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Photo: Julia Wesely

2024/12/04(水)Vol.507

バンジャマン・ベルナイム スペシャル・インタビュー(後編)
2024/12/04(水)
2024年12月04日号
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Photo: Julia Wesely

バンジャマン・ベルナイム スペシャル・インタビュー(後編)

1月開催の日本初となるコンサートに向け、ベルナイムが自身の芸術観を語ったインタビューの後編をお届けします。
後編では自身のレパートリーの核となるフランス・オペラの魅力、自身の声への向き合い方などをたっぷりと語りました。

「私にとって一番重要なのは、音楽や音色を超えて、"物語"を伝えることです」

――フランス・オペラにとても力を入れていらっしゃいますが、あなたにとって、いま最も重要な役柄はなんでしょうか?

ベルナイム:それはとても難しい質問ですね。もし『マノン』、『ウェルテル』、『ホフマン物語』、『ロメオとジュリエット』の中から1作品を選んでほしいと言われたら、私は一つだけ選ぶことはできません。この4つの作品の役柄は私にとって非常に重要で、私のレパートリーの中心であると言えると思います。どの役柄もまったく違った個性があります。
私が大切だと思うのは、フランスの国外にフランスの作品を伝えていくこと。フランス・オペラを歌うスタイルを「輸出」することです。多くの国でフランス文化は愛されています。日本も、アメリカも、フランス贔屓です。南米でもフランスの文化を人々はとても愛しています。私にとっては、ヨーロッパの外に、フランスのレパートリーを持っていき、観客とコミュニケーションをとることが大切です。観客はフランス・オペラへの嗜好を持っていると思います。

2024年のパリ・オリンピックの閉会式で「アポロへの賛歌」(ガブリエル・フォーレ作曲)を歌うベルナイム
photo: Paris Olympics 2024 PA Media - Alamy

――フランス・オペラを自国を代表する文化の1つととらえていらっしゃるのですね。

ベルナイム:ええ、ですから私が日本に行くのは必然でした。なぜなら、たくさんの日本の友達や同僚がいて、いかにフランスの文化が日本で愛されているかを教えてくれたからです。日本では、フランスの文化、料理、ファッション等に対して嗜好があるからです。"フランスもの"はとても好意的に受け入れられていて、私のフランスのレパートリーを日本でも、アメリカでも、南米でも持っていくことが私の義務だと感じています。「フランス」という商標は世界でとても効果的なのです。イタリア・オペラだけを持っていくのは人々が愛している曲なので簡単ですが、私はフランス・オペラも持ってきたい。
忘れられがちですが、パリは1世紀以上にわたって欧州において「舞台芸術の中心地」でした。ドイツやイタリアやスペインや英国の作曲家はパリに行き、自分たちの作品を披露する必要があった。プッチーニは彼の『蝶々夫人』の最終版をパリで仕上げました。ヴェルディは彼のほとんどすべてのオペラをパリに持っていきました。彼の作品は、フランス語に訳されたのです。当時は、フランスの観客が作品を認めることが非常に重要だったのです。フランス文化が世界中で愛されているので、私にとってフランス・オペラを世界に持っていくことは大変重要なのです。

――コンサートで共演するマルク・ルロワ=カラタユーさんは、あなたが音楽やメロディーだけではなく、特に「テキスト(歌詞)」に献身していると称賛していました。フランス・オペラを歌うにあたって、言葉や響きをどのように活かすことを意識されていますか?

