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2023/07/05(水)Vol.473

金森穣インタビュー(後編)
東京バレエ団「かぐや姫」全幕上演に向けて
2023/07/05(水)
2023年07月05日号
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金森穣インタビュー(後編)
東京バレエ団「かぐや姫」全幕上演に向けて

東京バレエ団「かぐや姫」全3幕完結に向けて取り組む金森穣インタビュー後編では、3年がかりでの取り組みがどのように進められてきたかなどが語られています。
(前編はコチラから)

「日本最古の小説から、21世紀らしい多角的な物語を立ち上げようという試みです。本番を誰よりも待ちかねているのは、私自身かもしれません」

――3年がかりで1幕ずつ、という前例のない制作も、いよいよ終盤です。変則的なスケジュールは、創作自体にも影響しましたか。

金森:クリエーションの途中で、物理的にも心理的にもその作品から引き離されることは、めったにありません。別の作品に取り組んでいる時に、ふと「かぐや姫」のアイディアが降りてきたりするんですよ。それをすぐに稽古場へ持ち込めないもどかしさは、やはりありました。そこでアイディアは、浮かんだ端から書き出すようにした。従来にないプロセスでした。

――観客にとっても創作の過程を同時並行で目撃できるのは、またとない体験でした。

金森:作品と距離ができると、冷静な判断が働くのは確かです。その賜物として、衣裳と美術を刷新することになりました。
第1幕は初め、日本昔話のようなテイストでしたよね。しかし、もう少し抽象化しても、この物語は伝わるだろう......むしろ、国や時代設定、文化的な背景は削ぎ取ったほうが強度は増すと、第1幕の2日目を見て確信したのです。そもそも友佳理さん(斎藤芸術監督)からの依頼は、「世界へ発信する」作品。舞台に日本的なるものがあるとしたら、それは自ずとにじむ精神的な何かであり、表層的な着物や小道具ではないはずです。結果として1年半後の第2幕は、SF的とも言える、抽象度の高いこしらえになった。作品のメッセージや美的感性が強まり、普遍性を獲得できたのではないでしょうか。

――踊り手も、金森メソッドを習得したNoismのダンサーではありません。東京バレエ団のダンサーを使うことで、設定や振りは変わりましたか。

金森:かぐや姫はこうやって大人になるんだ、とか、翁は意外とこんな面もあるよね、とか。舞踊家としての彼らから受け取るものは大きく、そこがクリエーションの醍醐味でもある。構想は当初から変わっていませんが、深まりはしたと思います。

2021年初演第1幕の舞台より
Photo: Shoko Matsuhashi

――コール・ド・バレエの見応えも本作の特長ですね。第1幕は、海から竹やぶに変わる女性の群舞。第2幕では、美しいかぐや姫を宮廷に迎えて色めき立つ男性陣に迫力がありました。

金森:全幕物でこれだけの大人数を動かしたのは初めてです。東京バレエ団は男性も多いので、人海戦術のダイナミズムは、ぜひ出したかった。
役名のない人も少なからず踊る機会や、そこにいる必然性はあってほしいというのが、創作の大前提です。「かぐや姫」は、私が続けている「劇的舞踊」シリーズに連なる作品ですが、舞台に出ている全員にその役ならではの存在感がないと、ドラマは立ち上がりません。

2023年4月初演第2幕の舞台より
photos: Shoko Matsuhashi

――金森さんは、言語での表現力も卓抜しています。個別に役の背景や場面の意味を丁寧に伝えてから、振付に入るのでしょうか。

金森:「こういう役なので、このように表現してほしい」といったことは、原則として伝えません。説明すれば皆、器用に応えてくれるでしょうが、自ら感じ、考え、動いてもらわないと、目指すところへたどり着けないのです。
例えば第3幕に、かぐやと帝の場面がある。帝から何かグレーな色が見えたとして、それは演者自身の気配感というか、曲を聴いて身体からにじみ出てくるものですよね。「今、帝は悲しい」と言葉にするより、本人から出てきたものをつかむ方が強い。人間的な本質から出てくる寂しさとかわびしさみたいなものをすくい上げて昇華する......そんな方法を採っています。
この場面で、二人は孤独を共有はしますが、関係が発展することはありません。帝はぐるぐると、かぐやの周りを巡っている。それは個と個の縮まらない距離であり、過ぎゆく時のメタファーでもあります。

リハーサルより
Photos: Shoko Matsuhashi

――さまざまなテーマが「巡る」物語とも言えますね。

金森:ご覧になる方の人生観や死生観によって、受け取るものが変わってくるのでは。日本最古の小説から、21世紀らしい多角的な物語を立ち上げようという試みです。
第1幕を世に問うてからおよそ2年を経ての全幕上演。小出しにしているわけではなく、振付家本人もまだ全体を見ていない。本番を誰よりも待ちかねているのは、私自身かもしれません。

インタビュー・文 齊藤 希史子(バレエライター)

(前編はコチラから)

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東京バレエ団 創立60周年記念シリーズ1
「かぐや姫」全3幕 世界初演
演出振付:金森穣

東京公演

10月20日(金)19:00
10月21日(土)14:00
10月22日(日)14:00

会場:東京文化会館(上野)
*音楽は特別録音の音源を使用します。

予定される配役

かぐや姫: 秋山 瑛(10/20、10/22)
足立 真里亜(10/21)
道児: 柄本 弾(10/20、10/22)
秋元 康臣(10/21)
翁: 木村 和夫
影姫: 沖 香菜子(10/20、10/22)
金子 仁美(10/21)
帝: 大塚 卓(10/20、10/22)
池本 祥真(10/21)

入場料[東京公演・税込]

S=¥14,000 A=¥12,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
*文化庁 劇場・音楽堂等の子供鑑賞体験支援事業
★18歳以下限定・子ども無料招待 詳細はこちら
*ペア割引[S,A,B席]あり
*親子割引[S,A,B席]あり

新潟公演

12月2日(土)16:00
12月3日(日)14:00

会場:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館〈劇場〉

予定される配役

かぐや姫:秋山 瑛
道児:柄本 弾
翁:木村 和夫
影姫:沖 香菜子
帝:大塚 卓

入場料[新潟公演・税込]

SS=¥12,000 S=¥8,500 A=¥5,500
U25シート=¥2,000

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