「ばらの騎士」全3幕

作曲:R.シュトラウス
演出:オットーシェンク
装置:ルドルフ・ハインリッヒ
衣裳:エルニ・クニーペルト

ウィーンならではの甘美で豊麗な世界。時は移ろい、新しい神話が生まれる!
Photo: Wiener Staatsoper / Michael Poehn

 典雅でもの悲しい雰囲気ただよう黄昏のウィーン。『ばらの騎士』は18世紀のウィーンを舞台とする恋愛喜劇。ウィーンでもっとも愛されているウィーンらしいオペラです。リヒャルト・シュトラウスとホフマンスタールの名コンビが生んだ最高傑作。ウィーンの上流社会を舞台に、美しかった過去への追憶。青年への儚い愛。えもいわれない甘美で危うい世界を、優美かつ豊麗な音楽で奏でるR.シュトラウスの絢爛たるオペラ。なかでも第2幕の銀のばらを献呈するシーンや終幕の三重唱は、観る者をめくるめく陶酔の世界にいざないます。
 去る1月9日に亡くなったウィーン生まれの演出家オートー・シェンクの演出は、1968年以来、変わることなく続いている名演出。シェンク自身によれば「音楽とテキストによって多くが決められており、それを再現するだけでいい」ということで、奇抜さや恣意的な演出はありません。
 ウィーン国立歌劇場の『ばらの騎士』と聞けば、1994年のカルロス・クライバーの伝説的な名演を思い浮かべる人もいるかと思います。時は無慈悲にも過ぎ去り、時代とともに新しい才能が生まれています。フィリップ・ジョルダンはこの作品の指揮に格別の熱情を抱いています。ジョルダン指揮のウィーン国立歌劇場管弦楽団(ウィーン・フィルの母体)が優美かつ豊麗な音を響かせ、名歌手たちの魅力的な歌声と相まって、陶酔的な美しい世界を現出させます。時代は移り、この秋、新しい神話の誕生に立ち会えるに違いありません。

フィリップ・ジョルダン(指揮)
Photo: Wiener Staatsoper / Michael Poehn
R.シュトラウスを敬愛し、正統を継ぐ『ばらの騎士』の奥義を究める

 フィリップ・ジョルダンは、今回の日本公演の直前となる2025年9月でウィーン国立歌劇場音楽監督を退任することが決まっていますが、在任中の5年間には『蝶々夫人』、『パルジファル』、『マクベス』、『フィガロの結婚』、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』、『トリスタンとイゾルデ』、『サロメ』の新制作を指揮し、音楽監督として存在感を示してきました。
 ジョルダンは作曲家としてだけではなく指揮者でもあったR.シュトラウスについて、そして『ばらの騎士』について格別な思いを抱いているようです。自身が10代のころから勉強し始め、20代なかばで初めてベルリンで指揮したことを振り返りながら、『ばらの騎士』を指揮するためには音楽面だけでなく、幅広い視野と経験を積むことが必要だと語っています。
 コロナ禍によるロックダウン中、ウィーン国立歌劇場は無観客でライブストリーミング行いました。音楽監督就任から3カ月後の2020年12月、ジョルダンが振ったのは『ばらの騎士』でした。スコアを読むだけでなく、演奏の歴史や伝統を踏まえたうえで新しい答えを見つけるために、つねに問い続けなければならないのだというジョルダン。今回の日本公演では、ジョルダンのR.シュトラウスと『ばらの騎士』に対する敬愛の念と、彼がこれまで探求し続けてきた一つの成果が披露されるに違いありません。

あらすじ

18世紀のウィーン。元帥夫人マリー・テレーズは年下の青年伯爵オクタヴィアンを愛している。しかし彼女は、いずれ彼が若い恋人のもとに去るだろうと予感している。元帥夫人のいとこオックス男爵が、新興貴族ファーニナルの娘ゾフィーと婚約したので、彼女に「銀のばら」を届ける使者を探してほしいとやって来る。元帥夫人はいたずら心から、ばらの騎士としてオクタヴィアンを推薦する。「銀のばら」を贈るため訪れたファーニナルの館で、オクタヴィアンとゾフィーは互いに一目で恋に落ちる。オクタヴィアンは、ゾフィーとオックスとの結婚を阻止するために一計を案じる。オックスが騒いで警察沙汰となるが、現れた元帥夫人がその場をおさめる。そして元帥夫人はオクタヴィアンとの別れを悟る。

