2009年7月 一覧

「ラ・バヤデール」~誕生から現在まで~ (3)

2009年7月21日 14:58 レポート | 新着情報

バレエ評論家の村山久美子さんによる連載もいよいよ最終回。今回は、マカロワ版「ラ・バヤデール」の誕生秘話と特徴を解説してくださいました。


ナタリア・マカロワ版『ラ・バヤデール』

 マカロワは、バレエ王国ロシアで最も伝統があり、バレエ史上の最重要人物マリウス・プティパが数々の古典名作バレエを生み出したマリインスキー・バレエの中心的バレリーナの一人だった。そのマカロワが自由な芸術活動を求めて西側に亡命したのが1970年。欧米諸国がソ連と自由に交流できなかった時代、古典作品や、そのスタイルを熟知している彼女の力を、欧米のカンパニーが頼りにしたのは当然である。そして1980年、アメリカン・バレエ・シアターが彼女に『ラ・バヤデール』の演出を依頼した。
 知的で研究熱心なマカロワは、『ラ・バヤデール』の演出にあたって、ハーバード大学のシアーター・コレクションに所蔵されているマリウス・プティパの作品を記録保存した資料(舞踊譜)を解読し、20世紀以降に失われていた部分を再現しようとした。この舞踊譜は、ステパーノフ式というシステムで書かれており、かつてはロシアのバレエ学校でこのシステムの解読の仕方を教えていた。
 舞踊譜を研究した結果として、マカロワの新演出の大きな特徴となったのが、20世紀以降失われていた最終幕のガムザッティとソロルの結婚式と、それに続く寺院の崩壊と、ニキヤとソロルの亡霊がやっと結ばれる最後のシーンである。現在は、2002年にマリインスキー・バレエが原典版を忠実に復元し、原典版を知ることができるが、それまでは、マカロワ版のみが、プティパの最終幕の内容を伝えるものだった。マカロワの最終幕は、マリインスキー劇場に保管されているスゴアを探し出すことができなかったためであろう、ジョン・ランチベリーが前幕までのスタイルに類似した曲を、新たに作曲した。プティパの原典版では各曲が完結している組曲のようになっているが、マカロワ版では、音楽が途切れずに物語の流れを作り、スピーディに展開するドラマティックなシーンが出来上がっている。寺院崩壊後のラストシーンの、浄化された美しさも格別である。

村山久美子(バレエ評論家)

「ラ・バヤデール」~誕生から現在まで~ (2)

2009年7月14日 14:12 レポート | 新着情報
「ラ・バヤデール」演出の変遷

 マリウス・プティパによって1877年にペテルブルグのボリショイ(現マリインスキー)劇場で発表された『ラ・バヤデール』は、プティパの存命中に、2度改訂版が出されている。 次のプティパ自身による蘇演は、1900年に、皇帝一家と親密に交際し劇場で絶対的な力をもっていたプリマのマチルダ・クシェシンスカヤがの希望により行われた。
 1912年には、ニコライ・レガートが、プティパ亡きあとの復元演出を行った。この版は、不必要な削除や単純化が批難されたとはいえ、レパートリーに残り、1917年の革命後も再演された。しかし、この後の1941年のチャプキアーニとポノマリョーフの新演出が出るまでに、第4幕が消えてしまった。舞台装置が焼失してしまったとか、神の怒りで神殿が崩壊するという内容が、宗教を公的には認めなかったソ連の芸術としてふさわしくないと判断されたのかなど推測されているが、理由は明確にはされていない。いずれにしても、劇場から依頼された二人は、3幕ものでプティパ版からもっとも遠い演出を行った。
 1948年には41年版の二人が再び新演出を行い、有名な「金の像」の踊りが、ズプコフスキーによって振り付けられた。
 これらの後に出てくるのが、現マリインスキー劇場出身で欧米で活躍してきたナタリア・マカロワが、アメリカン・バレエ・シアターのために1980年に演出した版である。マカロワは失われてしまった第4幕を再現したが、音楽はランチベリーによる新しいものを用いている。

村山久美子(バレエ評論家)

「ラ・バヤデール」~誕生から現在まで~ (1)

2009年7月 9日 14:09 レポート | 新着情報

バレエ評論家の村山久美子さんに「ラ・バヤデール」の誕生、変遷、そしてマカロワ版の特徴を解説していただきました。これから3回にわたって届けします。
「ラ・バヤデール」をより深く知っていただけること間違いなし。貴重なエピソードも盛り込まれた連載は鑑賞前に必読です。


「ラ・バヤデール」誕生

 『ラ・バヤデール』は、バレエ史上の最重要人物マリウス・プティパが、1877年にサンクト=ペテルブルグのボリショイ劇場(現マリインスキー劇場)で発表した。1847年にロシアにやってきたフランス人プティパは、1869年にバレエ界のリーダーとなる。その後の1870年代のロシアは、貴族が民衆を理解しようと彼らの間に入っていった時期で、民主化の気運が高まっていた。そのような社会の動きは当然芸術にも反映された。だがプティパは社会の民主化のテーマをバレエにすることはなく、バレエだけが現実と離れた夢物語を扱っていると批判された。
 このような状況に業を煮やし、ペテルブルグ新聞の発行人であり編集者のフデコーフが、台本の執筆をプティパに申し出、彼の台本で出来上がったバレエが、当時のロシア社会の動きを取り入れた『ラ・バヤデール』だった。陰謀で毒蛇に噛まれた舞姫ニキヤは、愛していない大僧正に、愛と引き換えに毒消しを提示され、それを床に投げ捨てて自ら死を選ぶ。自分で自分の運命を決定したニキヤは、民主化の波で現れた女性解放の動きに合致する新しい女性像だったのである。
 だが、バレエ『ラ・バヤデール』に成功をもたらしたのは、このような社会の気運の反映だけではなくむしろそれ以上に、プティパの創作の新しさだった。最大の見せ場である幻影の場の成功は、ロマン主義バレエの「バレエは芝居である」ということを強調して行ってきたマイムを主とする具体的な叙述のバレエから、舞踊が主の抽象的なバレエに、かなりの程度に移行したということ語っていたのである。


村山久美子(バレエ評論家)

明日(7/4)より一般前売開始!

2009年7月 3日 12:07 公演情報 | 新着情報

少しご無沙汰してしまいました。

東京バレエ団では、開幕まで1ヶ月を切った、世界バレエフェスティバル全幕特別プロ3作品&<オマージュ・ア・ベジャール>のリハーサルが佳境を迎えています。

3週間で、「ドン・キホーテ」、「白鳥の湖」、「眠れる森の美女」の3つの全幕作品、東京バレエ団初演となるベジャール振付の2作品(「鳥」、「ルーミー」)、「バクチIII」、「ボレロ」と7つの作品を上演するため、稽古場には時間ごとに違った音楽が流れ、ダンサーたちは二つの稽古場を行ったり来たり。

そんな稽古の合間を縫って、ガムザッティを演じる奈良春夏が、「ダンスマガジン」の"New File on Dancers"の撮影に臨みました。チラシやホームページでご覧いただいている第3幕の赤の衣裳と第1幕の「婚約式」のシーンで着る、金色のチュチュの2カットを撮影。華やな美貌の奈良には、ガムザッティの煌びやかな衣裳がよく映えます。瀬戸秀美さんによる写真の仕上がりを楽しみにしてくださいね。掲載は7月27日発売の9月号となります。

さて、いよいよ明日(7/4)10時より、「ラ・バヤデール」の一般前売開始となります。
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