英国ロイヤル・オペラ 2019年日本公演 フラチュヒ・バセンツ interview 『オテロ』のデズデモナと私につながる要素、自分を犠牲にしてもいいと思うこと photo: Iain Lea

Photo: Catherine Ashmore / ROH

アルメニア出身のフラチュヒ・バセンツ。日本ではまだ彼女のことを知る人はほとんどいないかもしれません。2016/17年シーズンに英国ロイヤル・オペラにデビュー以来、毎シーズン、コヴェントガーデンの舞台に登場している実力派です。『シモン・ボッカネグラ』出演の合間、2018年12月に応えてくれたインタビューをご紹介!    

── 最初からずばりうかがいますが、デズデモナの苦しみを歌う時、ほんとうにつらく感じますか。

バセンツ もちろんです。ステージでは私はデズデモナなのですから。彼女には確固とした自分、オテロと生きて行こうと決心する強さがあります。でもどの役柄についてもいえることですが、私はなんとか自分につながる要素を見出そうと努めます。例えば私は何かのために自分を犠牲にしてもいいと思うことがあります。友情とか芸術のためとか。これはこの役の中にもあって、全身全霊を捧げる。だからデズデモナは純粋で強くて、自分の命を犠牲にするのです。例えばカッシオが自分に対する不正と闘おうとするのを助けますね。この出来事を彼女も自分のものとして生きるわけです。さらには第3幕でデズデモナが自分自身の無実を訴える場面など、ほんとうに私自身が苦しみます。この役はソプラノのためにほんとうに美しく書かれています。

──マエストロ・パッパーノに対するお気持ちは?

バセンツ(生き生きと)マエストロとのコラボレーションがとても楽しみです。すでに彼のスプリング・ガラ(2018年)に出演しましたし、ノルマの代役でリハーサルをやりましたが、ほんとうにオペラに出るのは初めてです。パッパーノ氏は、今さらいう必要はないですが、世界で最も偉大な指揮者の1人です。カリスマがあるし、オーラがあります。一緒に仕事ができるのは名誉です。そしてとても親切な方ですよ。指揮者が観客に後ろを向けているのは当然です。客席を向いて歌う我々出演者を守ってくれるのですもの。

── 守るって観客から?

バセンツ いえ、観客からではなくて、ある種のエネルギーからです。我々は何かに頼らなくてはならない。指揮者の顔があるだけ、彼の両手があるだけで、私たちに大きなハートが伝わってくるのです。

── ロイヤル・オペラで何役か歌われましたが、この歌劇場にはもう慣れましたか。

バセンツ はい、といえるかな。ノルマの代役の後、ダニエル・オーレンの指揮でアドリアナ・ルクヴルールをアンジェラ・ゲオルギューと交替で歌いました。彼女との出会いはそれは温かく純粋なもので、お互いの心の中が伝わってくるようでした。私は彼女の録音を聴いて、高い芸術性に感銘を受けながら育ちました。特にロイヤル・オペラの『椿姫』です。

── ヴェルディは、他の役も歌っていますね。

バセンツ はい、『トロヴァトーレ』が最初でしたが、それから『シモン・ボッカネグラ』、そして『オテロ』です。それに『椿姫』ですね。

── どれもたいへんな役ばかり。

バセンツ ええ。いつかはロイヤル・オペラでもヴィオレッタを歌うかもしれません。

── 他の役で近い将来に歌いたいものは?

バセンツ ルイザ・ミラー(ヴェルディ)とかアンナ・ボレーナ(ドニゼッティ)等、ベルカントやコロラトゥーラの役を歌いたいです。プッチーニもいいし。

── 以前ニュルンベルク歌劇場にいて今度はドレスデンと、ドイツの歌劇場が主体ですか。

バセンツ ええ…‥、私はアルメニア出身です。伝統と芸術、音楽に恵まれたすばらしい国ですが、ヨーロッパに向けて解放されているわけではないので、たいへんなこともありました。でも幸運にもベルヴェデーレ・コンクールの直後にドイツのインテンダントに見出されて『トロヴァトーレ』を歌う機会を得ました。まだ26歳と若くて、朝10時から夜10時まで働くなんて慣れてなかった(笑)。アルメニアではそんなにやらないのですよ。でもドイツには感謝、私の第2の故郷です。ドイツのパスポートも持っているんですよ(笑)。

── よく故国と往復なさるのですか。

バセンツ ええ、特に夏に仕事がない時にね。2年ほど前、ローマ法王のアルメニア公式訪問の際に政府に依頼されて法王の前で歌いました。

── 最後に日本の観客に伝えたいことは?

バセンツ 最高のオペラの1つである『オテロ』を聴いていただけるのはとてもうれしいです。日本のお客さんはとても温かくて知識も豊富だと聞いています。待ちきれません!

英国ロイヤル・オペラ 2019年日本公演

『ファウスト』

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:デヴィッド・マクヴィカー

【公演日】

2019年
9月12日(木)18:30
9月15日(日)15:00
9月18日(水)15:00

会場:東京文化会館


9月22日(日)15:00

会場:神奈川県民ホール

【予定される主な配役】

ファウスト:ヴィットリオ・グリゴーロ
メフィストフェレス:イルデブランド・ダルカンジェロ

『オテロ』

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:キース・ウォーナー

【公演日】

2019年
9月14日(土)15:00
9月16日(月・祝)15:00

会場:神奈川県民ホール


9月21日(土)16:30
9月23日(月・祝)16:30

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

オテロ:グレゴリー・クンデ
ヤーゴ:ジェラルド・フィンリー
デズデモナ:フラチュヒ・バセンツ

【入場料[税込]】

S=¥59,000 A=¥52,000 B=¥45,000 C=¥37,000 D=¥30,000 E=¥23,000 F=¥16,000

*E,F席の発売方法は追って発表します。