英国ロイヤル・オペラ団 2019年日本公演 世界が注目したロイヤル・オペラの『オテロ』! シェイクスピアの国ならではのヴェルディの『オテロ』を観たい! Photo: © Photo: Sim Canetty-Clarke / ROH ウィリアム・シェイクスピア(1564年-1616年)

 2017年6月、ロンドンの英国ロイヤル・オペラで新演出上演を迎えた『オテロ』は、世界中の注目を集めました。その理由の一つには、人気テノール、ヨナス・カウフマンが初めてこの役を歌うというこがあったでしょう。ただ、そのカウフマンは「パッパーノの指揮だから、オテロを歌うことにした」と語っています。これは何よりも大事なこと! オペラは一人の歌手で成り立つものでは決してなく、歌手、オーケストラ、演出のすべてにわたって指揮者の統率力が問われるといっても過言ではないのです。
 指揮者のなかには、得意なレパートリーを固定するという人もいます。しかし、アントニオ・パッパーノは、いわばオールマイティ。16年にわたって英国ロイヤル・オペラを音楽監督として率いてきたなかで、彼は幅広いレパートリーに常に全力を注ぎ込んで来ました。
 『オテロ』ではどうかーー。
 オペラ『オテロ』はヴェルディがシェイクスピアの戯曲に描かれた心理表現を見事に描写した作品です。パッパーノは、音符の一つひとつに込められた心理の綾を読み解き、歌手やオーケストラとともに紡ぎだすことに見事に成功しています。
 ヴェルディの『オテロ』は、世界中のオペラハウスで上演される人気演目であり、さまざまな演出が行われています。演出家のコンセプトが、本来のシェイクスピアの戯曲を斜めに見たようなものもあるかもしれません。しかし、英国ロイヤル・オペラでは、それは許されない…‥。パッパーノ自身がイギリスで生まれ、幼少期を過ごしたことに加え、今回の演出をイギリス演劇界でも名を知られるキース・ウォーナーが手がけたことは、“シェイクスピアの国”の『オテロ』をつくりあげるための最高の布陣となったといえるでしょう。
 オペラ『オテロ』の場合、演出家の視点が端的に表されやすいのはまだ幕も上がらない、強烈なオーケストラの音響が炸裂する前に置かれることが多いようです。たとえば、ここに何らかのかたちで無言のデズデモナを登場させ、全編を彼女の視点として描くとか、映像を用いることで何かを暗示しようとするなど…‥。キース・ウォーナーの『オテロ』では、ヤーゴが一人、仮面を手に舞台中央に立つところから始まります。これは、このオペラの中核を成すのがヤーゴであることを示しているといえるでしょう。シェイクスピアの戯曲とヴェルディのオペラでは、登場人物の性格が微妙に違っている点があるのですが、ヤーゴだけは“生まれながらの悪人”のまま。オテロへの憎しみから巧みにだますところや、陽気にふるまいながらも相手を貶めるという人格です。ヴェルディがはじめにこのオペラのタイトルを『ヤーゴ』としようと考えた、と伝えられていることからも、ウォーナー演出がシェイクスピアの戯曲とヴェルディの思いを汲み取った正当なものと納得できます。

 もう一つ、音楽面における“英国ロイヤル・オペラ”ならではの『オテロ』が実現するポイントを挙げておきましょう。ヴェルディが『オテロ』を完成させたのは前作『アイーダ』初演から15年後のことでした。実際に手がけた時間については、台本作家と5年もやりとりをしたといわれます。ヴェルディは『オテロ』では『アイーダ』までとは異なる音楽手法を用いました。イタリア・オペラの典型である番号付きオペラをやめたのです。これを、ヴェルディと同年に生まれたワーグナーの影響ととらえられることもありますが、真相はヴェルディだけが知るところ。登場人物や事柄を表す度に一つのモチーフが鳴り響くライトモチーフも、ヴェルディはすでに『運命の力』でも使用しているのです。ただ、『オテロ』では、3回の「くちづけのライトモチーフ」が絶大な効果をもっています。第1幕のデズデモナとオテロの二重唱の最後、第4幕でオテロがデズデモナを殺そうと部屋に入ったとき、そして絶望したオテロが殺してしまったデズデモナにくちづけしながら死んでいくときです。パッパーノとウォーナーは、英国ロイヤル・オペラでワーグナーの《ニーベルングの指環》をつくりあげたコンビ。二人ともワーグナーを知り尽くし、ヴェルディを愛しています。だからこそ、『オテロ』のなかで強い印象を残すこの「くちづけのライトモチーフ」が響く場面を、ヴェルディのオペラの魅惑として生み出すことができるのです。

英国ロイヤル・オペラ 2019年日本公演

『ファウスト』

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:デイヴィッド・マクヴィカー

【公演日】

2019年
9月12日(木)18:30
9月15日(日)15:00
9月18日(水)15:00

会場:東京文化会館


9月22日(日)15:00

会場:神奈川県民ホール

【予定される主な配役】

ファウスト:ヴィットリオ・グリゴーロ
メフィストフェレス:イルデブランド・ダルカンジェロ
マルグリート:レイチェル・ウィリス=ソレンセン

『オテロ』

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:キース・ウォーナー

【公演日】

2019年
9月14日(土)15:00
9月16日(月・祝)15:00

会場:神奈川県民ホール


9月21日(土)16:30
9月23日(月・祝)16:30

会場:東京文化会館

【予定される主な配役】

オテロ:グレゴリー・クンデ
ヤーゴ:ジェラルド・フィンリー
デズデモナ:フラチュヒ・バセンツ

【入場料[税込]】

S=¥59,000 A=¥52,000 B=¥45,000 C=¥37,000 D=¥30,000

U29シート \8,000  *8/2(金)20:00発売開始

*E,F席は完売しました。