今秋の来日公演で歌う選りすぐりの歌手たちを音楽評論家の奥田佳道さんの解説でご紹介します。11月6日(日)から始まるワルキューレに出演する5人の歌手のプロフィールを5回にわたってお送りしています。
ミヒャエラ・シュースター Michaela Schuster
(「ワルキューレ」メゾソプラノ/フリッカ)
「フリッカ」役は十八番!愛すべき"舞台女優"
2006年、アダム・フィッシャー指揮「ワルキューレ」のジークリンデでウィーン国立歌劇場にデビューし、翌年からウィーンではフリッカを持ち役としているミヒャエラ・シュースターが、十八番を携えて東京のステージに立つ。彼女はもちろん「ラインの黄金」のフリッカもレパートリーにしている。今年は「ローエングリン」のオルトルートも歌った。
Photo:Nikola Stege
ドイツ・バイエルン州フュルト出身。ザルツブルクのモーツァルテウム音楽大学とベルリン芸術大学で学ぶ。1999年から2002年までダルムシュタット州立歌劇場に所属し、当初はフランス並びにイタリア・オペラで頭角を表す。
シュトゥットガルト州立歌劇場などでフリッカのほか、「パルジファル」のクンドリ、「トリスタンとイゾルデ」のブランゲーネ、「タンホイザー」のヴェーヌスを手がけ、ワーグナー歌いとしての評価を確立。ミュンヘンのバイエルン国立歌劇場、ドレスデン、ベルリン、ハンブルク各国立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、ブリュッセルの王立モネ歌劇場、オスロのノルスケ・オペラ(国立歌劇場)、バルセロナのリセウ歌劇場、シカゴ・リリック・オペラへの客演も好評を博した。ロンドンのロイヤル・オペラハウスでは「サロメ」のヘロディアス、「エレクトラ」のクリテムネストラも歌った。
2013年春、ザルツブルク復活祭音楽祭での「パルジファル」のクンドリで存在感を醸す。クリスティアン・ティーレマン指揮ドレスデン国立管弦楽団との共演。パルジファルは、先ごろ51歳で召されたヨハン・ボータだった。
愛すべき「舞台女優」ミヒャエラ・シュースターは、今年初めにもウィーンでフリッカを歌った。冬以降は「ヘンゼルとグレーテル」のお菓子の魔女を任されている。マーラーの交響曲第3番やドイツ・ロマン派歌曲のCDも素晴らしい。
今秋の来日公演で歌う選りすぐりの歌手たちを音楽評論家の奥田佳道さんの解説でご紹介します。11月6日(日)から始まる「ワルキューレ」に出演する5人の歌手のプロフィールを5回にわたってお送りしています。
クリストファー・ヴェントリス Christopher Ventris
(「ワルキューレ」テノール/ジークムント)
イギリスが世界に誇るヘルデン・テノール
今年1月、ウィーン国立歌劇場でのジークムントで大喝采を博したヴェントリスが、この役で東京のステージに舞い戻ってくる! もちろんウィーンで指揮をしたアダム・フィッシャーも一緒だ。叙情美も烈しい情趣もお任せあれの、今をときめくヘルデン・テノール(ワーグナーの上演に適した英雄的な声のテノール)で味わう「ワルキューレ」。期待は限りない。ジークムントは昨年6月にサー・サイモン・ラトル指揮のウィーン国立歌劇場で、この夏にはマレク・ヤノフスキ指揮によるバイロイト音楽祭でも歌っている。
イギリス出身。グラインドボーン音楽祭でデビュー後、オペラ・ノース、イングリッシュ・ナショナル・オペラで頭角を表す。2004年バーデン・バーデン祝祭劇場でのケント・ナガノ指揮ベルリン・ドイツ響、レーンホフ演出の「パルジファル」で脚光を浴びた。
その後、ウェルザー=メスト指揮チューリヒ歌劇場での「ピーター・グライムズ」、ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管、オランダ・オペラでのショスタコーヴィチの「ムツェンスク群のマクベス夫人」のセルゲイで喝采を博すとともに、ワーグナーの主要なレパートリーをヨーロッパ、アメリカの主要オペラハウス、フェスティヴァルで歌う。
現代最高峰のワーグナー・テノールで、前述のマエストロのほか、これまでにロリン・マゼール、クリスティアン・ティーレマン、セミヨン・ビシュコフ、ハルトムート・ヘンヒェンなどの指揮者と共演。ワーグナー以外でも「魔弾の射手」のマックス、プフィッツナーの「パレストリーナ」、ヤナーチェクの「イェヌーファ」のシュテヴァ、「ボリス・ゴドゥノフ」のドミトリーも得意のレパートリーだ。
あらためて記す。今、ワーグナーのジークムント、パルジファル、それにローエングリン、タンホイザー、エリックと言えば、イギリスが世界に誇るテノール、クリストファー・ヴェントリスの出番となる。
今秋の来日公演で歌う選りすぐりの歌手たちを音楽評論家の奥田佳道さんの解説でご紹介します。11月6日(日)から始まる「ワルキューレ」に出演する5人の歌手のプロフィールを5回にわたってお送りしています。
このヴォ―タンを聴かずして、「ワルキューレ」を語ることはできない
トマス・コニエチュニー Tomasz Konieczny
(「ワルキューレ」(バス・バリトン/ヴォータン)
ワーグナーのバス・バリトンと言えば、アルベリヒとヴォータンで世界のファンを魅了しているトマス・コニエチュニーだ。特にこの人のヴォータンを聴かずして、昨今の「ワルキューレ」を語ることは出来ないのではないか。
Photo: Michael Poehn
1972年ポーランド出身。同国唯一の映画アカデミーで演劇を学び、オスカー(アカデミー賞)受賞歴もあるアンジェイ・ワイダ監督の<鷲の指環>で映画界にデビューした経歴をもつ。テレビや映画の俳優、ディレクターとして活動した後、ワルシャワのショパン音楽院とドレスデンの音楽大学で声楽を学ぶ。
1997年、母国を代表する商工業都市ポズナニの歌劇場での「フィガロの結婚」でデビュー。翌年、チェコの温泉保養地カルロヴィ・ヴァリ(カールスバート)で開催された第33回ドヴォルザーク国際声楽コンクールに入賞し、マンハイム国民歌劇場やライン・ドイツ・オペラと専属契約を交わした。2006年以降アダム・フィッシャーが指揮する<ブダペスト ワーグナーの日またはワーグナー・イン・ブダペスト音楽祭>に度々出演。2008年にはドレスデン国立歌劇場でも成功を収めた。ミュンヘン、パリ、シカゴにも客演。
2008年4月、「ジークフリート」のアルベリヒでウィーン国立歌劇場にデビュー。フランツ・ウェルザー=メストの指揮だった。以来ウィーンでは「ニーベルングの指環」の諸役を任されている。アルベリヒは徐々に卒業するとのこと。「ワルキューレ」のヴォータンは、ウェルザー=メスト、ジェフリー・テイト、コルネリウス・マイスター、サー・サイモン・ラトル、アダム・フィッシャーの指揮で歌っている。