東京バレエ団 世界初演 目前! 勅使川原三郎に聞く新作「雲のなごり」

Photos: Shoko Matsuhashi

8月、勅使川原三郎氏によって行われたリハーサルより。

Photos: Shoko Matsuhashi

 7月末から8月にかけて、勅使川原三郎氏による新作のための最初のリハーサルが行われた。2016年のオペラ『魔笛』以来2度目となる東京バレエ団との仕事、その手応えについて尋ねると──。
「一日一日、何かが明解になっています。まずは、身体がどういう状態にあって、動きがどのように現れてくるか、ということを充分に共有できるようにする稽古の段階です。動きの現れ方は音楽にとても大きく関係し、どういう音楽であるかということによって身体の状態も変わってきます」
 稽古場では、新作のために選ばれた武満徹の音楽、〈地平線のドーリア〉(1966)と〈ノスタルジア〉(1987)が繰り返し再生され、ダンサーたちは、ひたすら勅使川原氏の指示に耳を傾け、音楽に向き合う。
「ダンスの面白さは身体の面白さであると考えると、私が東京バレエ団で新作を創る意味がわかっていただけると思います。ダンサーたちは皆、クラシック・バレエのスタイルを基本に置いていますが、私もクラシック・バレエからスタートし、自分のメソッドを作ることでダンスの可能性に広がりを作っていきたいと思っていました。東京バレエ団のダンサーたちのことは既にある程度知っていますし、武満さんの音楽で一緒に仕事をすることはとても興味深い。リハーサルでは、作品の振付を伝達するのではなく、私の指示から彼らに何かが起こり、次に必要なものを付け加え、その先に彼らに現れてくるものをもっと引き出そうとする──。そういう相互創作を基礎にして進めていきます」
 稽古場でも、ひたすら武満の音楽を理解し、掴み、その質感を捉えるようにと、ダンサーたちを促す。 「武満さんの音楽は、自然に近いものを感じる。しかし、自然そのものではない。聴いているとそのことの重要性に気がつきます。そこには芸術という価値観がある。いまここに、体内で起こっている不可思議なことや人間と自然が相互に伝達しあっているようなことを感じることもできる。それに芸術の密やかな力があるのではないかと思います。人工物である武満さんの音楽を聴くことによって、私たちは自然を呼び覚ます力を得る──。限りあるものの中から無限のものを作ろうとするとは、実に欲張りなことです」
 話題は、この作品の創作を始めた頃に読んだという、藤原定家の歌に及ぶ。
「定家の歌には、あるものとないもの、それから無くなっていくことによって現れてくること、そういうイメージがある。それはまさに、始まりも終わりもない踊り、始まりも終わりもない音楽──。武満さんの音楽はまさにそう感じさせる音楽です」
 定家は、こう詠んでいる。
夕暮れはいづれの雲のなごりとて花たちばなに風のふくらむ(『新古今和歌集』所収)
「夕暮れの空を見上げると、いろいろな雲が、いろいろな色合いで流れていて、どの雲がどこへ運ばれようとしていても、目の前にある橘の花には風だけが吹いている、という情景です。いつの間にか雲の色が変わり、それはもう名状し難い色で、青やオレンジ、それが混ざったような紫に、また、グレーがかって暗くなっていくかもしれない。目の前には橘の花があって、その花に微かな風だけが吹いている。その花さえもなくなるとしたら、残るのは香りだけではないか──。
 武満さんの音楽の時間感覚には、普通に進行していく時間ではない時間がある。それはたとえば、ここでいう夕暮れ。ある特定の時間、一日の中の、瞬間的に時間が無くなるときがある。そこでは、その場でしか起こりえないこと、始まりも終わりもないことがありうるのではないか──と。それは、ある意味ダンスということの本質ではないかと思うのです」

東京バレエ団×勅使川原三郎
新作 世界初演

【公演日】

10月26日(土)14:00
10月27日(日)14:00

会場:東京文化会館

指揮:ベンジャミン・ポープ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

各日、開演前にプレトークあり
10/26 「武満徹の音楽について」小沼純一 13:30~13:50
10/27 「勅使川原三郎の世界」岡見さえ 13:30~13:50

【入場料[税込]】

S=¥10,000 A=¥8,000 B=¥6,000 C=¥5,000 D=¥4,000 E=¥3,000

★ペア割引[S、A、B席]あり

★U25シート ¥1,000
※NBS WEBチケットのみで9/27(金)20:00から引換券を発売。