今秋の来日公演で歌う選りすぐりの歌手たちを音楽評論家の奥田佳道さんの解説でご紹介します。
今回から5回にわたってお送りするのは「ワルキューレ」に出演する5人の歌手です。
抜群の存在感と練達のキャリアを誇る、ワーグナー歌い
ペトラ・ラング Petra Lang
(「ワルキューレ」メゾソプラノ→ソプラノ/ジークリンデ)
Photo: Ann Weitz
ワーグナーの楽劇にマーラーの交響曲。抜群の存在感、練達のキャリアを誇るドイツの名歌手で、レパートリーも声の領域も広大。今年は飯守泰次郎指揮新国立劇場で「ローエングリン」のオルトルートを、夏にはクリスティアン・ティーレマン指揮、カタリーナ・ワーグナーの演出による「トリスタンとイゾルデ」を歌った。イゾルデは初役。同作品では、これまでブランゲーネがレパートリーだった。
いっぽう、東京でも歌ったオルトルートは、2013年から15年にかけてアラン・アルティノグル指揮、ハンス・ノイエンフェルス演出のバイロイト音楽祭でも歌っている。
フランクフルト出身。ヴァイオリンを学んだ後、声楽をダルムシュタットとマインツで学び、バイエルン国立歌劇場のオペラ・スタジオに参加した後、スイスのバーゼル、ドイツのニュルンベルク、ドルトムント、ブランシュヴァイク各歌劇場で頭角を表す。ワーグナーをレパートリーの中心に据えたのは、1994/95年のシーズン以降で、「神々の黄昏」のヴァルトラウテ、「ラインの黄金」のフリッカで賞賛を博す。ほどなく「パルジファル」のクンドリ、「タンホイザー」のヴェーヌス、そして「ワルキューレ」のジークリンデを手がける。クンドリは2002年にゲルト・アルブレヒト指揮の読売日本交響楽団創立40周年記念公演の「パルジファル」でも歌った。
これまでにベルリン・ドイツ・オペラ、ミュンヘンのバイエルン国立歌劇場、ドレスデン国立歌劇場、ウィーン国立歌劇場(2002年にフリッカでデビュー)、パリ国立歌劇場、チューリヒ歌劇場、イタリア各地、さらにシカゴ・リリック、サンフランシスコなどで活躍。2012/13年のシーズンには、マレク・ヤノフスキ指揮ベルリン放送交響楽団、ジョナサン・ノット指揮のバンベルク交響楽団で「ワルキューレ」のブリュンヒルデを歌い、こちらも賞賛に包まれた。
今秋の来日公演で歌う選りすぐりの歌手たちを音楽評論家の奥田佳道さんの解説でご紹介します。
今回から5回にわたってお送りするのは「ワルキューレ」に出演する5人の歌手です。
現代最高峰のドラマティック・ソプラノがワーグナーオペラ日本初登場
ニーナ・シュテンメ Nina Stemme
(「ワルキューレ」ソプラノ/ブリュンヒルデ)
Photo: Neda Navaee
現代最高峰のドラマティック・ソプラノで、2006年に母国スウェーデンの宮廷歌手、2012年にはウィーン国立歌劇場から宮廷歌手に叙せられている。レパートリーは広く、ワーグナーやリヒャルト・シュトラウスの主役は申すに及ばず、「フィガロの結婚」の伯爵夫人、「フィデリオ」のレオノーレ、「運命の力」のレオノーラ、「仮面舞踏会」のアメーリア、プッチーニの「西部の娘」のミニーに「トスカ」「トゥーランドット」、グノー「ファウスト」のマルグリート、チャイコフスキー「エフゲニ・オネーギン」のタチアーナ、それに「こうもり」のロザリンデも素晴らしい。
ストックホルム出身。王立オペラのスタジオと王立音楽大学で学ぶ。1989年、イタリアはトスカーナ州のコルトーナでケルビーノ(メゾソプラノ)でデビュー。相前後してプラシド・ドミンゴ主催のコンクールとBBCのカーディフ国際声楽コンクールに入賞した。
2000年、「さまよえるオランダ人」のゼンタを歌ってメトロポリタン・オペラにデビュー。2003年にはグラインドボーン音楽祭で「トリスタンとイゾルデ」のイゾルデを歌い、いずれもセンセーションを巻き起こす。2004、5年に行なわれた同曲のCD録音──サー・アントニオ・パッパーノ指揮ロイヤル・オペラハウス管弦楽団、ドミンゴ、藤村実穂子、ルネ・パーペ、オラフ・ベーア、イアン・ボストリッジが出演──にも参加した。イゾルデは、2005年のバイロイト音楽祭へのデビューでも歌っている。2010年、クラウディオ・アバド指揮のルツェルン音楽祭で「フィデリオ」のレオノーレを歌い、こちらもレコーディングされた。ヨナス・カウフマンとの共演だった。
ウィーン国立歌劇場へのデビューは2003年のゼンタで、「指環」の要ブリュンヒルデはもちろん最重要レパートリーのひとつだ。メトロポリタン・オペラでのエサ=ペッカ・サロネン指揮のエレクトラと、サー・サイモン・ラトル指揮のイゾルデも彼女に託された。
