NBS News Web Magazine
毎月第1水曜日と第3水曜日更新
NBS日本舞台芸術振興会
毎月第1水曜日と第3水曜日更新

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2024/01/05(金)

元日早々に起こった能登半島地震に心が痛むが、4日の毎日新聞朝刊で「劇場なくして文化都市なし」と題する秋野有紀氏の論考が目にとまった。思わず我が意を得たりと膝を打った。首都圏の公共ホールの改修・閉館が相次ぐが、縦割り行政の弊害で事前に調整されているふしはない。舞台芸術のインフラである劇場が人災によって次々に消えていく。テレビで被災地の惨状を目にして、なぜか無慈悲に破壊されていく舞台芸術の風景とダブって見えた。(T)

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2023/11/24(金)

東京バレエ団の創立60周年シリーズが始まったばかりだが、突然、初代芸術監督、北原秀晃氏の訃報が入ってきた。1964年の創立時から1978年まで、創立者の佐々木忠次と二人三脚で東京バレエ団の基礎を築いた人だった。不幸なことに、あることをきっかけに佐々木忠次と袂を分かつことになったが、人生という試合が終わればノーサイド。いまごろは黄泉の国で再会して、お互いの健闘を称え合っているのではないか。ご冥福をお祈りいたします。(T)

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2023/11/08(水)

東京バレエ団は創立60周年を迎える。60歳といえば人間なら「還暦」だ。記念公演の第1弾、金森穣演出・振付による「かぐや姫」に続き、第2弾である斎藤友佳理新演出の「眠れる森の美女」の世界初演が目前に控えている。この「眠り」はコロナ禍や戦争の影響をまともに受けたが、暗雲を吹き飛ばし輝く太陽のような「眠り」が、いよいよ産声をあげる。「還暦」は新たな人生の始まりといわれるが、いまから東京バレエ団の新しい歴史が始まるのだ。(T)

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2023/10/24(火)

東京バレエ団創立60周年記念公演第1弾、金森穣振付の「かぐや姫」全幕世界初演を成功裏に終えることができた。日本人振付家による日本をテーマにした東京バレエ団が海外公演にもっていける作品を、と5年前に金森氏に委嘱したものだった。第1幕、第2幕と初演し、3年がかりで全幕初演に漕ぎつけた。さあ、世界に向けた出航の準備は整った。麗しのかぐや姫よ、健やかでつつがない旅を。貴女は世界を魅了するために生まれてきたのだから。(T)

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2023/10/04(水)

東京バレエ団の創立60周年シリーズが始まる。第1弾は10月20日が初日の金森穣振付の「かぐや姫」全幕初演。そして第2弾は11月11日が初日の斎藤友佳理新演出「眠れる森の美女」。さまざまな経緯があってのことだが、二つの新制作初日が3週間しか空いていない。このことを知ると世界のバレエ関係者は一様に驚く。これほど豪華な周年シリーズの開幕はないのでは?手前味噌ながらこの60年間、たゆみなく実績を重ねてきた成果と思いたい。(T)

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2023/09/22(金)

4年ぶりにオペラの引っ越し公演が実現した。ローマ歌劇場による『椿姫』と『トスカ』。お客さまの反応も復活を喜ぶ声ばかりだ。コロナ禍で中断していた間に、オペラ引っ越し公演を取り巻く状況が一層きびしくなり、さらに観客の高齢化が進んでいる。若い観客の育成は、どこの劇場にとっても共通の課題だ。ローマ歌劇場では孫を劇場に連れてくると、おじいさん、おばあさんのチケットが半額になるという。若い血を注入しなければ、枯れてしまう。(T)

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2023/03/01(水)

ハンブルク・バレエ団の来日記者会見で、ジョン・ノイマイヤーはモーリス・ベジャールとの秘話を語った。出会ってすぐに親しくなったが、あるときベジャールから1年間お互いのバレエ団を取り替えないかという突飛な提案を受けたという。それは実現しなかったが、ベジャールは日常に飽き飽きしていたらしい。クリエーターとしての渇望感が、その後、刺激を求めて東京バレエ団で「ザ・カブキ」を創ることに繋がったのではと、思い当たった。(T)

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2023/01/25(水)

金森穣著『闘う舞踊団』(夕書房)が著者代送で届いた。本の帯に「すべてはこの国の劇場文化のために」とある。そういえば、プリセツカヤの『闘う白鳥』という自伝があった。佐々木忠次にも『闘うバレエ』という本がある。そして金森さんの『闘う舞踊団』。舞踊は闘うものなのだと、妙に得心した。優雅に湖面を滑るように泳いでいる白鳥も、水面下では足を激しくバタつかせ水をかいている。前に進むためには闘わなければならないのだ。(T)

