あふれんばかりの喜びと希望に満ちた祝祭。オーケストラ、歌手、合唱団、ダンサーら総勢約350名が奏でる壮大な人間賛歌。ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの「交響曲第九番」にモーリス・ベジャールが振付した『第九交響曲』が2020年4月下旬、再び熱い感動と興奮をもたらす。
同作は2014年11月、初演(1964年)から50年を迎え新たによみがえった。東京バレエ団が創立50周年を記念してモーリス・ベジャール・バレエ団と共同制作した公演は反響を呼び、制作の裏側に迫ったドキュメンタリー映画「ダンシング・ベートーヴェン」が公開されたことも記憶に新しい。
プロローグでは、ジル・ロマン(モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督)がパーカッションの演奏と共にニーチェの「悲劇の誕生」を朗読する。その後の全4楽章は、それぞれ“地”“火”“水”“風”を表し、東京バレエ団が生命力豊かに乱舞する第1楽章から「歓喜の歌」そしてフーガ、フィナーレへと怒涛のごとくなだれ込む第4楽章までベートーヴェンの音楽と踊りが一体となり圧倒的だ。
交響曲に振付された筋のないバレエをシンフォニック・バレエと呼ぶが、そこに留まるまい。ベジャールは名曲に寄り添いイメージを膨らませながら人間愛や歓喜を骨太に語りかける巨編を生んだ。ベジャールの後継者ロマンは2014年の公演前に「ダンスによるコンサート」だと語ったが、確かに、これほどまでに音楽とダンスそれぞれの力が結びつき、見る者の視聴覚に強く訴え、情動を激しく揺さぶる舞台は稀である。
モーリス・ベジャール・バレエ団×東京バレエ団による『第九交響曲』は、この5年間で上演を重ねた。2014年11月に中国・上海の「第16回上海中国国際アーツ・フェスティバル」クロージング・セレモニーで上演され、2015年6~7月にかけてスイスのローザンヌ、モナコのモンテカルロ、2017年1月にベルギーのブリュッセルで公演し通算公演回数は16回を数える。劇場を祝祭の場へと変えるベジャールの力量が存分に発揮され、巨匠一流の深い哲学性にも裏打ちされているので、残るべくして残ったといえるのではあるまいか。そして、このような超大作の上演は世界的にも限られるため、日本発信の国際芸術交流プロジェクトとして破格である。
その至高の舞台が〈上野の森バレエホリデイ2020〉の一環として日本で再び上演されることは喜ばしい。2020年はベートーヴェン生誕250年、そして東京オリンピック開催年にあたる。じつは『第九交響曲』はベジャールが20世紀バレエ団を率いていた頃、1968年のメキシコシティーオリンピック開幕イベントでも披露された。友愛、連帯、世界平和への願いこそ近代五輪の目指すところで、それは芸術も大いに語り得る。21世紀に入っても戦禍は続き、多くの対立が発生し、自然災害も絶えない。われわれ人間の根源に立ち戻り、皆でいかに生きるべきかを問うベジャールの『第九交響曲』は、今こそ上演されるべき不朽の名作である。
高橋森彦(舞踊 評論家)
会場:東京文化会館
指揮:梅田俊明
演奏:東京都交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ
*独唱ソリストについては調整中につき近日発表。
モーリス・ベジャール・バレエ団、 東京バレエ団
S=¥25,000 A=¥20,000 B=¥15,000 C=¥12,000 D=¥9,000 E=¥6,000
※*ペア割[S,A,B席]あり
★U25シート ¥3,000
※NBS WEBチケットのみで2020/3/19(木)20:00より引換券を発売。