英国ロイヤル・オペラ 2019年日本公演 公演日程発表 グリゴーロにヨンチェヴァ!観るべき、聴くべき『ファウスト』の魅力! photo: Todd Rosenberg

Photo: Bill Cooper / ROH

 2019年9月、アントニオ・.パッパーノに率いられた英国ロイヤル・オペラが4年ぶりに待望の来日を果たす。つい先頃、音楽監督の任期が2023年まで延長されることが発表されたばかりで、パッパーノとロイヤル・オペラとの強い絆が感じられる。今回上演される2演目のうち、グノー『ファウスト』は2004年にプレミエ上演されたデヴィッド・マクヴィカーの演出。初演当時から絶賛されてきた大傑作舞台だ。イリュージョンあり、スペクタクルありのスケールの大きい演出で、話の展開も早く、手に汗握るスリリングな舞台だ。今回主役のファウストを演じるのが、人気絶頂のイタリアン・ハンサム・テノール、ヴィットリオ・グリゴーロだ。甘いマスクと情熱的な歌い方、輝かしい高音を駆使して真摯に真心を込めて歌いあげる歌唱法が、女性を中心に絶大な人気を博している。マントヴァ公爵や、アルフレード、デ・グリューなどが得意演目だが、マクヴィカー演出の『ファウスト』はグリゴーロにぴったりの役柄だ。すでに2011年にロイヤル・オペラの舞台に立って絶賛されているが、この演出ではファウストは身体能力が要求される。よぼよぼの老人として舞台に登場し、一瞬にして若者に早変わり。若くなってはしゃぎまわるファウストは、グリゴーロのような身の軽い若手でなくてはとても出来ない。
 グリゴーロを生で初めて見たのは2009年のオランジュ音楽祭の『椿姫』だった。この時のアルフレードがグリゴーロ。登場シーンで驚いたのは、あの広いオランジュの古代ローマ舞台を、舞台袖から全力疾走して登場、そのままテーブルに乗って、歌い始めたのだ。若々しく溌剌としていて、フレッシュなアルフレード。これですっかり彼のファンになった。それからのグリゴーロは2010年のロイヤル・オペラの『マノン』で高い評価を受け国際スターへと大ジャンプした。同年のマントヴァからの同時中継『リゴレット』でも、ジルダとの別れの場面で全力疾走していた。おそらくオペラ歌手では稀な、体操選手なみの優れた身体能力を持っている。その彼が演じるファウストが、美しいマルグリートを見て夢見心地に歌う美しい旋律のアリア「清らかな住まい」、そしてマルグリートとの愛の二重唱では、熱のこもった甘くて熱烈な歌唱が聴けるはずだ。

Photo: Catherine Ashomore / ROH

 グノーの『ファウスト』では主役ファウストと同等に重要なのが、純真な娘マルグリートだ。今回の来日公演でこの役を歌うのがソーニャ・ヨンチェヴァ。ブルガリア生まれのいま最も注目されている美貌のソプラノだ。彼女の名がクローズアップされたのが、2010年のドミンゴ主宰のオペラリアで優勝した時だが、以後の彼女は目覚ましい成長ぶりだ。これは個人的な予測だが、おそらく数年後にはネトレプコを凌ぐ人気と実力が備わるだろう。とくにここ数年はメトロポリタン歌劇場(メット)での活躍が目覚ましく、『椿姫』『トスカ』『ボエーム』『ルイザ・ミラー』『オテロ』…‥と立て続けにメットの舞台に立ち、絶賛を浴びている。彼女の強みはまろやかな豊かな声と声量に加え、テクニックも抜群、フレージングの妙や演技力も備わっていることだ。表現力もあるので歌唱が深く、さらに美しい容姿にも恵まれている。
 今年の夏、ミュンヘンとザルツブルクでヨンチェヴァを聴いたのだが、さらに進化し続けているのに驚いた。ミュンヘンで聴いたミケーレ・マリオッティ指揮による野外コンサートの曲目は、『ドン・カルロ』から終幕のアリア、『マクベス』から「手紙のアリア」、『イル・トロヴァトーレ』から「穏やかな夜に」、最後に『運命の力』から「神よ平和を与えたまえ」まで歌うという、重厚なプログラム。今後の彼女のレパートリーを暗示させる。最近は中低音も充実し、2019年のザルツブルク音楽祭では『メデア』の主役を歌うことが発表された。ミュンヘンから数週間後、ザルツブルク音楽祭では『ポッペアの戴冠』のポッペアを熱唱したのを聴いた。ヴェルディとは違った古楽様式によるモンテヴェルディ。指揮のクリスティとは共演を重ねており、バロック・オペラへの意欲も強い。いままさに上り坂の勢いにある旬のヨンチェヴァ。豊饒な美声と深い表現力で、悲劇のマルグリートをドラマティックに演じてくれるに違いない。

※2019年2月9日のNBSホームページ「最新情報」でお知らせした通り、「ファウスト」マルグリート役の歌手は、ソーニャ・ヨンチェヴァからレイチェル・ウィリス=ソレンセンに変更になりました。なにとぞご了承ください。

2019年日本公演
英国ロイヤル・オペラ

『ファウスト』

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:デヴィッド・マクヴィカー

【公演日】

2019年
9月12日(木)18:30
9月15日(日)15:00
9月18日(水)15:00

会場:東京文化会館


9月22日(日)15:00

会場:神奈川県民ホール

【予定される主な配役】

ファウスト:ヴィットリオ・グリゴーロ
メフィストフェレス:イルデブランド・ダルカンジェロ
マルグリート:レイチェル・ウィリス=ソレンセン

『オテロ』

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:キース・ウォーナー

【公演日】

2019年
9月14日(土)15:00
9月16日(月・祝)15:00

会場:神奈川県民ホール


9月21日(土)16:30
9月23日(月・祝)16:30

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

オテロ:グレゴリー・クンデ
ヤーゴ:ジェラルド・フィンリー
デズデモナ:フラチュヒ・バセンツ