Photo: Wiener Staatsoper / Michael Poehn

Photo: Wiener Staatsoper / Michael Poehn

指揮

フィリップ・ジョルダン

チューリッヒ生まれ。指揮者アルミン・ジョルダンを父に、芸術家一家に育ち、チューリッヒの学校で学んだ。各地の歌劇場で経験を積み、現在では世界の主要なオペラハウス、音楽祭、オーケストラに出演する、現代で最も定評のある重要な指揮者の一人とみなされている。
指揮者としてのキャリアは、ドイツのウルム市立劇場とベルリン国立歌劇場のカペルマイスター(楽長)としてスタートした。 2001年から2004年までグラーツ歌劇場およびグラーツ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を務め、この間には、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場、英国ロイヤル・オペラ、ミラノ・スカラ座、バイエルン国立歌劇場、ウィーン国立歌劇場、バーデン=バーデン祝祭劇場、エクス=アン=プロヴァンス音楽祭、グラインドボーン音楽祭、ザルツブルク音楽祭など、世界有数のオペラハウスや音楽祭にデビューした。2006年から2010年まで、ベルリン国立歌劇場首席客演指揮者。2012年には『パルジファル』でバイロイト音楽祭にデビュー、2017年には同音楽祭で新制作『ニュルンベルクのマイスタージンガー』を指揮。2009年から2021年までパリ・オペラ座の音楽監督を務め、『モーゼとアロン』、『ファウストの劫罰』、『ばらの騎士』、『サムソンとデリラ』、『ローエングリン』、『ドン・カルロ』(オリジナルのフランス語版)、『トロイアの人々』、『ドン・ジョヴァンニ』、ボロディンの『イーゴリ公』の新制作、ワーグナーの《ニーベルングの指環》演奏会版など数多くの初演や再演を指揮した。2014年から2020年まで、ウィーン交響楽団首席指揮者。
2020年9月ウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任。新制作を含む数多くの作品を上演してきた。2023/24シーズンには、プッチーニの〈三部作〉の新制作を指揮。2021年の『ドン・ジョヴァンニ』、2023年の『フィガロの結婚』、そして2024年の『コジ・ファン・トゥッテ』の新制作によって、「ダ・ポンテ・チクルス」も完了をみた。

Photo: Maurice Haas

陸軍元帥ヴェルテンベルク侯爵夫人(マルシャリン)

カミラ・ニールンド

フィンランドのヴァーサ出身。はじめエヴァ・イレスに師事し、その後ザルツブルクのモーツァルテウムでオペラと歌曲を学んだ。ハノーバー歌劇場、ドレスデン国立歌劇場の専属歌手を経て、活躍の場を広げた。これまでにウィーン国立歌劇場、バイエルン国立歌劇場、メトロポリタン歌劇場、ミラノ・スカラ座、パリ・バスティーユ、ベルリンとハンブルクの国立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、バイロイト音楽祭とザルツブルク音楽祭、バルセロナ、バレンシア、チューリッヒ、ヘルシンキ、ケルン、フランクフルト、アムステルダム、東京、サンフランシスコなど、世界中の主要なオペラハウスに定期的に出演している。なかでも、バイロイト音楽祭における名声は特筆される。2011年『タンホイザー』のエルザでのデビュー以来、数年にわたり『ワルキューレ』のジークリンデ、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』のエヴァとして出演したほか、2022年には『ローエングリン』のエルザで登場した。ウィーン国立歌劇場へのデビューは2005年『サロメ』のタイトルロール。2019年には、ウィーン国立歌劇場との長く成功した芸術的関係を称え、オーストリアの宮廷歌手の称号が贈られている。

Photo: Paul Cochrane

オックス男爵

ピーター・ローズ

オックス男爵役の“世界的代表”として広く知られている。ウィーン国立歌劇場、メトロポリタン歌劇場、ミラノ・スカラ座、英国ロイヤル・オペラなど、世界の主要な劇場で上演された『ばらの騎士』の舞台で、この役を喜劇のように完璧に歌い上げている。その表現力が生かされるレパートリーは幅広く、『後宮からの逃走』のオスミン、『ジークフリート』のファーフナー、『ボリス・ゴドゥノフ』と『ファルスタッフ』のタイトルロール、『ドン・ジョヴァンニ 』の騎士長とレポレッロ、『マクベス 』のバンクォー、『死者の家から 』のゴリャンチコフ、『トリスタンとイゾルデ 』のマルケ王、『ホフマン物語』の 四人の悪役、『フィデリオ 』のロッコなどがある。また、メトロポリタン歌劇場デビューを果たし、特に高い評価を得た『真夏の夜の夢』のボトム役の秀逸さも有名。コンサートでは、クリーブランド管弦楽団やニューヨーク・フィルハーモニックとの共演、カルロス・クライバー、ロリン・マゼール、カルロ・マリア・ジュリーニ、クルト・マズア、ベルナルト・ハイティンク、サイモン・ラトル、ダニエル・バレンボイム、ズービン・メータ、クリスティアン・ティーレマン、ゲオルク・ショルティ、チャールズ・マッケラス、キリル・ペトレンコなどの指揮者と共演している。