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2023/01/05(木)

今年の元旦は雲一つない青空が広がった。「何となく、今年はよい事あるごとし。元旦の朝、晴れて風なし」(啄木)。元旦といえばウィーン・フィルのニューイヤーコンサート。毎年、テレビでこれを見ると新しい年を迎えたと実感する。今年はフランツ・ウェルザー=メストの指揮で、15曲中14曲が初登場の曲で新鮮だった。ブラヴォーが飛び交い、コロナ前の活気が戻った。最後はお決まりのラデツキー行進曲で元気をもらう。今年はよい事あるごとし。(T)

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2022/12/27(火)

東京バレエ団は『くるみ割り人形』をもって、記録的な大雪に見舞われている新潟、長野、岡谷を巡演中だが、文化庁芸術祭舞踊部門で大賞を受賞したとの知らせが届いた。10月に上演した『ラ・バヤデール』が対象で、「古典バレエ名作の、非の打ち所のない名演」と評価されたのは嬉しいかぎりだ。文化庁芸術祭は終戦の翌年1946年から77年間にわたって、わが国の芸術を映しだす鏡だった。来る年にはどんな新しい景色が見られるのだろうか。(T)

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2022/12/20(火)

いま日本経済新聞の「私の履歴書」で指揮者のリッカルド・ムーティの連載が進行中だが、私にとって1回1回がとても興味深く、毎朝、読むのを楽しみにしている。19回目の今日はカルロス・クライバーだった。クライバーとムーティ、私がもっとも敬愛する指揮者だ。幸いにも私は二人の天才の謦咳に接することができたが、彼らの共通点は抜群のユーモアのセンスをもっていることではないか。この出色の連載が終わるとともに、今年も暮れる。(T)

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2022/08/10(水)

三宅一生さんの訃報に接し、さまざまな思いが去来している。ベジャールやギエムとも親しかった。ベジャールの「ボレロ」の男性40人の衣裳は、もとはモノトーンの水夫の服装を模したものだったが、ベジャールが一生さんに衣裳を変えたいので考えてくれないかと頼んだ。しばらくたって一生さんから届いた返事は、ダンサーは身体が綺麗だから裸のほうが良いということだった。「ボレロ」の男性たちの"衣裳"は、ISSEY MIYAKEデザインなのだ。(T)

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2022/08/03(水)

東京バレエ団は〈HOPE JAPAN〉のツアー中だが、新しくできた高崎芸術劇場と、札幌文化芸術劇場を見たくて両公演に出向いた。東京の劇場不足は深刻だが、地方には羨ましくなるような立派な劇場がいくつもできている。今回のツアーは「アートキャラバン」と題する文化庁の助成事業。文化芸術の東京一極集中が言われて久しいが、本事業が来年以降も継続することで、各地の新しい劇場が地方創生の拠点として発展していくことを願うばかりだ。(T)

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2022/07/21(木)

コロナの感染者が急激に増え、第7波が襲っている。政府は行動制限を考えていないようだが、東京バレエ団は真夏の"死のロード"を控えている。明日からの東京文化会館での〈ベジャール・ガラ〉を皮切りに、〈HOPE JAPAN〉ツアー、地元で恒例の〈めぐろバレエ祭り〉、子どものためのバレエ「ドン・キホーテの夢」ツアーと、8月28日まで全国15都市で22 公演という強行軍が続く。雨ニモマケズ、風ニモマケズ、猛暑ニモ、コロナニモマケズ・・・(T)

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2022/07/06(水)

引っ越しオペラの代わりに企画したソニア・ヨンチェヴァの初来日コンサート。海外の評判を裏付ける圧巻のステージに、客席は熱気に溢れ、最後は観客総立ちだった。彼女こそ当代随一のプリマドンナだと、得心した人も多かったのではないか。素顔は気さくでチャーミング。日本に憧れをもっていて、海外でも好んで和食を食べているという。今回は3泊4日の強行軍。できるだけ早く帰ってきたいと言い残して、終演後、夜の便で帰国の途についた。(T)

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2022/06/15(水)

東京バレエ団の「ドン・キホーテ」公演が目前だ。前回の「ドンキ」は2年前の7月に予定していたが、緊急事態宣言により急遽9月に延期した。いつ中止に追い込まれるかビクビクしながらの公演だった。あれから20か月、ドン・キホーテのようにコロナという巨大な風車に向かって、無謀で愚直に挑み続けてきたような気がする。コロナ禍にも出口が見え始めたようだが、バレエの結末のように、早く明るく陽気なハッピーエンドが訪れてほしい。(T)

