2020年1月中旬詳細発表予定 ミラノ・スカラ座 2020年9月 日本公演 メト、ウィーン、パリを沸かせたマリーナ・レベカのヴィオレッタ 聴くべきはスカラ座での本領発揮! Photo: Brescia e Amisano-Teatro alla Scala

Photo: Brescia e Amisano-Teatro alla Scala

 何とクリーミーでリッチな、純度の高い声質だろう! 初めてマリーナ・レベカの歌を耳にした人は、声のグルメであればあるほど、きっと魅了されてしまうに違いない。
 情報の早い人はもうチェックしているだろう。レベカは、2008年にはロッシーニ・オペラ・フェスティバル来日公演でアルベルト・ゼッダ指揮のもと『マホメット2世』アンナ役を歌っていた。ヨーロッパでブレイクしたのはその直後、リッカルド・ムーティが2009年のザルツブルク音楽祭で同じくロッシーニ『モーゼとファラオ』アナイ役に抜擢してからだ。ちなみに同じ演目をムーティが6年前にスカラ座で振ったときには同役をあのバルバラ・フリットリが歌っている。つまりムーティはレベカをフリットリの後継者とみなしているということにもなる。確かに、しなやかなリズム感と美しい音程、高貴さと力強さにおいて、レベカはフリットリを少し思わせるものがある。モーツァルトとヴェルディを大切にしていることも、共通である。
 レベカが自身のレーベル「Prima classic」からリリースしている名刺代わりのアルバム「Spirito」は、ベッリーニ『ノルマ』『海賊』、ドニゼッティ『マリア・ストゥアルダ』『アンナ・ボレーナ』、スポンティーニ『ヴェスタの巫女』から抜粋が収められているが、これを聴くと、彼女が途方もない可能性を持ったベルカントの歌手であることがわかる。深さと軽さをバランスよく兼ね備えた声、軽々と超高音をクリアするコロラトゥーラ、息長く、なめらかに歌うカンタービレ、すべての要素が一体となり、心に迫る音楽へと昇華されているからだ。
 公式サイトのインタビュー動画によれば、レパートリーについては可能な限り作曲家の自筆譜をあたるなど、極めて研究熱心な取り組みを見せている。このあたり、ローマのサンタ・チェチーリア音楽院を卒業したのち、ゼッダの指導のもとアカデミア・ロッシニアーナで研鑽を積んだ経験も生きているのだろう。まずロッシーニ歌手として評価を高めたというのは、見落とせない頼もしいキャリアである。
 レベカの出身はラトビアである。旧ソ連のバルト3国のひとつ、ラトビアといえば、すぐれた音楽家たちが続々と輩出されていることでも注目されている。指揮者ではマリス・ヤンソンス、アンドリス・ネルソンス、歌手ではエリーナ・ガランチャ、クリスティーネ・オポライスがそうだ。ヴァイオリンのギドン・クレーメル、チェロのミッシャ・マイスキーもラトビアの出身である。人口200万という小さな国は、日本でいえばちょうど名古屋くらいの規模だが、なぜこれほどラトビアからすぐれた音楽家が次々出てくるかというと、この国の存立基盤に歌があるからだ。軍事力では大国にはとうてい勝ち目のないラトビアが、独立することができたのは、歌の力によって団結するからである。リガの中心部にある「自由の記念碑」の根元には、歌う人々の姿が彫刻されている。
 歌の国ラトビアで、レベカは生まれ育ちながら、最初はバレエ・ダンサーを目指していたのだという。そんな少女時代に『ノルマ』に出会ったことで、同じ劇場ではあっても、オペラ歌手になることの方を決心したのだそうだ。  いまやレベカは、欧米でも引く手あまたのスターとして、日の出の勢いで活躍を広げている。この秋からのシーズンには、まずウィーン国立歌劇場で『シモン・ボッカネグラ』アメーリア役、『エフゲニー・オネーギン』タチアーナ役、『トロヴァトーレ』レオノーラ役、ハンブルク歌劇場で『ノルマ』題名役、そして本命ともいうべきミラノ・スカラ座『椿姫』ヴィオレッタ役と続く。
 レベカにとって、実はもっとも思い入れの強い作品のひとつが、この『椿姫』である。2007年にウィーン・フォルクスオーパーでデビューして躍進のきっかけとなったのがヴィオレッタ役であり、それ以降もレベカの自信ある役柄のひとつとして定着していったからだ。年内には全曲盤のリリースも予定されている。
 イタリア・オペラの総本山であるスカラでの『椿姫』は、レベカ自身、相当に期するものがあるだろう。その舞台がそのまま日本にやってくるとなれば、これは最高の聴きものになることは間違いない。