2015年8月に斎藤友佳理が芸術監督就任後、東京バレエ団は着実に進化を遂げている。2016年2月に新制作されたブルメイステル版『白鳥の湖』は斎藤たっての願いで実現し、演劇的でドラマティックな古典全幕を我が物としてバレエ団の新時代を象徴する舞台となった。同作を今年(2018年)6~7月に再演して練り上げるなど古典を大切にしているが、いっぽうで現代作品のレパートリー開拓にも余念がない。2015年12月のウィリアム・フォーサイスの『イン・ザ・ミドル・サムホワット・ エレヴェイテッド』に始まり今年4月のバランシンの『セレナーデ』に至るまで20世紀の名作群を導入している。ことにジェローム・ロビンズの『イン・ザ・ナイト』、ローラン・プティの『アルルの女』、イリ・キリアンの『小さな死』といった深いドラマを内包した作品を選んでいるのが光り、多士済々の団員の資質を活かして伸ばす指導力、旧来のレパートリーと巧みに組み合わせる演目構成の妙は特筆に値しよう。
きたる2018年11月30日(金)~12月1日(日)に催される〈20世紀の傑作バレエ2〉は昨秋行われ好評を得た〈20世紀の傑作バレエ〉に続く意欲的な公演となりそうだ。このたび披露されるのは前述の『イン・ザ・ナイト』と『小さな死』そして看板演目であるジョン・ノイマイヤーの『スプリング・アンド・フォール』とモーリス・ベジャールの『ボレロ』。現在世界中のバレエ団が現代作品の上演に力を注ぐが、大バレエ団には実験・チャレンジだけに終わらない成果や完成度が求められよう。その意味において今回は目利きの観客から初めて現代バレエをご覧になる方まで幅広く親しめる傑作が揃った。
『イン・ザ・ナイト』(1970年初演)は映画にもなった「ウェストサイド・ストーリー」などのミュージカルにも才を発揮したロビンズが描く男女3組のドラマで、ショパンのノクターンをはじめとするピアノ曲と共に男女の機微が繊細に浮かび上がる。複雑なリフトも織り交ざる振付を何気なく粋に魅せ、大人の雰囲気にあふれた佳作だ。今回二組が日別に踊るが、演者の個性や組み合わせによって微妙に異なる空気感を感じられる点にも興趣をそそられる。
『小さな死』(1991年初演)はモーツァルトのピアノ協奏曲第23番と第21番の清冽な響きと溶け合う名品。原題のPetite Mortとはフランス語においてオーガズムの意で、男女6人ずつ12名の踊り手が愛と官能、性と死を凄絶ともいえる美を湛えつつ寓意的に踊る。キリアン独特の粘りのある動きを研ぎ澄まされた肉体表現で表し、高い精神性を伴って立ち上げたとき、総毛立つような感動と興奮に包み込まれるだろう。
『スプリング・アンド・フォール』(1991年初演、1994年完全版初演)はドヴォルザークの弦楽セレナーデ ホ長調 作品22にのせて7人の女性と10人の男性が踊る。表題には「春と夏」に加えて「跳躍と落下」という意味が込められ、「ダンスそのものが人生の表現、作品のテーマ」とノイマイヤー自ら語るように人生の喜怒哀楽が詩的かつ躍動感たっぷりに伝わってくる秀作だ。川島麻実子&柄本弾、沖香菜子&秋元康臣という気鋭の競演に注目したい。
『ボレロ』(1961年初演)はラヴェルの同題曲に振付されたベジャールの名作である。同じリズムが流れ2種類の旋律が反復されるなか、赤い円卓の上で上体を露にして存在する“メロディ”と呼ばれる独りの踊り手と周りを囲んだ“リズム”と称される群舞が次第に交感し、熱狂のうちにクライマックスへとなだれ込む。“メロディ”の踊り手によって印象が大きく異なることで知られ、上野水香と柄本が日替わりで登場するのが楽しみだ。
東京バレエ団が放つ四つそれぞれの輝きに満ちた傑作バレエ集は、バレエ芸術の広がりと現代バレエの奥深さを実感できる至上の観劇体験を約束してくれるに違いない。
[高橋森彦 舞踊評論家]
11月30日(金)19:00
12月1日(土)13:00
12月1日(土)17:00
12月2日(日)14:00
会場:新国立劇場 中劇場
「イン・ザ・ナイト」振付:ジェローム・ロビンズ 音楽:フレデリック・ショパン
「ボレロ」振付:モーリス・ベジャール 音楽:モーリス・ラヴェル
「スプリング・アンド・フォール」振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:アントニン・ドヴォルザーク
「小さな死」振付:イリ・キリアン 音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
S=¥10,000 A=¥8,000 B=¥6,000
学生券=¥1,500
※学生券はNBS WEBチケットのみで10/26(金)より発売。
※配役は2018年6月21日現在の予定です。出演者の怪我・病気、その他の都合により変更になる場合があります。
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