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2022/06/01(水)

コロナの話題がめっきり少なくなった。コロナを恐れるばかりでなく、これからはコロナと共生しながら、本格的な舞台芸術の再生が必要になるだろう。7月22日から東京バレエ団はベジャール振付の三大傑作のひとつ「火の鳥」を9年ぶりに再演する。ベジャールの「火の鳥」のテーマは闘争と再生だ。ウクライナでの戦争とコロナからの再生。ベジャールは今日の状況を予見していたのだろうか。いまこそ「火の鳥」が炎の中から蘇り、復活する時だ。(T)

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2022/05/18(水)

東京バレエ団の団長で前芸術監督だった飯田宗孝が急逝した。64歳という早すぎる旅立ちだった。42年間、東京バレエ団一筋の人生だった。佐々木忠次やモーリス・ベジャールからも目をかけられ、「キューピー」と呼ばれて可愛がられた。やさしく気配りの人で、誰からも慕われた。長く患っていた佐々木の面倒を最期まで見ていたのが飯田だった。寂しがり屋だった佐々木が手招きしたに違いない。いまごろ天国で再会を果たしていることだろう。(T)

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2022/05/06(金)

3年ぶりに〈上野の森バレエホリデイ〉をリアルで開催できた。親子連れの明るい表情を見て、コロナ前の状況に戻りつつあると感じる。この〈バレエホリデイ〉は文化庁の委託事業なのだが、助成の仕組みが5年間限りなので今回が最後になる。バレエの裾野を広げる事業として成果を上げてきただけに、来年以降も継続できないものか。大規模なイベントだから助成金はもちろん協賛スポンサーも必要だ。次回実現のために救世主が現れんことを。(T)

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2022/04/21(木)

若葉萌える1年で一番いい季節なのに、なぜか心が浮き立たない。連日報道されるウクライナの悲惨な光景が頭から離れないからに違いない。ゴールデンウィークには〈上野の森バレエホリデイ〉があるが、今年は3年ぶりにバーチャルだけではなくリアルでも開催できそうだ。東京バレエ団は「ロミオとジュリエット」を上演する。対立する家同士と純真な恋に疾走する若者の悲劇は、いまあらためて、争いを止めて愛し合おうと呼びかけているようだ。(T)

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2022/04/06(水)

長引くコロナ禍と戦争の暗い話題ばかりで、気分が晴れないままだ。3年連続でオペラの引っ越し公演ができずにいるが、ファンのオペラ熱を冷ましてはならない。〈旬の名歌手シリーズ〉と銘打って3企画のオペラ・アリアのコンサートを開催することにした。ヨンチェヴァ、フローレスはただ1回のみ、オロペサとサルシのデュオは2回。非常時につき採算度外視だ。いま最高潮の歌手たちの輝かしい声により、かつての熱気が戻ることを願っている。(T)

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2022/03/16(水)

〈シュツットガルト・バレエ団の輝けるスターたち〉の公演が19日に迫っているが、今日25時間の長旅のすえ、15名全員が元気に到着した。コロナの入国規制で再三フライト変更を余儀なくされ、ロシア軍のウクライナ侵攻で便の確保も難しい。加えて出発前日からドイツ各地の空港でストライキが始まり、急遽、真夜中の3時半にシュツットガルトを出発した。だが彼らの士気は高い。きっと暗雲を一掃するような凄い舞台を観せてくれるだろう。(T)

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2022/03/02(水)

ロシア軍がウクライナに侵攻した。正気の沙汰とは思えない。我々の舞台芸術の世界にも影響が出始めている。海外の劇場が次々にウクライナへの連帯を表明し、ロシア人アーティストや団体の公演を「安全と治安上」の理由から中止・延期すると発表している。ロシア人、ウクライナ人の音楽家やバレエ・ダンサーは多い。政治と文化芸術は分けて考えなければならない。誰のための、何のための戦争なのか。守るべきものは何なのか。一刻も早く停戦を。(T)

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2022/02/16(水)

ドーピング騒動で話題をさらっている15歳のワリエワ選手の演技をテレビで観ていて、彼女はまさにバレリーナだと感じた。フィギュアスケートとバレエとの共通点は多い。そもそも1860年代にバレエ教師がフィギアにバレエのポーズやステップを持ち込んで音楽の伴奏をつけたのだから似ていて当然なのだ。18日から東京バレエ団の「白鳥の湖」が始まるが、フィギュアスケート好きには、ぜひバレエも体験してほしい。バレエはオーケストラの生演奏に、舞台装置、衣裳、照明などがつく総合芸術だ。感動が何倍にも増幅して迫ってくる。(T)

