東京バレエ団×勅使川原三郎新作 世界初演 勅使川原三郎インタビュー Photo: Kiran West  Photo: Andrej Uspenski

Photo: Kiyonori Hasegawa

東京バレエ団55周年記念シリーズの第4弾には、独創的な表現と美意識に基づく創作が世界的に評価される、
振付家/ダンサーの勅使川原三郎の新作が登場します。
これまでベジャールやノイマイヤーなど海外の巨匠にオリジナル作品を委嘱してきた東京バレエ団。
日本人振付家への初めての委嘱となる本作でも同様に、海外での上演を視野に入れた“世界標準”の作品をめざします。
パリ・オペラ座バレエ団にも作品を提供して話題となった勅使川原氏が、
東京バレエ団とともにどのような世界を作り上げるのか──
勅使川原氏の現時点での新作の構想や創作の方法、これまでの仕事を通じた東京バレエ団の印象について、
舞踊評論家の岡見さえさんにインタビューしていただきました。    

「僕にとってダンスとは、不確かなことによって、何かを発見させること。
東京バレエ団のダンサーたちと、新たなものを築きたいと思っています。」

―― 今回の新作では、どのようなことを構想されていますか?

 音楽は、武満徹の初期の楽曲を複数使うことを考えています。武満の曲には、身体と音楽が融け合うという以上に、もっと強烈な何かを感じるのです。照明、衣裳、美術は、自分で担当する予定です。
 ダンサーは、中心に強い個性と身体性を持つ人を数名。メインとアンサンブルという考え方もできるかもしれません。クラシック・バレエの技術を再生・再利用するのではなく、そこからまったく新しいものを作りたいと思っています。与えられた時間で、あるべきもの、あり得るものをダンサーたちと体験し、準備していく。僕が言葉で説明して、ワークショップでダンサーに求めるものを理解してもらいます。パリ・オペラ座バレエ団やネザーランド・ダンス・シアター、ジュネーヴ大劇場バレエ、フォーサイス時代のフランクフルト・バレエ団でも、ワークショップからクリエーションを展開しました。

――すでにオーディションを兼ねたワークショップを実施されたそうですね。東京バレエ団のダンサーに、どんな印象をもっていますか?

 可能性がすごくあると思います。演出を担当したオペラ『魔笛』(2016)で一緒だった人も新しい人も、ほぼ全員を見ましたが、光るダンサーが何人もいました。動きが説明的な表現に見えず、それそのものとして見せられるダンサーが良いですね。音楽を身体で聴き、身体からどんな音楽が生まれて来るのか。過去の経験値にない世界を立ち上げられたらいいな、と思っています。

――いわゆる古典作品とはだいぶ違う新作になりそうですね。

 クラシック・バレエだとパ・ド・ドゥなど振付や型が決まっていて、彼らが世界の中心のようなところがある。でも、もっと多様なあり方も可能でしょう。フランスで、僕の仕事を「宇宙と契約している」と批評されたことがありました。予定調和ではなく、ダンサーが互いにある種の神秘な関係性で響き合っているように見えたのでしょう。面白いダンスやダンサー、音楽は、他の言葉に還元できない関係を作り出すことができる。僕にとっては、デュエットの二人の間にあるもの、二人が作り出すものがダンスであり、華やかなパ・ド・ドゥが消えた後、二人が退場した後に見えてくること、感じられることもダンスなのです。

――作品には、勅使川原さんと長く協働するダンサーで、振付・演出助手でもある佐東利穂子さんも出演されるそうですね。

 すでに理解し合っている者同士でない、緊張感のある出会いを作りたいと思いました。現代では、実際に起きていることの真偽が分かりづらく、メディアやネットを通して出来事が眼前に迫る感覚、一瞬先で日常が崩れてしまう危機感、緊張感を感じます。でも他方では、この緊張感を生む状況も、嘘かもしれない気もしている。
 同時に僕はこのように考えます。自らある種の緊張を創作し、それを生き抜くのです。受身ではなく、積極的な危機意識は生きる技術になると考えられます。楽しく面白く生きるために。

――現代人が感じているこの緊張感と現実への不信感は、ダンスとどんな関係を持ち得るのでしょうか。

 ある意味で、それは僕の仕事の核心かもしれません。僕にとってダンスとは、不確かなことによって、何かを発見させることです。ダンスによって不可解なこと、不可思議なことに、それそのものとして触れてみたい。武満の音楽にも、同じ感覚がある気がします。彼の音楽の不協和音や不安定さは、不安な感情の表現ではなく、人生のひとつの態度だと感じるのです。それは自己主張や他人へ向かう欲望ではない、人間が持つ存在の欲望ですが、この存在には実は理由がない。すると存在の欲望とは、直観するものでしかないわけです。
 そう考えると、ダンスも、それそのままにそこにあればいい。たとえば風が吹いて来たら、ダンスはその風を感じた今であり、感じたあなたなのです。武満やバッハの音楽からも、同じことを感じます。一人のダンサーの立ち姿を見る、ダンサーを観客が体験する。風という自然と、人間のダンスという“人工的”なものが、同じ次元に存在しうるダンス。東京バレエ団のダンサーたちと、新たなものを築きたいと思っています。

東京バレエ団×勅使川原三郎
新作 世界初演

【公演日】

10月26日(土)14:00
10月27日(日)14:00

会場:東京文化会館

指揮:ベンジャミン・ポープ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

各日、開演前にプレトークあり
10/26 「武満徹の音楽について」小沼純一 13:30~13:50
10/27 「勅使川原三郎の世界」岡見さえ 13:30~13:50

【入場料[税込]】

S=¥10,000 A=¥8,000 B=¥6,000 C=¥5,000 D=¥4,000 E=¥3,000

★ペア割引[S、A、B席]あり

★U25シート ¥1,000
※NBS WEBチケットのみで9/27(金)20:00から引換券を発売。