NBS News Web Magazine
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
NBS日本舞台芸術振興会
毎月第1水曜日と第3水曜日更新

2023/12/20(水)Vol.484

〈旬の名歌手シリーズ2024〉
フアン・ディエゴ・フローレス、プリティ・イェンデの魅力
2023/12/20(水)
2023年12月20日号
TOPニュース
オペラ

〈旬の名歌手シリーズ2024〉
フアン・ディエゴ・フローレス、プリティ・イェンデの魅力

フローレスとイェンデ 傑出した二人は相性も抜群
2024年でいちばん濃い時間が待っている

第二次大戦後に登場したテノールのなかで、とくにすぐれた歌手はだれかと問われれば、私は迷わずルチアーノ・パヴァロッティとフアン・ディエゴ・フローレスの名を挙げる。では、二人のどちらがよりすぐれているか。タイプが異なり、優劣を語るのは難しいが、はっきりいえることがある。フローレスは19世紀に存在し、いったんは「絶滅」した由緒正しいベルカント・テノールの再来で、その点においてここ100年、あるいはそれ以上の歴史を眺めて、ほかに例を見ない傑出した存在だということである。
知的で精密な歌唱、銀の輝きを帯びたエレガントなフレージング、羽毛のような肌触りの弱音、カタルシスが得られる爽快な高音。それだけでもきわめてハイレベルだが、それだけではない。小さな音符の連なりを敏捷に駆け抜けるように歌う、アジリタと呼ばれる装飾歌唱において、群を抜いている。跳躍と下降を自然に繰り返しながら、驚くべきなめらかさでアジリタを歌いこなす。
こうした歌唱は、1810~20年代に、ナポレオンにも喩えられるほどヨーロッパを席巻したロッシーニのオペラで、とくに要求される。フローレスの登場後、世界中の主要劇場でロッシーニのオペラが掘り起こされ、それに観客が興奮した。過去100年以上、だれも伝えられなかった作品の魅力を、フローレスが卓越した歌唱で存分に伝えたからにほかならない。
こう書くと、フローレスを「ロッシーニ・テノール」と思うかもしれないが、それは一部しか当たっていない。過去にこの水準の歌手がいたとは到底思えないのがフローレスのロッシーニで、聴けば常に興奮させられる。だが、フローレスを正確に表現するなら、「ロッシーニの難曲も完璧に歌えるテノール」ということになる。
ドニゼッティやベッリーニの時代も、ヴェルディの時代も、プッチーニの登場後も、彼らが作曲したオペラを歌った歌手は、卓越したロッシーニ歌いであることが多かった。高難度のロッシーニをも歌いこなせるから、後輩作曲家たちのオペラに、作曲家が求める強弱や色彩、ニュアンスを加え、柔軟に表現しつつ美しく造形できたのである。

Photo: Javier del
Photo: Graff

イェンデは神のようなフローレスの女性版

私はもう二十数年、「追っかけ」と呼んでもいいほどフローレスを聴いてきた。当初はロッシーニを歌うことが多かったが、声の成熟にしたがってレパートリーを広げている。フローレスが歌うとマスネ『ウェルテル』にせよプッチーニ『ラ・ボエーム』にせよ、聴き慣れた曲にあたらしい発見がいくつも得られる。
たとえば、2023年4月には、ミラノ・スカラ座で『ランメルモールのルチア』のエドガルドを聴いたが、レガートの旋律にこれほど多彩なニュアンスを込め、入り組んだ感情を同時に描けることに驚愕した。そのうえ音楽の品位は、すぐれたテノールたちが束になっても敵わないほど高い。
コンサートではそういう体験を、多様なスタイルの曲を通じて、何とおりも味わえる。フローレスを聴けるだけでも、ほんとうに特別な機会なのに、何重にも特別なのがこのコンサートだと思う。
しかも、ソプラノのプリティ・イェンデとのデュオ・コンサートまで用意されている。イェンデの特徴を一言で表すなら、フローレスのソプラノ版である。湧き上がる豊かな声をどの音域でも均質に響かせながら、細かく連なる音符も正確無比に駆け抜け、付加される超高音はキラキラと輝く。彼女もまた久しく失われていたテクニックを存分に習得しており、いかようにも披露できる。
ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバルでフローレスと共演した『リッチャルドとゾライデ』では、二人の相性も抜群で、どれほど恍惚の境地に誘われたことだろう。そして、ベッリーニ『清教徒』などでは長いレガートの旋律に、金色に輝くような声を横溢させる。
私は以前から、イェンデが早く来日してほしいと公言してきた。それがやっと実現する。しかもフローレスという特別な歌手と、相性も抜群のフローレスと一緒に歌う。客席には2024年でいちばん濃い時間が訪れることを信じて疑わない。

香原斗志(オペラ評論家)

公式サイトへ チケット購入

NBS旬の名歌手シリーズ2024-l
フアン・ディエゴ・フローレス テノール・コンサート

公演日

2024年
1月31日(水)19:00

会場:東京文化会館

指揮:ミケーレ・スポッティ
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

入場料[税込]

S=¥25,000 A=¥22,000 B=¥18,000
C=¥14,000 D=¥12,000
U25シート=¥5,000
*ペア割引[S,A,B席]

※プログラムについてはコチラをご覧ください。
https://www.nbs.or.jp/stages/2024/singer/01.html

公式サイトへ チケット購入

NBS旬の名歌手シリーズ2024-ll
フアン・ディエゴ・フローレス&プリティ・イェンデ オペラ・デュオ・コンサート

公演日

2024年
2月4日(日)15:00

会場:東京文化会館

指揮:ミケーレ・スポッティ
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

入場料[税込]

S=¥29,000 A=¥26,000 B=¥23,000
C=¥19,000 D=¥15,000
U25シート=¥6,000
*ペア割引[S,A,B席]

※プログラムについてはコチラをご覧ください。
https://www.nbs.or.jp/stages/2024/singer/02.html