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2022/02/02(水)

明日は節分。オミクロン株が猛威をふるい、感染者が過去最多になっている。中止になったシュツットガルト・バレエ団に代えて、3月半ばに「シュツットガルト・バレエ団の輝けるスターたち」と題するガラ公演を行うことにした。2月一杯は水際対策で入国がきびしく制限されているが、3月には緩和されることを祈るばかりだ。2年に及ぶコロナ禍で、諦めず希望をもち続け、したたかに生きるすべを学んだ。鬼は外!コロナを追い払い、春よ、来い!(T)

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2022/01/05(水)

年末年始はピアニストの反田恭平さんのメディアへの露出が目立った。すでに評価されている人だから、ショパン・コンクールへの挑戦は賭けだったに違いないが、見事2位入賞を果たし賭けに勝った。彼の夢は音楽の学校をつくることだそうで、その夢に向かって逆算して今何をすべきか考え取り組んでいるとのこと。今度の入賞は大きな後押しになるだろう。新年を迎え気分一新したいと思っていたところ、反田さんの活躍に勇気と希望をもらった。(T)

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2021/12/20(月)

いま思い返しても8月に〈世界バレエフェスティバル〉を実施できたのは奇跡だったとしか思えない。その映像配信が今日から始まったが、振付や音楽の著作権や著作隣接権の処理に加え、各出演者たちの映像のチェックと、正直、ここまで厄介な作業になるとは思わなかった。配信許可が下りなかった作品もあるが、なにとぞご理解いただきたい。この年末年始は〈世界バレエフェス〉の映像を味わい尽くし、希望に満ちた新しい年を迎えてもらいたい。(T)

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2021/12/15(水)

シュツットガルト・バレエ団日本公演が中止になった。今ドイツはコロナ禍が始まって以来最悪の状態だという。芸術監督のタマシュとリモートで会議をしたが、これから日本公演を楽しみにしていたダンサーたちに中止を伝えなければならないと言って泣き出してしまった。泣きたいのはこちらも同じだ。実現できるものと信じて準備してきたし、この時点の中止は経済的にも大打撃だ。日本のファンも泣いているだろう。この悲劇はいつまで続くのか。(T)

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2021/12/01(水)

東京バレエ団「くるみ割り人形」の全国公演を目前に控え、ようやくコロナ禍の出口が見えてきたと喜んでいたら、オミクロン株の出現で再び警戒態勢に逆戻りだ。これは感染症と人類との戦いだ。ネズミとおもちゃの兵隊との戦いは「くるみ割り人形」だが、このバレエでは人形が王子に変身し、マーシャを不思議の国に連れて行ってくれる。今回の公演によってコロナの不安から救い出し、全国の皆さんにマーシャと同じ幸福な夢を見てもらいたい。(T)

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2021/11/22(月)

今日はモーリス・ベジャールの14回目の命日。今年は例年にも増してベジャール作品の上演が相次いだ。東京バレエ団は「ボレロ」と「ギリシャの踊り」をもって全国を巡演し、ベジャールバレエ団は「バレエ・フォー・ライフ」などを上演した。それらの作品はコロナ禍による閉塞感を打ち破り勇気と希望をくれた。ベジャールは「私が死ぬと土になり、土は花となり、花は香り、香りは人の思想になる」と言ったが、彼は思想となって生き続けている。(T)

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2021/11/17(水)

知人の訃報が相次いでいて気分が滅入っている。東京バレエ団はいま横浜の関内ホールで小学校4年生を対象にした「ドン・キホーテの夢」の公演を行っているが、コロナ禍で抑圧されている子どもたちが無邪気に喜んでいる姿を見て、少し前向きになれた。これからの時代を生き抜くには想像力と創造力が重要になるといわれるが、こうした「心の教育」は有効ではないか。日本の将来を担う人材を育てるために、我々の仕事が役立つなら冥利に尽きる。(T)

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2021/11/03(水)

金森穣振付の「かぐや姫」第1幕の初演が迫ってきた。日本発の全世界を魅了するバレエの創作を金森に託したが、彼が選んだ題材が「かぐや姫」だった。音楽は意想外のドビュッシー。これが形影相伴うように見事に動きに同調している。通し稽古を見て、身贔屓かもしれないが大成功の予感を覚えた。コロナ禍のきびしい制限を乗り越えて、この時期に新作を世に問えるのも僥倖に恵まれたから。まだ見ぬ傑作誕生の瞬間にぜひとも立ち会ってほしい。(T)

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2021/10/20(水)

