英国ロイヤル・オペラ 2019年日本公演 パッパーノが『オテロ』を解説! アントニオ・パッパーノ 英国ロイヤル・オペラ音楽監督 Photo: Sim Canetty-Clarke

今回の日本公演で上演される『オテロ』は、2017年6月に新演出されました。
英国ロイヤル・オペラではおよそ30年ぶりの新演出ということで、 世界中のオペラ・ファンが注目した作品です。
英国ロイヤル・オペラでは、作品を紹介するために劇場を使って「インサイト」というトークイベントを開催しています。
大注目の『オテロ』のために、音楽監督アントニオ・パッパーノが自身でピアノを弾き、 ときには歌いながら語った内容をご紹介します。    

©️2017 ROH. Photographed by Catherine Ashmore

ヤーゴ(ジェリコ・ルチッチ)とオテロ(グレゴリー・クンデ)
[2017年ロイヤル・オペラでの公演より]

ヴェルディは『ヤーゴ』と
名付けたかった!?

 ヴェルディはおよそ7年をかけて『オテロ』を作曲しましたが、当初このオペラを『ヤーゴ』と称していたといわれます。それを踏まえ、マエストロは「ヴェルディはこのオペラのなかでヤーゴの信用できない“まやかし”の人物性を描こうとしました」と話を始めました。そして、それは冒頭の嵐の場面の音楽のなかにもはっきりと現れていると。
「ヤーゴは、相手によって自分をどう見せるかを巧みに変える狡猾な男です。ロドリーゴがデズデモナに叶わぬ想いを抱いていることを知って、『オレはお前の味方だ』と言いますが、実はヤーゴは自分自身の復讐のためにロドリーゴを利用しようとたくらんでいるのです。美しい音楽で、カッシオの苦しみに親身になって語りかけるヤーゴを、腹黒いヤツだとは、誰も思わない、ここではね(笑)。でも、ヤーゴの性格がさまざまに変わっていくことは、すべて音楽に表されているのです」
 当然の事ながら、話はヤーゴの聴かせどころである第2幕の「ヤーゴの信条」へ。
「第2幕の始まり、ドリルのような音型が人の精神を突き刺しますが、すぐに変わる美しいメロディのなかで、ヤーゴはカッシオにデズデモナに近づくよう、言いくるめます。ここでの音楽には、まさにヤーゴのヘビのような、嫉妬深いキャラクターが表されています。やがてひとりになったヤーゴは、その信条、“自分は生まれながらの悪党であり、この自分をつくった無慈悲な神を信じているのだ”と歌います。“正直者はピエロに過ぎず、すべては偽善だ! 生まれたときから死に至るまで、人間はみな邪悪な運命のゲームのなかに生きているのだ” と、気持ちを高ぶらせます。しかし、最後の“苦しみの後には死があるのみ、死んだ後に何がある? 死は無だ”の部分には、まるで「レクイエム」のような音楽の響きが与えられています。彼の無情感を、高笑いするかのようなオーケストラが遮るのです」

オテロ役の歌手は2トンの
袋を背負ったようなもの

 主役オテロについては、歌手にとっての重責がどれほどのものかを語ります。
「テノール歌手なら、楽譜に書いてあることを歌うことはできるでしょう。純粋に声楽のテクニック的なことでいえば、『アイーダ』のラダメスのような高音が要求されたり、歌う場面が長く続く役の方が難しい。でも、オテロを歌うためには疑いや嫉妬、愛情との葛藤など、いろいろな感情が含まれてくるので、音符を歌うだけに留まらない難しさがあります。音の一つひとつに巨大な情念がつまっている。2トンの重い袋を背負っているようなものなのです(笑)」

キース・ウォーナー演出だからできること

 パッパーノは『オテロ』の前にも演出家キース・ウォーナーとともに仕事をしてきました。
「キースの最大の特徴は、歌詞と音楽をうまく扱うことにあります。台本そのものの理解がとても深く、そして正確に読み取るのです。シェイクスピアについての一般的な理解ではなく、具体的にきちんとわかっていることで、演出家としてあらゆる仕草や動きをつくることができるのだと思います」

 すでにNHKで放映された番組のなかでのキース・ウォーナーの言葉が思い出されます。
「ヤーゴに謀られ、オテロの疑念は一歩歩くごとに深まっていきます。妻デズデモナの不貞をほのめかされたオテロの心情を、ゆっくりと詰めていくのです」
 2017年にこの『オテロ』のプレミエに登場したヨナス・カウフマンは「いつもは幕が降りたらすぐに忘れられるが、この『オテロ』についてはしばらく気持ちが引きずられる。感じる気持ちも音楽も暴力的で強烈だから」と語っています。
 きめ細かく作り込まれたキース・ウォーナーの演出に、観る者は固唾を飲んで引き込まれていくことでしょう。

※ここでは、ROHのイベント「インサイト」から、内容を抜粋して紹介しています。
パッパーノが語る動画は、近日NBSのホームページよりご覧いただける予定です。

『ファウスト』マルグリート役変更のお知らせ

レイチェル・ウィリス=ソレンセン

英国ロイヤル・オペラ日本公演について、すでにNBSのホームページおよび本紙で発表しておりました『ファウスト』のマルグリート役の歌手に変更が生じました。ソーニャ・ヨンチェヴァに代わり、レイチェル・ウィリス=ソレンセンが出演いたします。

「2012年、英国ロイヤル・オペラに『フィガロの結婚』の伯爵夫人役でデビューしたとき、すでに私は彼女のエレガントな表現力と美しいリリック・ソプラノとしての突出した才能を感じました」とは音楽監督アントニオ・パッパーノの言葉。さらに、すでに《ニーベルングの指環》や『ばらの騎士』の元帥夫人役でも素晴らしい成功を果たしていると紹介しています。マエストロのお墨付きを得るレイチェル・ウィリス=ソレンセンのマルグリート役、どうぞご期待ください。

英国ロイヤル・オペラ 2019年日本公演

『ファウスト』

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:デヴィッド・マクヴィカー

【公演日】

2019年
9月12日(木)18:30
9月15日(日)15:00
9月18日(水)15:00

会場:東京文化会館


9月22日(日)15:00

会場:神奈川県民ホール

【予定される主な配役】

ファウスト:ヴィットリオ・グリゴーロ
メフィストフェレス:イルデブランド・ダルカンジェロ
マルグリート:レイチェル・ウィリス=ソレンセン

『オテロ』

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:キース・ウォーナー

【公演日】

2019年
9月14日(土)15:00
9月16日(月・祝)15:00

会場:神奈川県民ホール


9月21日(土)16:30
9月23日(月・祝)16:30

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

オテロ:グレゴリー・クンデ
ヤーゴ:ジェラルド・フィンリー
デズデモナ:フラチュヒ・バセンツ

【入場料[税込]】

S=¥59,000 A=¥52,000 B=¥45,000 C=¥37,000 D=¥30,000 E=¥23,000 F=¥16,000

*E,F席の発売方法はNBSホームページをご覧下さい。