創立55周年記念シリーズのフィナーレは、東京バレエ団の代表的レパートリーが登場!
この世のものと思えない美しさ、時代を超えて多くの人々の心を捉えるほどの抗いがたい魅力など、見どころをご紹介。
ロマンティック・バレエの傑作にして、現在上演されているバレエの中で最古の作品の一つといわれる『ラ・シルフィード』。鬱蒼とした森の中、月明かりを浴びて軽やかに舞う妖精たちの、この世のものと思えない美しさには、確かに、時代を超えて多くの人々の心を捉えるほどの抗いがたい魅力がある。
スコットランドの農家の、仄暗い部屋の片隅に現れた空気の精と、彼女に魅入られた青年ジェイムズとの儚い恋は、フランス幻想文学の祖といわれるシャルル・ノディエの小説『トリルビー、またはアーガイルの妖精』に想を得て創られた。原作では、トリルビーという男性の妖精と若い人妻との叶わぬ恋が描かれるが、バレエのヒロインは軽やかに空中を舞う美しいシルフィード。夢見がちなジェイムズは婚約者エフィーとの結婚式を控えているにもかかわらず、無邪気で美しいシルフィードに夢中。彼女を追って森へと入っていくが、彼は、妖精をけっして自分のものにできないばかりか、エフィーをも失うという筋書きだ。
パリでの初演は1832年。フィリッポ・タリオーニ振付、アドルフ・ヌリの台本、ジャン=マドレーヌ・シュナイツホーファーの音楽による。このときシルフィードを踊ったのが、タリオーニの娘マリー・タリオーニ。ふくらはぎ下までの長いチュチュに、トウシューズを使った軽やかな動きをもって、幻想の世界を見事に表現し、一世を風靡したという。舞台は大評判で、この作品に大いに刺激を受けたデンマークの振付家オーギュスト・ブルノンヴィルは、1836年、コペンハーゲンで自らの『ラ・シルフィード』を上演。この版は現在に至るまで脈々と踊り継がれてきたが、タリオーニの『ラ・シルフィード』のほうは、その後上演が途絶えてしまう。いま、パリ・オペラ座や東京バレエ団で上演している『ラ・シルフィード』は、1972年、このバレエの世界にすっかり魅了された振付家、ピエール・ラコットが復元したもの。当時の資料を徹底的に調べ上げ、ロマンティック・バレエの薫りを現代に蘇らせた傑作として、不動の人気を得ている。
東京バレエ団が、このラコット版『ラ・シルフィード』を初めて上演したのは、1984年のこと。その後、国内外で再演を繰り返すが、注目すべきは1992年の第13次海外公演。若手プリマとして注目されていた斎藤友佳理が、モスクワのボショイ劇場、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場でシルフィードを踊り、「日本のマリー・タリオーニ」と絶賛されたのだ。
その後数々の主役を踊ってきた斎藤だが、モスクワ舞踊大学院で伝承学を学んだのち、2011年からはラコットの助手として、モスクワ音楽劇場で『ラ・シルフィード』を指導するという機会を得る。振付家のもとで多くを学んだ彼女が、東京バレエ団で本作の指導にあたったのは2013年、また芸術監督就任後の2016年のことだ。
その際、斎藤がラコット版ならではの見どころの一つと述べたのが、第1幕の「オンブル(影)」という場面。結婚の日を迎え、幸せいっぱいのはずのジェイムズとエフィーの踊りに、もう一人、ジェイムズ以外の誰もその姿を見ることのできないシルフィードの“気配”が加わる。その美しさに心を奪われた青年と、愛する人が自分を見ていないことに気づく婚約者──。彼らの心理が踊りで浮き彫りにされる、見応えある場面だ。
もう一つ、第2幕の複雑なコール・ド・バレエも見逃せない。アンサンブルの美しさが身上の東京バレエ団だが、斎藤のもと、前傾姿勢を特徴とするロマンティック・バレエ独特のスタイルに真摯に取り組み、私たちを幻想の森へといざなった。
バレエ団初演以来、数々のダンサーが踊り継いできたシルフィード、ジェイムズだが、今回は、初日に沖香菜子と秋元康臣、2日目には川島麻実子と宮川新大が登場。沖、宮川は2016年にともに主役を演じたが、今回はパートナーを変えてのフレッシュな組み合わせが実現する。創立55周年記念シリーズのフィナーレに、また次の5年、10年に向けての新たなスタートに相応わしい舞台となるだろう。
(文:加藤智子 フリーライター)
会場:東京文化会館
指揮:ワレリー・オブジャニコフ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
シルフィード:沖香菜子(3/21)、川島麻実子(3/22)
ジェイムズ:秋元康臣(3/21)、宮川新大(3/22)
S=¥10,000 A=¥8,000 B=¥6,000 C=¥5,000 D=¥4,000 E=¥3,000
※ペア割引 [S、A、B席]あり ※親子割 [S、A、B席]あり
★U25シート ¥1,000
※NBS WEBチケットのみで2020年2/21(金)20:00から引換券を発売。
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