ローマ歌劇場 2018年日本公演 ソフィア・コッポラのメール・インタビューから『椿姫』への視点を探る 『椿姫』は美に満ち溢れています。 ヴィオレッタという魅惑的な女性のストーリーを追いながら、過去の世界に迷い込んで。

映画監督として、カンヌ国際映画祭で女性としては史上2人目の快挙となる「監督賞」を受賞するなど、もはや現代映画界において最大の注目を集める一人となっているソフィア・コッポラ。
そのソフィア・コッポラが、初めてオペラ演出を手がけたのが、ローマ歌劇場の『椿姫』でした。 映画作品以外の取材はなかなか受けない彼女ですが、オペラ『椿姫』の演出について特別に応じてくれたメール・インタビューから、彼女の『椿姫』への視点をご紹介します。

Photo: Yasuko Kageyama / TOR

ネイサン・クロウリーのダイナミックな美術が印象的な第1幕

Photo: Yasuko Kageyama / TOR

絵画を思わせるような美しい美術の第2幕

 ソフィア・コッポラに、ローマ歌劇場で『椿姫』の演出をしないか、と声をかけたのは、このプロダクションで衣裳デザインを手がけたヴァレンティノ・ガラヴァーニだったそうです。
「あのヴァレンティノから声をかけられて、断ることなんてありえないでしょう!」とソフィアはかつて語っていました。もちろんそれも理由の一つではありますが、そのほかにも重要な決め手となったのは、作品が『椿姫』だったから。
「ヴィオレッタは、自分の魅力を武器にして華やかなパーティーのなかに身をおきながらも、とても傷つきやすい繊細さとロマンティックな心を持つ女性だと私は捉えています。ヴィオレッタの演技については、できる限り自然であるようにしたいと思いました。彼女を私たちの世界に生きる女性として感じられれば、私たちは彼女の繊細さを理解できるからです」
 ソフィア・コッポラは『椿姫』を「極上の悲劇的ラブストーリーだ」とも言っています。
「ヴィオレッタは、自分が考える“やるべきこと”をやっているのです。つまり、アルフレードにとって最善となるよう、自身の愛を諦めました。愛のもとに、彼女は究極の犠牲を払ったわけです」
 実際に演出を手がけていくうえでは、オペラと映画では異なる点、同じ点がそれぞれあったようです。
「映画製作の最初の段階と同じように、ヴィジュアル資料を観ることから始めました。そうすることで、雰囲気や情景や人物像を理解します。 今回は最初にヴァレンティノ・ガラヴァーニがデザイン画を見せてくれました。その後、早い段階(最初)のフィッティングから同席し、ヴァレンティノがヴィオレッタをどのように描こうとしているのかを理解するようにしました。そうするなかで、ヴァレンティノの作品を前面に見せるような舞台にしようと思いましたし、彼のリードに従いたいと思いました。彼は映画「マリー・アントワネット」での私の仕事をとても気に入ってくれたので、私はそのやり方をもう一度試したいと思いました。もちろんオペラのやり方や伝統を尊重しながらですが。
 映画では私はいつも、音楽については早い段階で考えます。音楽が私のシナリオ・ライティングと映画へのアプローチを形作っていきます。ですから『椿姫』では、音楽に導いてもらいながら、(歌手たちの動きについての)ブロッキングとディレクション、そしてストーリー、つまりあらゆるドラマの中でストーリーをいかに人間的に表現していくのか、ということを決めていきました。
 オペラの仕事は、映画のセットの中での仕事とよく似ていると思います。違う点は、オペラでは歌手たちが歌いやすいような動きやポジションを決める必要があるということです。オペラ歌手は(呼吸や身体の使い方が制限されるという意味で)アスリートに近いと言えるでしょう。フランチェスカ・ドッドには、私が考えるヴィオレッタのキャラクターをしっかりと伝えて、彼女にそれを表現してもらえるようにしました。ヴィオレッタの視点や様々な場面での彼女の気持ちを考えて、カメラのない舞台上でどのように表現するのかを考えました」
 舞台美術に、映画界では何度もアカデミー賞にノミネートされているアート・ディレクター、ネイサン・クロウリーを起用したのはソフィア・コッポラ自身でした。今回の『椿姫』で、衣裳を見せるための舞台美術ということへの理解があり、しかも時代背景を大切に考えることができる優れた才能が活かされるからだとのこと。
 実はソフィア・コッポラは、聴衆としてもオペラとの関わりはほとんど無かったそうです。その彼女も、自身が演出を手がけたことにより「新たなエネルギーと創造力が与えられた」と感じているとのこと。そして最後に、ソフィア・コッポラ・ファンへの言葉を、こう記してくれました。
「『椿姫』は美に満ち溢れています――音楽、素晴らしい美術と衣裳。ヴィオレッタという魅惑的な女性とともに、彼女のストーリーを追いながら、過去の世界に迷い込んでもらえることと思います」

2018年日本公演
ローマ歌劇場

『椿姫』

指揮:ヤデル・ビニャミーニ
演出:ソフィア・コッポラ

【公演日】

2018年
9月9日(日)15:00
9月12日(水)15:00
9月15日(土)15:00
9月17日(月・祝)15:00

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

ヴィオレッタ:フランチェスカ・ドット
アルフレード:アントニオ・ポーリ
ジェルモン:レオ・ヌッチ

*表記の出演者は2018年1月15日現在の予定です。
今後、出演団体側の事情により変更になる場合があります。

『マノン・レスコー』

指揮:ドナート・レンツェッティ
演出:キアラ・ムーティ

【公演日】

2018年
9月16日(日)15:00

会場:神奈川県民ホール

9月20日(木)15:00
9月22日(土)15:00

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

マノン:クリスティーネ・オポライス
デ・グリュー:グレゴリー・クンデ
レスコー:アレッサンドロ・ルオンゴ

*表記の出演者は2018年1月15日現在の予定です。
今後、出演団体側の事情により変更になる場合があります。

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