エディタ・グルベローヴァの突然の訃報に心を搔き乱されている。彼女はNBSがもっとも数多く招聘した歌手だけにさまざまな思い出が去来している。素朴でチャーミングな面と、強烈なプリマドンナの矜持をあわせもっていて、戸惑うこともたびたびだった。彼女はコロラトゥーラの超絶的なテクニックを楽々と操り、周囲を明るく照らし、聴く者を天国に連れて行ってくれた。神から使わされたグルベローヴァは大きな仕事を終え、天に帰って行った。(T)

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2021/10/13(水)

いまベジャール・バレエ団が公演中だが、「バレエ・フォー・ライフ」の後半スクリーンに大写しにされるドンの映像を見るたびに、晩年、彼が苦悩していた姿が蘇ってくる。ドンから「この映像をつくったので見てくれ」といわれて、二人でテレビのモニターで見たのだが、その異様な映像に絶句してしまい、彼に何も声をかけられなかった。そのとき見た映像なのだ。あれから30年、ドンは「ブレーク・フリー」の曲にのって、自由へと旅立っている。(T)

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2021/10/06(水)

10月6日付朝日新聞朝刊で「ライブ業界 視界不良」という見出しの記事を見つけた。ぴあ総研によると、チケット販売額はコロナ禍前に比べて依然半分以下だという。10月1日に緊急事態宣言が解除されたが、感染者が激減した理由はワクチン接種が進んだだけでなく、夏に猛威をふるった後、ウィルス側の事情で一休みしているだけなのかもしれない。第6波の襲来も囁かれている。心の健康のために、鬼の居ぬ間にどうぞ劇場にお越しください。(T)

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2021/09/29(水)

ようやく緊急事態宣言が解除されることになった。モーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)の初日を目前に控え少し安堵している。「不要不急」の対象として劇場に行くのをためらっていた人も、これで大手を振ってBBLの公演に足を運べるのではないか。ほぼ半年にわたって抑圧されていた気持ちを、ここで一気に発散されてはいかがか。「ボレロ」や「バレエ・フォー・ライフ」のプログラムは、興奮と感動で生きる喜びを呼び覚ませてくれるはずだ。(T)

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2021/09/15(水)

本日来訪されたグランドプリンス新高輪の山本総支配人からのプレゼント。チョコレートでできた宝石箱だ。細かな模様が施されている上、ホワイトチョコに公演を直前に控えた「海賊」の写真がプリントされている。チョコレート職人もコロナ禍で仕事が少なくなっているので、はりきって取り組んでくれたという。仕事を毎日継続しなければ腕が落ちるとうかがったが、日々鍛錬が必要なアーティストと同じだ。もったいなくて食べられそうにない。(T)

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2021/09/13(月)

緊急事態宣言が9月30日まで延長になった。「緊急」ではなく「慢性」になってしまっている。9月23日から26日に予定している東京バレエ団の「海賊」も、本来なら追い込みをかけるタイミングだが、50%の入場者制限がかかってしまった。7月30日に遅れて発売した「舞台の魅力体験事業」の26日の公演は50%までまだ余裕がある。この公演はプレ・トークや舞台装置のヒミツ公開の特典付き。「慢性」を打破する「元気の出る」ステージは必見。(T)

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2021/09/03(金)

ミキス・テオドラキス氏の訃報を新聞で見つけて息をのんだ。ベジャール振付の「ギリシャの踊り」の作曲家だ。東京バレエ団は7月3日から19日まで〈HOPE JAPAN〉と題した公演で、この作品と「ボレロ」をもって全国11都市を巡演、8月28日・29日にも〈横浜ベイサイドバレエ〉で港をバックにした野外ステージで、この作品を上演したばかりだ。ギリシャの空と海を感じさせる哀調を帯びた曲がいまだ耳の奥で鳴っている。ご冥福を祈る。(T)

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2021/09/01(水)

東京バレエ団が8月28日・29日に出演した〈横浜ベイサイドバレエ〉は、港の夜景をバックに野外特設ステージで上演される横浜ならではの魅力にあふれた催しだ。2012年以来、前市長の肝いりで3年に一度開催されてきたDance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021の一環だが、総プログラム数は約200にも及ぶ。先の市長選で新しい市長に代わったが、ようやく根付いてきたダンスの祭典をぜひとも継続してほしい。「ダンスの街・横浜」よ、永遠なれ!(T)

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2021/08/23(月)

〈第16回世界バレエフェスティバル〉はコロナに翻弄されながらも、いくつもの障害を乗り越え、薄氷を踏む思いでなんとかゴールまでたどり着きことができた。バレエファンの熱烈な応援と出演者たちの参加への強い意志がなければ、間違いなく途中で挫折していただろう。過去15回の実績とバレエファンの感動体験や熱い思いが一つに結集し、大きな岩を動かしたように感じる。開催実現にご尽力いただいたすべての方々に心より感謝したい。(T)

