英国ロイヤル・オペラ 2019年日本公演 この歌手だから、この役、ここに期待! Photo: ©️ROH/Catherine Ashmore, 2011 Photo: ©️2017 ROH. Photographed by Catherine Ashmore

今秋の英国ロイヤル・オペラ日本公演、2つの演目に登場するのは世界の最高峰と認められる歌劇場が厳選した歌手たち! その魅力と今回の役柄での期待に焦点をあててご紹介します。   

ファウストの老若両面に自身あり!の人気テノール

ヴィットリオ・グリゴーロ

 イタリア、アレッツォで生まれたグリゴーロ。いまや世界中に熱狂的なファンがいる人気テノールです。“パヴァロッティの再来”と称されるのは、13歳の時にローマでパヴァロッティとの共演で『トスカ』の羊飼いを歌って、“パヴァロッティーノ(小さなパヴァロッティ)と絶賛されたことも影響しているでしょう。でも、キャリアを発展させる中で、グリゴーロ自身もイタリアのテノールとして、“パヴァロッティを継ぐ”ことを意識するようになったと言います。
 張りのある明るくエネルギーに満ちた高音、甘いメロディをうっとりと聴かせる表現力は、青年ファウストがマルグリートの愛を求めるにはぴったり! そんな一方で、冒頭の老ファウストとしての場面では、独特の歌唱表現や老人らしい動きなどを自分で追求したと語ります。彼の自慢のパフォーマンスをお見逃しなく!

経験と実力でオテロの心理を深く、繊細に!

グレゴリー・クンデ

 キャリアの始まりが優れたベルカントだったことや、その声質からも“イタリアのテノール”の印象をもたれることがありますが、クンデはアメリカ出身のベテラン。近年はドラマティックな役にもレパートリーを広げ、ますます充実をみせています。なかでもヴェルディのオテロ役は彼自身にとって大きな飛躍をもたらした役でもあります。
 昨年、クンデはローマ歌劇場日本公演『マノン・レスコー』のデ・グリュー役で、美しいカンタービレとドラマティックな激情を見事に聴かせてくれました。今回のオテロでは、また別の対比を聴かせてくれることになります。武将として成功を果たした英雄としてのダイナミックな声と、人間としての弱さゆえに引き起こされるヒステリックな面です。数々のレパートリーを演じてきた経験と実力が、オテロの心理を深く、繊細に描き出すことに活かされるのです。

魅了するのはメフィストフェレスの魔力か、彼自身のセクシーさか!?

イルデブランド・ダルカンジェロ

 イタリア、ペスカーラ生まれのダルカンジェロ。前回のロイヤル・オペラ日本公演で魅せた絶品のドン・ジョヴァンニを忘れられないオペラ・ファンも多いはず。歌唱力の素晴らしさに加えて、演技というにはあまりにもハマり過ぎ!と感じさせ、稀代の色男ドン・ジョヴァンニさながらに女性たちの心を射抜きました。今回のメフィストフェレス役は“悪魔”! 実は19世紀のフランス・オペラでは主人公のテノールやソプラノよりも低音の登場人物に魅力的なキャラクターが配されることが少なくありません。メフィストフェレスにも、ファウストの前に登場する時や、セレナーデを歌う場面では紳士然とした振る舞いが、一方民衆の前では悪魔の魔力を誇示するなど、さまざまな魅力が要求されます。この役になり切るダルカンジェロの妖しい魅力に、またも女性たちは抗うことはできないのでは? 本拠地ロンドンでは、まだダルカンジェロはこの役は歌っていません。日本のファンだけのお楽しみです。

悪魔ヤーゴになりきれる実力派!

ジェラルド・フィンリー

 カナダ、モントリオール生まれのフィンリー。大叔父がウェストミンスター寺院のオルガニストであったことから、音楽の勉強は英国で受けました。英国ロイヤル・オペラへのデビューは1989年、以来数々の役で登場しています。2012年グラインドボーン音楽祭『ニュルンベルクのマイスタージンガー』で初めて歌ったハンス・ザックス役の大成功はさらなる飛躍をもたらしました。
『オテロ』のヤーゴ役は、完全な“悪魔”。ヴェルディの他のオペラでは、多くの場合バリトン役には悩みや弱さを持たせた人間味がありますが、ヤーゴはただひたすらに悪の人物です。だからといって、暴力的に荒っぽく歌うことが望まれるわけではありません。フィンリーは、歌唱力とともに、悪人心の表現にも優れている…‥と言うのは妙な褒め方かもしれませんが、ヴェルディの『オテロ』には、これこそが重要なのです。

理想の女性マルグリートは、パッパーノのお墨付き!

レイチェル・ウィルス=ソレンセン

Photo: Simon Pauly

 アメリカのソプラノ、ウィルス=ソレンセンは2012年に英国ロイヤル・オペラにデビューしました。その後も出演を重ね、音楽監督アントニオ・パッパーノからも才能を認められています。2012年から15年にはドレスデン国立歌劇場のメンバーとしてさまざまな役を歌って研鑽を積み、2014年にはメトロポリタン歌劇場にもデビューを果たした実力の持ち主です。
 マルグリートは、ファウストの情熱を受けて子どもを宿した挙句、ファウストには捨てられ、兄には呪われ、発狂してしまうという哀れな女性です。清純さとみずみずしい乙女心を表す聴かせどころでは、ウィルス=ソレンセンの歌唱力と演技力がモノをいうことでしょう。

究極のデズデモナの愛を聴いて!

フラチュヒ・バセンツ

  アルメニア出身のバセンツ。英国ロイヤル・オペラには2016/17年シーズンにデビューしたばかりですが、翌シーズンには『ドン・ジョヴァンニ』のドンナ・エルヴィーラ、さらにその翌シーズンとなる2018年11月には『シモン・ボッカネグラ』のアメーリアを歌い、次々に成功をおさめている新鋭です。ニュルンベルクの劇場で、研鑽を重ね、2018年にはドレスデン国立歌劇場のメンバーとなりました。
 デズデモナ役は、どこまでも清らかで、自らを犠牲にしても豊かな愛情をそそぎつくすキャラクター。バセンツは命をかけてつくすデズデモナの愛を、自分にとっての芸術や友情に置き換えて考えることで、役づくりを深めると語ります。美しいデズデモナを聴かせてくれる初来日の歌姫に期待が高まります。

英国ロイヤル・オペラ 2019年日本公演

『ファウスト』

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:デイヴィッド・マクヴィカー

【公演日】

2019年
9月12日(木)18:30
9月15日(日)15:00
9月18日(水)15:00

会場:東京文化会館


9月22日(日)15:00

会場:神奈川県民ホール

【予定される主な配役】

ファウスト:ヴィットリオ・グリゴーロ
メフィストフェレス:イルデブランド・ダルカンジェロ
マルグリート:レイチェル・ウィリス=ソレンセン

『オテロ』

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:キース・ウォーナー

【公演日】

2019年
9月14日(土)15:00
9月16日(月・祝)15:00

会場:神奈川県民ホール


9月21日(土)16:30
9月23日(月・祝)16:30

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

オテロ:グレゴリー・クンデ
ヤーゴ:ジェラルド・フィンリー
デズデモナ:フラチュヒ・バセンツ

【入場料[税込]】

S=¥59,000 A=¥52,000 B=¥45,000 C=¥37,000 D=¥30,000 E=¥23,000 F=¥16,000

*E,F席の発売方法はNBSホームページをご覧下さい。