CAST

 豪華なアパルトマンの主人が亡くなり、その全財産がオークションにかけられる。せわしなく働く競売人と助手の間には、主に忠実に尽くしてきた侍女のナニーナが座り、慣れ親しんだこの部屋に別れを告げている。興味本位の客や亡くなった主の知人、友人が訪れ、競売品をながめている。そのなかに、老紳士のデュヴァルがいた。突然、若者が駆け込んで来る。息子のアルマン・デュヴァルだ。見覚えのある品々を見て、何が起きたかを悟った彼は、その場に倒れこむ。父は、息子を優しく支える。思い出が次々とよみがえるなか、アルマンは彼女とのことを語りはじめた。

 始まりは、ヴァリエテ座でのこと。バレエ『マノン・レスコー』上演中のことだった。客席には、パリでもっとも美しく、魅力的な高級娼婦、マルグリット・ゴーティエがいた。彼女はマノンの苦しみに心を打たれ、親近感を覚えるも、自分はマノンのようにはならない、と抗う。マルグリットに憧れていたアルマンは、その夜、はじめて彼女に紹介される。感激するアルマン。彼は、この悲劇のバレエに興味を抱く。マノンの誠実な恋人、デ・グリューに共感し、自分の未来もデ・グリューと同じように悲劇的な運命を辿るのではないかと恐れるのだった。
 終演後、マルグリットは若くて退屈なN伯爵と一緒であったが、アルマンの友人のガストンと娼婦仲間のプリュダンスを招くことにした。マルグリットは、伯爵を困らせるためにアルマンを利用したのだ。N伯爵は嫉妬心にかられて部屋を飛び出した。突然、マルグリットが咳き込む。アルマンは彼女を追い、手を差し伸べると、感情のおもむくままに彼女への愛を告白した。マルグリットは、そんなことは信じられないと拒否するが、同時に、彼の告白に心を打たれていた。その後、二人の関係は深まっていく。が、マルグリットはこれまでどおり、連日の宴を楽しみ、たくさんの求愛者に囲まれ、年寄りの公爵から若い伯爵へとわたり歩く派手な生活を続けていた。それでもアルマンは、いつも彼女を待っていた。公爵がマルグリットの健康を心配して田舎の家を用意すると、そこへも彼女について行ったのだった。

 田舎の家でも、公爵のお金で贅沢な生活を続けていたマルグリット。アルマンは、公の場で公爵と対立してしまう。そこでマルグリットは、はじめてある選択をした。皆の前で恋人をかばい、公爵の富と保護に支えられた生活を捨てたのである。腹を立てた公爵はその場を去った。その友人たちも行ってしまった。

そんな幸せはもう遠い過去になってしまったと絶望したアルマンは、再び倒れこむ。父・デュヴァルは、息子の語る物語のなかで自分がどんな役を果たしたかを思い出している。息子の暮らしぶりを聞きつけた父は、息子の知らぬ間に田舎の家を訪ね、マルグリットにアルマンと別れるよう頼んだのだった。マルグリットは、アルマンへの深い、真実の愛のあかしとして、身をひくことを決意した。

アルマンの外出中にマルグリットはパリに戻り、かつての生活に身を投じた。落ち着きを取り戻したアルマンは、彼女の消えた、空っぽの家に戻ってきたときのことを話す。マルグリットの帰りを待っていたアルマンは、ナニーナから彼女の手紙を受け取った。そこには、アルマンと別れ、以前の生活に戻ると書かれている。信じられない、と彼はパリへと急いだ。夜どおし歩き続け、マルグリットのアパルトマンにたどり着いた彼が目にしたのは、ほかの男の腕に抱かれる彼女の姿だった。

 しばらくして、二人はシャンゼリゼで偶然出会う。マルグリットは美しい娼婦仲間のオランプと一緒だった。自分を深く傷つけたマルグリットへの復讐のために、アルマンはオランプを自分のものにしようとする。死に至る病を患っているマルグリットは、アルマンの部屋を訪ね、自分を苦しめる振る舞いはやめてほしいと懇願する。二人の思いは再び燃え上がった。しかし、眠りについたマルグリットは、マノンの悪夢に襲われる。目覚めた彼女は、約束を守り、再び愛するアルマンのもとを去ることを決めた。その後、ある舞踏会でマルグリットに出くわしたアルマンは、娼婦への“報酬”として、分厚い札束の包みを彼女に手渡し、公衆の面前で彼女を侮辱した。マルグリットは気を失った。
 アルマンの話はここで終わる。胸を打たれる父。二人はここで別れ、アルマンが来ていると聞きつけたナニーナが、マルグリットの日記を持ってくる。読みすすめたアルマンは、彼女が急速に病に冒されていったことを知る。最後に『マノン・レスコー』の舞台を観た日のことも書かれている。アメリカに追放されたマノンは、貧困のなか、恋人デ・グリューの腕に抱かれて死ぬ。病と絶望にうちひしがれたマルグリットは、劇場を出た後もバレエの登場人物たちの幻影にさいなまれていた。もう一度アルマンに会いたい。友人たちに見捨てられたマルグリットは、その切なる思いを日記に綴っていた。日記をナニーナに託し、孤独と貧困のなか、マルグリットは息をひきとったのだった。

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