ベルナイム:ロシア語でも、イタリア語でも、ドイツ語でも、フランス語でも、どんな言語のオペラを歌う時でも、すべては歌詞からはじまるのです。『ホフマン物語』はドイツで生まれたフランス人の作曲家であるオッフェンバックが作曲しました。生まれた時、彼はドイツ人だったのです。テキストは幻想文学の作家であるE.T.Aホフマンのものです。『ウェルテル』の原作はゲーテです。『ロメオとジュリエット』はシェイクスピアの戯曲から来ています。『マノン』はフランスの物語で、アベ・プレヴォーの作品です。歌詞は伝えるべき物語をもっています。私にとって一番重要なのは、音楽や音色を超えて、"物語"を伝えることです。どんな言語のオペラであっても、すべての基本、音楽の前にあるのは歌詞であり、物語を伝えるというところから始まっているのです。ですから、物語を歌で伝える前に、私はまず歌詞を読んで、どのようにその物語が語られているのか(を考え)、歌詞を通して伝えるのです。
最近録音した私のフランス歌曲のアルバム『Douce France』はいい例です。今回フランスの歌曲のほか、ポピュラー音楽も録音しましたが、ポピュラー音楽を歌う時でも私は声を変えません。いつも基本にあり、大切なのは歌詞です。いつだって「歌詞」、「歌詞」、「歌詞」!なのです。それはテキストに私の声を妥協させるということではありません。お伝えしたいのは、私は歌詞と物語を中心に据え、観客と歌詞を通し、一緒に物語を旅することを望んでいるのです。

『マノン』のデ・グリュー役を歌うベルナイム(パリ・オペラ座)
Photo: Julien Benhamou-OnP

――歌と演技の関係をどのようにお考えですか? オペラの舞台で演技・表現をすることをどのようにとらえていらっしゃるのでしょう?

ベルナイム:それは役柄によります。私がロメオを歌う時、私はとても若い男性です。ロメオは生命に溢れ、光に溢れています。ロメオはとても扇動的で、とても美しく、若い汗をかき、愛と情熱に溢れています。ウェルテルは苦悩し悩める存在です。ホフマンも同じで、彼はあまり幸せな人間ではありません。とても悩める存在です。ですから、舞台上でただ立つにしても役柄によって演技は変わってきます。ロメオやデ・グリューは美しく明るい主人公ですが、一方で、ホフマンやウェルテルはもっとダークで憂愁に満ちた存在です。舞台上で歩いたり、走ったり、誰かと腕を組んだりするという同じ動作でも、変わってくるのです。演じるキャラクターとその視点が変わってくるからです。舞台で長い期間をかけて歌って、時に若く、時に成熟して、時としてノスタルジックに、また落ち込んだ姿が表現できるように、俳優として学ぶ必要がありました。『愛の妙薬』のネモリーノを歌う時は演技の色彩が違います。ネモリーノはとても素朴な男性で、希望に溢れて、恋人のアディーナへの愛に溢れていますが、彼は知識人ではありません。教育を受けておらず、心を言葉で伝えることが得意ではないのです。一方で、ロメオやデ・グリューは高度な教育を受けた若い男性です。美しい文化に囲まれて育ち、高い学歴を享受し、詩を習得しています。ですからこうした違った役柄を歌う時は、身体的な表現や、他者に対する態度が変わっていきます。

『ロメオとジュリエット』のロメオ役を歌うベルナイム(パリ・オペラ座)
Photo: Vincent Pontet-OnP

――最後に. 日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

ベルナイム:皆さまにお会いすることをとても楽しみにしています。これが皆さまとの、とても長く良い関係のはじまりとなり、これから日本に何度も訪れることが出来ることを願っています。観客の皆さまに、私自身と、私が歌うものを好きになっていただき、私も時間をかけて日本のお客さまがなにを好きなのかを知っていき、より良いレパートリーや曲目を披露していきたいと思っています。私は日本の文化を愛しているので、来日を楽しみにしています。日本はヨーロッパからはとても遠いですが、日本の文化や人々のことをたくさん聞いていて、滞在中に日本の文化をもっと知ることを本当に楽しみにしています。

[前半はこちらから]

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NBS旬の名歌手シリーズ―Ⅺ
バンジャマン・ベルナイム テノール・コンサート

公演日

2025年
1月14日(火)19:00 東京文化会館(上野)
1月19日(日)15:00 サントリーホール(六本木)

指揮:マルク・ルロワ゠カラタユー
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

入場料[税込]

S=¥18,000 A=¥16,000 B=¥14,000
C=¥12,000 D=¥9,000 P=¥6,000(1/19サントリーホールのみ)
U25シート=¥3,000
*ペア割引[S,A,B席]

※プログラムについてはコチラをご覧ください。
https://www.nbs.or.jp/stages/2025/tenor-concert/

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