori Hasegawa
――リートでもそのような例はありますか?
マイヤー:"今ならでは"という具体的な例はないのですが......、リートを歌う時は、その歌詞を読み返し、その詩をよく味わってから歌うようにしています。すると、言葉の素晴らしさを再発見できます。そうそう、シューマンの「女の愛と生涯」を最初は私はとてもロマンティックに歌っていました。久しぶりにこの歌を歌った時に、歌詞を読み返し、ただロマンティックに歌うのではなく、もっと現代の女性として歌ってみようと思い、ピアニストのブラインルと一緒に"現代風"解釈で歌ってみて、それは聴衆の方々にも受け入れていただけた手ごたえがありました。
――オペラのレパートリーやリートを選ばれるときの基準は何でしょうか?
マイヤー:まず、自分の声で歌えるかどうか?は、当然の基準ですが、でも、リートでは私の声に合うように移調できることも多いです。オペラの場合は、その人物を私が興味深いと感じるかどうかが大事な基準です。その人物に自分がなり切って演じられるかどうか。善良な人物でなくてもいいのです、例えばオルトルートのような悪役でも。ドイツの諺に「その人の靴を履いてみるまでは、決してその人を評価してはいけない」というのがあります。オペラの中のその人物の靴を自分が履いてみたいかどうか、ということなのです。つまり、その人物になり演じたいかどうか、それが大事です。舞台では、私はその人物になりきって歌い演じています。
――あなたの舞台を見ていると、まさにそう感じます。
マイヤー:そのように私の舞台から感じてくだされば嬉しいです。リートでは、その詩が私の心に響き、共感できることが大事です。
2005年のリサイタルより
Photo: Kiyonori Hasegawa
――これまでの来日の中で、特に印象に残っていることがあれば教えてください。
マイヤー:たくさんあり過ぎて、日本が大好きで、どうしてももう一度日本に行きたかったんです。とにかく人々が親切で素晴らしい。コンサートでは、とっても熱心に聴いてくださり、内容を事前にちゃんと準備して来て下さるから、すごいです。それは素晴らしいことですが、逆に心配になるくらいですよ、間違えないように......とか(笑) 日本人の方は、オペラにもリートにも造詣が深く、とっても素晴らしい観客です! それと、私は和食が大好きで!それも、すごく楽しみです。コンサートの後1週間は日本に滞在して、日光、箱根、それから奈良や京都にももう一度行きたいと思っています。
――これからの計画、歌手として、あるいは歌手活動以外でのプランはありますか?
マイヤー:あまり計画は立ててないのです。声楽を教える先生には私は全く向いていないので。忍耐がないのですよ!(笑) でも、マスタークラスなら、少しやってもいいかなと思っています。でも、これまでずっと、あっちこっち劇場を回り、旅をして歌ってきましたから、そういうこと一切なしに、静かに家にいる生活をしてみたいのです。ミュンヘンの新しい家が気に入っていますから、ここで次の予定なく、ゆっくり過ごしてみたいのです。
――日本の観客へのメッセージをお願いいたします。
マイヤー:日本の観客の皆さまに、お会いできるのがとても楽しみです。コロナ感染がまだありますが、ぜひとも皆さまに私の日本での最後のコンサートに来ていただきたいです。これまでの長い間、いつも私のファンでいてくださった皆さま、皆さまのことを思うと心が温かくなります! ありがとうございます!
インタビュー:松田暁子(ドイツ語通訳)
*ワルトラウト・マイヤー ロング・インタビュー(1)はこちらから
2023年
3月14日(火)19:00
会場:サントリーホール
ピアノ:ヨーゼフ・ブラインル
共演:サミュエル・ハッセルホルン(バリトン)
S=¥16,000 A=¥14,000 B=¥11,000
C=¥8,000 D=¥7,000 P=¥5,000
U25シート=¥2,500
*ペア割引[S,A席あり]
※予定される曲目については下記をご覧ください
https://www.nbs.or.jp/stages/2023/waltraud-meier/