今秋の来日公演で歌うのは選りすぐりの歌手たちです。音楽評論家の奥田佳道さんに、まず「ナクソス島のアリアドネ」に出演する歌手4人を解説していただきました。
ヴェッセリーナ・カサロヴァ Vesselina Kasarova
(「ナクソス島のアリアドネ」作曲家役)
名舞台、名録音は枚挙にいとまがない、メゾ・ソプラノの女王カサロヴァ
バロック、モーツァルト、ロッシーニ、ベッリーニ、それにフランス物で世界を魅了してきたメゾソプラノの女王カサロヴァが、ウィーン国立歌劇場の「ナクソス島のアリアドネ」とともに帰ってくる! 歌うはこの機智に富んだオペラ前半の鍵を握る作曲家。喜びを隠せないオペラ好きも多いのではないか。
ブルガリア出身。ピアノのディプロムを取得後、18、9歳から声楽を学ぶ。1989年、彼女の録音を聴いたヘルベルト・フォン・カラヤン(1908~1989)が共演を希望したが、カラヤンの急逝で実現しなかった。
同年チューリヒ歌劇場のメンバーに迎えられる。1991年にはザルツブルク音楽祭にモーツァルト「皇帝ティトの慈悲」のアンニオでデビュー、賞賛を博す。コリン・デイヴィスの指揮だった。同年ウィーン国立歌劇場に「セビリャの理髪師」のロジーナでデビュー。その後ザルツブルク音楽祭でマリリン・ホーンの代役で「タンクレディ」を歌い、声価を高めた。
2003年以降、ザルツブルク音楽祭ではニコラウス・アーノンクール指揮するウィーン・フィルと「皇帝ティトの慈悲」のセスト!を歌った。レッシュマン、ガランチャ、ボニーらとの共演は映像化されている。
バロックのオペラも十八番でグルックの「オルフェとエウリディーチェ」、ヘンデルの「アルチーナ」の騎士ルッジェーロ、「アリオダンテ」などを手がけてきた。
チューリヒ、ウィーン、ミュンヘン、ザルツブルク、パリ...。名舞台、名録音は枚挙にいとまがない。2008年以降「カルメン」、サン=サーンスの「サムソンとデリラ」のほか、「ドン・カルロ」のエボリ公女、「こうもり」のオルロフスキー、さらにバルトークの「青ひげ公の城」のユーディットを歌っている。
2014年秋にバーデンバーデンで録音されたロシア・オペラ名曲選(ムソルグスキー、チャイコフスキー、グリンカ、リムスキー=コルサコフほか)もカサロヴァの新境地を示す。ウィーン国立歌劇場宮廷歌手。
photo: Andre Springer
9月3日(土)10:00より第2次発売開始!
今秋の来日公演で歌うのは選りすぐりの歌手たちです。音楽評論家の奥田佳道さんに、まず「ナクソス島のアリアドネ」に出演する歌手4人を解説していただきました。
ダニエラ・ファリー Daniela Fally
(「ナクソス島のアリアドネ」ツェルビネッタ役)
センセーションを巻き起こした現代最高峰のコロラトゥーラ・ソプラノ
現代最高峰のコロラトゥーラ・ソプラノ。「ナクソス島のアリアドネ」のツェルビネッタ、「アラベラ」のフィアカーミリ、ヴェルディ「仮面舞踏会」のオスカル、オッフェンバック「ホフマン物語」のオランピアと言えば、近年ファリーだ。
オーストリア・ニーダーエーステライヒ州出身の若きソプラノで、ウィーン国立音楽演劇大学などでヘレーナ・ラザルスカやエディット・マティスに学ぶ。2006年、「こうもり」のアデーレでエバーハルト・ヴェヒター賞を受賞。同年暮れ、フィアカーミリでウィーン国立歌劇場にデビューし、センセーションを巻き起こす。そして2009/10年のシーズンから同歌劇場と専属契約を結ぶ。それ以前はウィーン・フォルクスオーパーの名花でもあった。
ウィーンのほかザルツブルク音楽祭、ミュンヘン・オペラ音楽祭、バイエルン国立歌劇場でツェルビネッタ、アデーレ、フィアカーミリ、それに「後宮からの誘拐」のブロンデなどを歌っている。ドレスデン国立歌劇場でのクリスティン・ティーレマンとの共演もファンを大いに喜ばせた。
2013年、アデーレでシカゴ・リリック・オペラにデビュー。2014年にはザルツブルク復活祭音楽祭とドレスデンでもフィアカーミリを歌った。前者はティーレマンの指揮だった。
いっぽう、ドニゼッティの「連隊の娘」もレパートリーで、2013/14年のシーズンにウィーンでフアン・ディエゴ・フローレスと共演し、満場を沸かせている。ピョートル・ベチャワとの「ホフマン物語」も名舞台のひとつ。
昨年から今年にかけてダニエラ・ファリーはウィーンでアデーレ、「ウェルテル」のソフィーを、ウィーンとパリでツェルビネッタを、ベルリンでシェーンベルクの「ヤコブの梯子」を、オーストリアのグラーフェネック音楽祭で「カルミナ・ブラーナ」(以上順不同)を歌っている。
文:奥田佳道(音楽評論家)
photo: Marcel Gonzalez Ortiz
9月3日(土)10:00より第2次発売開始!