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2021/07/21(水)

〈HOPE JAPAN〉と題する東京バレエ団の全国10都市をめぐるツアーが終了した。コロナ禍に加え豪雨に見舞われたハラハラの旅だったが、なんとか「希望」をつなぐことができた。ベジャール振付の「ギリシャの踊り」「ボレロ」他のプログラムで、「ボレロ」の後はどこでも熱狂的なスタンディングオベーションだった。もう一度観たいという声がたくさん寄せられているが、8月28日(土)29日(日)の〈横浜ベイサイドバレエ〉でも上演される。(T)

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2021/07/09(金)

4度目の「緊急事態宣言」が発出された。東京五輪の期間中は「蔓延防止」を延長するだけだろうと予想していただけに大ショックだ。直撃を受けるのは、いま開催に向け悪戦苦闘しながら準備を進めている〈世界バレエフェスティバル〉。このコロナ禍においては公演の直前までチケットを買い控える人が多いのだから、このタイミングで販売を停止せざるを得ないのはきびしい。チケットの売り止めがかかるのは7月12日(月)深夜の0:00時から。(T)

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2021/07/08(木)

今回の〈世界バレエフェスティバル〉に、「コロナ禍における開催実現にご支援を!」と呼びかけたところ、700万円を超えるご寄付を頂戴した。感謝感激だ。たくさんの応援コメントもいただいた。〈バレエフェス〉と共に人生を歩んだファンも多く、励まされるとともに身が引き締まる思いだ。まだ開催に向けいくつものハードルがあるが、日本の観客のためバレエ界全体のため、なんとしても実現し期待に応えなければという思いが強くなっている(T)

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2021/07/07(水)

お隣の国、韓国の劇場や実演芸術界は、「リベンジ消費」で活気づいているという。人々がコロナ禍でできなかったことをしようと、劇場やコンサートホールに詰めかけ、チケットの売り切れが相次いでいるらしい。日本もワクチン接種が進み、コロナ禍の出口が見えてきたら、これまでの反動で「リベンジ消費」に向かうのだろうか。オリンピック直後に開催予定の〈世界バレエフェスティバル〉をきっかけに「リベンジ」攻勢が始まらないものだろうか。(T)

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2021/06/02(水)

"イタリアの名花"カルラ・フラッチが亡くなった。享年84歳。〈第1回世界バレエフェスティバル〉で初来日して以来、6回来日。東京バレエ団を愛してくれ、86年のミラノ・スカラ座公演に「レ・シルフィード」でゲスト出演。家族のように思っていると語っていた。棺がスカラ座のホワイエに安置され、劇場をあげて最大の敬意が捧げられた。棺の蓋をしてはじめてその人の値打ちが判るというが、故人の存在の大きさを改めて思い知った。(T)

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2021/05/12(水)

ダニエル・バレンボイムのインタビューが日経新聞朝刊(5月10日)に載っていた。「1980年ごろからテクノロジーの進歩や経済の変化の半面で、精神世界がないがしろにされてきたように思う」。「生きる上で精神世界がいかに必要なものか、無視されてきた」。「コロナ禍によって顕著になったのではないか」とあった。このことを世界中のアーティストたちが異口同音に嘆いている。文化芸術の灯を消してはならないということは、精神世界を守ることだ。(T)

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2021/05/06(木)

最近、日本バレエ団連盟から発行された報告書によると、「海外のバレエ団で活躍する主な日本出身者」は34カ国で231人にのぼるという。プロとして海外で活躍する人数は、スポーツや他の文化芸術のジャンルと比較してもトップ・クラスなのではないか。人材の海外流出の一因は、経済面を含めダンサーを取り巻く環境が海外に劣るからだ。欧米のバレエ大国なみに環境が整い優秀人材の受け皿ができれば、国内のバレエ団は飛躍的に発展するはずだ(T)

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2021/04/20(火)

4月19日、東京・春・音楽祭の「マクベス」を聴いた。厳しい入国条件などコロナ禍でさまざまな制約がある中、指揮者のリッカルド・ムーティや主要な歌手などを招いて実現したもので、関係者のご努力に頭が下がる。ムーティは来日後の記者会見で「私には若い演奏家やオーケストラの育成を継続する義務がある」と語ったというが、リハーサルの様子はネットでもライブ配信された。その素晴らしい成果は総立ちの観客が送る熱い拍手が物語っていた。(T)

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2021/04/09(金)

