新制作 東京バレエ団「くるみ割り人形」全2幕 改訂演出/振付:斎藤友佳理(レフ・イワーノフ及びワシーリー・ワイノーネンに基づく) Photo: Kiran West  Photo: Andrej Uspenski

イラストは、舞台美術家のボイテンコ氏による今回の新制作用の衣裳デザイン

〜斎藤友佳理芸術監督に聞く〜

東京バレエ団の「くるみ割り人形」に格別の思いを抱く斎藤友佳理芸術監督。
創立55周年を機に行われる新制作は、
次代の東京バレエ団のために、という使命感に基づくものでもあります。  

 創立55周年記念シリーズを展開中の東京バレエ団は、12月に新制作『くるみ割り人形』を上演する。チャイコフスキーの名曲による、言わずと知れた古典バレエの大傑作であり、芸術監督・斎藤友佳理も「ダンサーとして、いちばん多く踊った作品」と、格別の思いで振り返る。
「あのチャイコフスキーの音楽の素晴らしさといったら! 子ども向けのバレエと思われがちな『くるみ割り人形』ですが、あの複雑で美しい旋律を聴いたら、とてもそんなふうには思えません。最晩年のチャイコフスキーが、自身の人生のいろんな感情をこめて創ったと思われる、深みのある音楽──。魂をわし掴みにされるよう。同時に、子どもたちも存分に楽しむことができる、実に夢のあるバレエです」
 東京バレエ団の『くるみ割り人形』には、歴史がある。その前身である「チャイコフスキー記念東京バレエ学校」が、開校2年目の1961年に初めて取り組んだ演目が、ボリショイ・バレエとの合同で上演した『くるみ割り人形』だった。その後、舞台監督だった佐々木忠次が同校を引き継ぐ形で創設した東京バレエ団にも、これが受け継がれていった。この作品について斎藤は、「ダンサーとして踊っても、客席で見ても、東京バレエ団らしい、よくできた『くるみ割り人形』だと思っていたのです」と話す。
「クリスマスの夜、マーシャ(クララ)が夢の世界を旅するという物語は世界中で共通のものだけれど、東京バレエ団のヴァージョンは、クララが夢の国の出来事を客観的に眺めているのではなく、彼女自身が雪の国、お菓子の国で王子と踊る演出です。クララはずっと主体的で、その一貫性が説得力ある舞台を創り上げています。あのクリスマス・ツリーが大きくなっていく場面なんて、チャイコフスキーの音楽の膨らみが踊りで表現されていて、最高でしょう!?」
 その『くるみ割り人形』を、創立55周年を機にあらためて新制作で上演する──。そこには深い理由がある。それは、斎藤が現役ダンサーだったとき、クララを踊るたびに襲われた“違和感”だった。
「東京バレエ団の『くるみ割り人形』は、ずっとワイノーネンによる振付として上演されていました。が、これは私が知っていたワイノーネン版とは明らかに違っていたのです! 東京バレエ学校で最初に上演されたときは、確実にワイノーネン版を上演していたと、当時在籍していた私の母も話していますが、その後、芸術監督が交代していくなかで、手が加わり、変化してしまったようなのです」
 古典作品の改変とそのクレジット表記について、厳密に意識することなく、曖昧なままで行っていた時代ではあった。が、振付のクレジットについて斎藤は、いま、誰かが明確にし、正さなければ先に進むことはできないと考えた。
「私は振付家でも演出家でもないし、どなたか外部の振付家の方に、美術も衣裳もすべて含めて全く別のものを創ってもらうことができたら楽なのだけれど(笑)、でも、私はやはりこの東京バレエ団のヴァージョンが大好きなのです。この版の柱、根本のところから外れたくない──。東京バレエ団の従来の『くるみ割り人形』を受け継いで上演し続けるためにも、いまここで手を下し、クレジットの問題を解決しなければ。でなければ、後の世代の人たちをずっと悩ませることになってしまう」
 斎藤は、ワイノーネン版を原典としながら、気になっていた振付・演出の部分に手を加えるとともに、装置・衣裳を一新するという。
「演出のカギは、クリスマス・ツリー! ツリーはこの物語のシンボルですから。また第2幕のディヴェルティスマンの場面にもっとスピード感をもたせ、観ている方が飽きないよう工夫したい。ダンサーの皆ができるだけ多く活躍できるように、とも考えています」
 装置・衣裳はバレエ・プロデューサーのニコライ・フョードロフ氏の協力を得て、舞台美術家のボイテンコ氏にデザインを依頼。点数の多い衣裳はいくつもの工房で手分けして制作が進められているという。
「アイデアはいろいろとあります。ボイテンコさんと意見を出し合い、子どもだましにならない、子どもも大人も存分に楽しめる美しい舞台を目指しています」

新制作

東京バレエ団「くるみ割り人形」全2幕

【公演日】

12月13日(金)19:00
12月14日(土)14:00
12月15日(日)14:00

会場:東京文化会館

■指揮:井田勝大
■演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
■児童合唱:NHK東京児童合唱団

【予定される主な配役】

マーシャ:川島麻実子(12/13)、沖香菜子(12/14)、 秋山瑛(12/15)、
くるみ割り王子:柄本弾(12/13)、秋元康臣(12/14)、宮川新大(12/15)

【入場料[税込]】

S=¥11,000 A=¥9,000 B=¥7,000 C=¥5,000 D=¥4,000 E=¥3,000

★ペア割引[S、A、B席]あり

★U25シート ¥1,000
※NBS WEBチケットのみで11/8(金)20:00から引換券を発売。

【その他の公演】

京都 2019年12月22日(日)

ロームシアター京都 (問)075-746-3201

横須賀 2019年12月24日(火)

横須賀芸術劇場 (問)046-823-9999