Photo: Dario Acosta

オクタヴィアン

サマンサ・ハンキー

アメリカ、マサチューセッツ州出身のメゾ・ソプラノ。ジュリアード音楽院で学んだ。オペラリアほか、いくつものコンクールで優れた成績を獲得。2017年にメトロポリタン歌劇場にデビュー。以来、『メフィストーフェレ』のパンタリス、『ラインの黄金』と『神々の黄昏』のヴェルグンデ、マスネ作曲『サンドリヨン』のシャルマン王子、『ばらの騎士』のオクタヴィアン、『ロメオとジュリエット』のステファノなどで出演している。2019年から21年にはバイエルン国立歌劇場と契約し、数々の役で出演したが、そこには2021年のバリー・コスキーによる新演出『ばらの騎士』のオクタヴィアンも含まれている。2023/24シーズンには、デトロイト・オペラに『利口な女狐の物語』の女狐で、英国ロイヤル・オペラに『コジ・ファン・トゥッテ』のドラベッラでデビューした。また2024年夏にはジェームズ・コンロン指揮シカゴ交響楽団との共演により、『イドメネオ』のイダマンテ役でラヴィニア音楽祭にデビューを果たした。2025年3月にバイエルン国立歌劇場で再びオクタヴィアンを演じるほか、6月には『ドン・ジョヴァンニ』のドンナ・エルヴィラ役のロール・デビューが予定されている。

photo: Nikolaus Karlinský

ファーニナル

アドリアン・エレート

オーストリア出身のバリトン。長年にわたり多彩な歌唱力で、拠点とするウィーン国立歌劇場をはじめ国際的な舞台で聴衆を魅了している。幅広いレパートリーのなかでも、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』のベックメッサー役は高い評価を得ており、バイロイト音楽祭をはじめ、チューリッヒ、ケルン、ライプツィヒ、東京、アムステルダム、ドレスデン、ザルツブルク復活祭音楽に出演。ウィーン国立歌劇場には、2001年に『ロメオとジュリエット』のマキューシオでデビュー。以来『コジ・ファン・トゥッテ』のグリエルモと伯爵、『セビリアの理髪師』のフィガロ、『ビリー・バッド』のタイトルロール、『ペレアスとメリザンド』のペレアス、『ファウスト』のヴァランタン、『こうもり』のアイゼンシュタインなど、数多くの役を歌っているが、世界初演のアリベルト・ライマン作曲『メデア』には彼のために書かれた男性の主役があることや、作曲家自身の指揮により初演されたトーマス・アデスの『テンペスト』オーストリア初演でのプロスペロー役なども、その存在の大きさを示すところといえる。オーストリアの宮廷歌手の称号を贈られている。『ばらの騎士』のファーニナル役は、2014年にザルツブルク音楽祭デビューを飾った役でもある。

Photo: Simon Pauly

ゾフィー

カタリナ・コンラディ

キルギスタン(現キルギス共和国)出身のソプラノ。2013年から16年までベルリン芸術大学およびミュンヘン音楽演劇大学で学んだ。2015年から18年までヴィースバーデン・ヘッセン州立劇場のメンバー、2018年からハンブルク国立歌劇場のメンバーであり、ドイツを拠点に活躍している。2021年にはバイエルン国立歌劇場に『ばらの騎士』のゾフィー役でデビューした。「コンラディの音色は繊細な香りがあり、声は羽のように軽く、重さを感じさせない」(オペランヴェルト)と評される通り、 透明感のある声の正統派リリコ・レジェーロ。2024/25シーズンは、チューリッヒ歌劇場で『仮面舞踏会』のオスカル、バイエルン国立歌劇場で『こうもり』のアデーレ、ハンブルクでの『リゴレット』のジルダはロールデビューとなる。また、同シーズンのハイライトの一つに、キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とのベートーヴェンの交響曲第9番がある。エルプフィルハーモニーではケント・ナガノ指揮のもとモーツァルトのハ短調ミサ曲で共演するなど、コンサートでも活躍している。

主催: 公益財団法人日本舞台芸術振興会 / 日本経済新聞社
後援: 外務省 / 文化庁 / オーストリア大使館 / オーストリア文化フォーラム東京 / TOKYO FM

NBSチケットセンター 
(月-金 10:00~16:00 土日祝・休)

03-3791-8888

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