昨日に続き日経新聞の連載「不要不急とよばれて」⑤。どこの国でも「文化芸術は主要な産業として認められている」のに対し、日本は「産業として分析されてこなかったため、国はどこを支援すれば業界が回り出すか全く把握していない」と、内外の事情通の話を掲載。混乱の原因は支援が損失補償ではなく、これから実施する事業への「補助金」だったからで、記事は「見取り図のないまま、未来に向けて金をばらまく」という言葉で締めくくられている。(T)

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2021/04/08(木)

4月5日から日経の朝刊に「不要不急とよばれて」と題する連載記事が載っている。見出しだけを拾うと①「コロナ禍 がけっぷちの芸術界」②「ライブで配信 表現革新」③「客席のロボット 私の分身」④「紙のチラシ 必要ですか?」。今回のコロナ禍で我々の舞台芸術を取り巻く世界は猛スピードで変わっている。この変化のスピードについて行けないと脱落し、淘汰されてしまう。今回のコロナ・ショックは我々にとって死ぬか生きるかの境目だ。(T)

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2021/03/08(月)

ハチャメチャな天才ダンサー、パトリック・デュポンの突然の訃報にショックを受けた。超高速で61年の生涯を駆け抜けた。鰻好きでパチンコ好き、日の丸の鉢巻きをしたお茶目なデュポンの姿を思い出す。80-90年代の日本のバレエ市場が最も活気のあった時代の中心的な存在だった。「世界バレエフェスティバル」の常連でもあった。今夏の「バレエフェス」で追悼したいと考えている。それまでにコロナ禍が収束に向かい、あの黄金の日々が戻ってくることを。(T)

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2021/03/04(木)

東京都の調査によると、1都3県で新型コロナ感染症が拡大した2020年6月から11月に劇場やホールでのコンサートや演劇などを観に行かなかった人が60%。頻度・回数が減ったとする人が33%だったという。理由は「観たい公演が中止・延期になった」(55%)、「会場での感染が不安だった」(52%)。数字で見ると、コロナ禍の影響の大きさをあらためて実感する。長いトンネルを抜けたとしても、はたして元のコロナ禍前の状況に戻れるのだろうか。(T)

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2021/02/09(火)

コロナ禍で舞台映像の配信があふれているが、三浦雅士氏は2月8日の毎日新聞夕刊で、舞台関係者が「舞台はライヴでなければ迫力が伝わらない」というのは嘘で、ライヴでなければ駄目だということの本当の意味に気づいたという。「ライヴが決定的に重要なのは、演奏者や舞踊手や役者たちの芸を最高のものにするのが、じつは観客や聴衆つまりその公演に立ち会ったものたちの呼吸と熱気にほかならない・・・舞台を作るのは観客なのだ」と喝破している。(T)

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2021/02/04(木)

EUはコロナ禍により2019年と比較して、2020年は航空業界では31.4%、文化分野が31.2%、旅行業界は27%の収入を失ったと発表。文化分野のなかでも音楽業界は特に影響を受けており、76%の収入減、実演芸術はそれよりも高い90%の収入減。EUは今後何年にもわたって影響が続き、今すぐにでも業界再構築に向け、「きちんとした法的枠組み」を整える必要があると呼びかけたという。はたして日本は?(昭和音楽大学バレエ研究所の調査から)(T)

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2021/01/04(月)

「世界文化賞」を主宰する日本美術協会から「芸術の力とコロナウィルス・パンデミック」と題する立派な冊子が届いた。過去の受賞者が表題のテーマについて語っていて感銘を受けた。大女優ソフィア・ローレンは「この新しい状況に立ち向かうためには、楽観主義は非常に強力な武器になります。私は楽観主義者であり、今までずっとそうでした。どんな問題にも必ず解決策があると固く信じ、そう思わなかったことはありません」と。こうありたいものだ。(T)

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2020/12/14(月)

「起承転々」のVol.45「幻の『復活ガラ』」で、日本バレエ団連盟の加盟団体合同による「復活ガラ」が頓挫した顛末を書いた。予定していた1月9日に、企画を変え、東京バレエ団の「ニューイヤー祝祭ガラ」を入れることにした。演目はベジャールの「ボレロ」、バランシーンの「セレナーデ」ほかのプログラム。この時期の「ボレロ」は大災厄をはらい、希望をもたらす神聖な儀式。禍を転じて福となすために、どうぞ、東京文化会館に詣でてください。(T)

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2020/11/19(木)

「バレエはただバレエであればよい。雲のやうに美しく、風のやうにさわやかであればよい。人間の姿態の最上の美しい瞬間の羅列であればよい。人間が神の姿に近づく証明であればよい」と三島由紀夫は書き残している。その三島自身がモーリス・ベジャールによってバレエになった。いま評判の東京バレエ団の「M」である。11月21日に神奈川県民ホールでの最終公演の後、三島の50回目の命日である11月25日から30日まで、舞台映像が全世界に向けて配信される。(T)

