振付家の金森穣さんが自身のカンパニー「ノイズム」結成以後、他団体のために初めて創作する全幕バレエ『かぐや姫』。今回上演される第1幕では、竹から生まれ翁(おきな)のもとで成長する、可憐でやんちゃなかぐや姫が、初恋を体験し、やがて都へと旅立つまでが描かれます。3月に始まったリハーサルは、8月にほぼすべての振付が終了。いよいよブラッシュアップの段階へと進もうとしています。期待の高まる本作のリハーサルの様子を、「バレエチャンネル」編集長の阿部さや子さんにレポートしていただきました。
海が見える。和柄の
――これは、映画やプロジェクションマッピングの話ではない。
舞台セットも衣裳もない稽古場で、トウシューズを履いたダンサーたちの身体とクロード・ドビュッシーの音楽が、フロアいっぱいに描き出していた風景だ。
日本を代表する振付家・金森穣が初めて東京バレエ団に振付ける、話題の新作『かぐや姫』。8月某日、目黒の同団スタジオでは、振付家本人を迎えてのリハーサルが着々と進んでいた。「かぐや姫」といえば誰もがそれなりのイメージを頭の中に持っていると思うけれど、それが舞踊としてどう表現されるのか?......そんなことを考えながら稽古場におじゃまして、リハーサルが始まるやいなや目に飛び込んできたのが冒頭の光景。クラシック・バレエの訓練によって磨き抜かれたダンサーたちの、滑らかなポワントワークや濁りのないポジション。バレエという上質で丈夫な生地に、波や竹を
Photos: Shoko Matsuhashi
かといってこの作品が抽象的かといえばそうではなく、むしろとても明快で演劇的だ。端的に言えば、これは"あらすじ"を読まずに観ても充分わかる、優れたストーリー・バレエである。かぐや姫を育てるお爺さん(翁)は、昔話からそのまま出てきたかのような佇まいで思わずほっこりしてしまう。村人たちや童たちの直線的な踊りから、そこが貧しく粗野な村であることも伝わってくる。
足立真里亜と秋元康臣
Photo: Shoko Matsuhashi
ネタバレになるので詳しいことは書かないけれど、ヒロイン・かぐや姫の登場シーンは、気持ちいいほど予想と違っていた! 人物造形も、リハーサルを見ての率直な感想は「そうきたか!」。この「かぐや」という少女はとにかく好奇心旺盛で、喜怒哀楽がはっきりしていて、村のいたずらっ子たちも手に負えないほどのおてんばぶり。そしてバレエの主役としては珍しく、トウシューズを履かずに踊る。そんな彼女の日常が、時にアクロバティックですらあるステップやリフトやコンビネーションで、スピーディーに綴られていく。いくつものシーンがまるで紙芝居をめくるように展開して、最後に――やっぱり一番聴きたい"あの曲"と、素敵なパ・ド・ドゥが、私たちを待っていてくれる。かぐやは道児とふれあい、心を通わせ、少しだけ大人になる。道児に手を預け、低い姿勢から回りながらアラベスクへと立ち上がる......かぐやの身体が描いた儚い螺旋の美しさが、目に焼き付いて離れない。
この『かぐや姫』は全3幕の作品として構想されていて、今回上演されるのは第1幕のみだという。ひと足先にリハーサルを見学させていただいて、名作の予感しかしなかった。第2幕がもう観たい。
取材・文:阿部さや子(「バレエチャンネル」編集長)
11月6日(土)14:00
11月7日(日)14:00
会場:東京文化会館
「かぐや姫」
かぐや姫:秋山瑛(11/6)、足立真里亜(11/7)
道児:柄本弾(11/6)、秋元康臣(11/7)
翁:飯田宗孝(11/6、11/7)
「中国の不思議な役人」
中国の役人:大塚卓(11/6、11/7)
無頼漢の首領:鳥海創(11/6)、柄本弾(11/7)
第二の無頼漢ー娘:宮川新大(11/6)、池本祥真(11/7)
ジークフリート:ブラウリオ・アルバレス(11/6)、生方隆之介(11/7)
若い男:伝田陽美(11/6)、二瓶加奈子(11/7)
「ドリーム・タイム」
沖香菜子、三雲友里加、金子仁美、宮川新大、岡崎隼也
S=¥13,000 A=¥11,000 B=¥9,000
C=¥7,000 D=¥5,000 E=¥3,000
U25シート=¥1,500
※ペア割引あり(S、A、B席)
※親子割引あり(S、A、B席)
【新潟公演】
「かぐや姫」第1幕、
「ドリーム・タイム」
11月20日(土)13:00/17:00
りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館