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2020/11/10(火)

コロナの第2波が欧米を襲っている。イタリア政府は国内のすべての劇場を閉鎖することを決定した。指揮者のリッカルド・ムーティはそれに反発し、ジュゼッペ・コンテ首相に対し、「心の糧となるものを人々に与えるため、劇場や音楽活動を再開させるべきだ。それがないと社会は野蛮になる」と発言。アメリカ大統領選挙の状況をみても、社会が野蛮になってきていると実感。劇場芸術には精神を安定させ、心を豊かにする力があると、あらためて思った。(T)

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2020/11/02(月)

三島由紀夫をテーマにしたベジャールのバレエ「M」について、小説家の佐藤究氏が書いた批評が朝日新聞(11月1日付け朝刊)に載った。小説家らしい切り口で感心した。その中で舞踏家の土方巽の「お酒があって、樽をバンと割るでしょ。皆が水被るでしょ。腹切って、おしまいじゃないんだよ。そういう結び目を彼は残していった」という言葉を引いている。11月25日は50年前に樽が割られた日。その4日前に「M」は横浜で再演される。(T)

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2020/10/07(水)

デザイナーの高田賢三氏の死を世界中が悼んでいる。2011年東日本大震災の後、「HOPE JAPAN」と題してシルヴィ・ギエムや先日亡くなった花柳壽應氏など内外のアーティストの協力によって復興支援チャリティ・ガラを催したが、その公演のイメージ・ヴィジュアルを高田賢三氏が手掛けてくださった。橙色の日の丸に一輪のポピーの花。傷ついた人々の心に沁み、希望を感じさせるデザインだった。今と似ている当時の気持ちを思い出した。(T)

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2020/09/14(月)

このコロナ禍がなければ、9月15日がミラノスカラ座日本公演の初日だった。いまごろは、カオス状態だったに違いない。公演中止に追い込まれたのは何年もかけて準備してきただけに痛恨の極みだ。ようやく劇場への50パーセントの入場制限が緩和される。再開に向けて光明が差してきたものの、依然、外来の団体やアーティストの入国制限は解かれないままだ。劇場関係者の忍耐の糸が切れる前に、一日も早くコロナ前の日常が回復することを。(T)

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2020/08/10(月)

〈めぐろバレエ祭り〉のオンライン・プログラムで、東京バレエ団芸術監督の斎藤友佳理が毎日新聞の齋藤希史子記者のインタビューに答え、コロナ禍で困難を強いられているバレエ団の活動について率直に語っている。公演が次々に中止や延期に追い込まれ、そのつど厳しい決断を迫られてきた不安な日々。ダンサーたちの安心・安全を気遣いながら、コロナ対策やマスクをつけてのリハーサル難しさなど。本日、12時から視聴可能。(T)

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2020/07/27(月)

観客の収容人数を50パーセントに抑え、前後左右の席を空ける感染予防のガイドラインが一日も早く撤廃されないと、劇場文化が死滅すると危機感を抱いている。京都大学ウィルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授が「国などが示している2メートル程度のソーシャルディスタンスは、マスクに抵抗感が強い欧米を基準にしたものと説明。感染予防は「マスクする、黙る、手を消毒するので十分」とし、文化芸術活動の維持には「ソーシャルディスタンスの項目を消さないとだめ」(7月21日京都新聞)と強力な援護射撃の発言。(T)

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2020/07/21(火)

コロナ感染者の急増が不安を煽るなか、こんな記事を見つけた。英国政府が文化芸術に対し、2100億円を追加援助するという。「劇場や美術館は我が国にとって心臓の鼓動のような存在」とジョンソン首相(ウェブ版「美術手帖」2020.7.13)。日本の文化芸術もコロナ禍によって甚大な損害を被っていて、先の2次補正予算で500億円がついて我々関係者は色めきだったものだが、英国はその4倍だ。この差が文化芸術に対する彼我の姿勢の違いだろうか?(T)

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2020/07/17(金)

ウェブ版「NBSニュース」の2号目。第1と第3水曜日に月2回更新することになったので、「起承転々」も月に2回になると思われている人もいるようだ。期待してもらうのは、ありがたく光栄なことなのだが、残念ながら私には月2で書くほどの時間がとれそうにない。そこで、せめて気になる時事ネタをスピード感をもってこの200字のコーナーに上げたい。不定期で思いついたときに点々と。お付き合いいただけると嬉しい。(T)