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『ボッカチオ』主演 アンティゴネ・パポウルカス インタビュー2

取材・文/佐藤友紀(フリーライター)


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―――アンティゴネさんって、名前からするとギリシャ系では?

「父はソティリオスというファーストネームをソトにして、姓もまた字を一つ落としているんだけど(笑)。私は父方の祖母の名前であるアンティゴネも姓の方もちゃんと純ギリシャ系であることを提示しているのよ」


―――マリア・カラスとか、最近で言うとティオドッシュウとか、ギリシャ系の時々すごい歌手が出てくるのはなぜでしょうね。

「アグネス・バルツァもいるわよ(笑)。だけど、マリア・カラスにしたって、最初はギリシャ系の名前は使ってなかったでしょう。それに国の大きさといい歌手が出演する確率だったら、スカンジナビアの方が上じゃないかしら。ただ、ギリシャって音楽に限らず、演劇とかの伝統が長いということはいえるかもしれないな。文化的土壌に関しては」


―――それもあって、あなたのボッカチオは芝居部分も見応えがあるのかな。

「私がラッキーだったのは、音楽学校で、最初の頃にあった演劇の授業で、先生が自然に演じることの重要性を教えてくれたの。カルメンであろうが、ヴィオレッタであろうが、とってつけた演技をするのではなく、ちゃんと役柄の人物に入り込み、その人物の日常のように自然に動けなければいけない、と。もちろん歌の勉強も大事だけど、オペラやオペレッタをやるからには、芝居部分をおろそかにしては台無しだと教わったのよ。特に『ボッカチオ』のような作品の場合、私の歌う声はどうしたって女性よね。でも、芝居をする時は、男っぽい低い声で喋るころもできる。そうなると、そのバランスがとっても大切で、演技はより重要になってくるのよ」


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―――『マトリックス』の例が出たように、オフタイムは芝居や映画を?

「もう映画中毒といっていいくらい!いろんな映画からインスピレーションを得ているわ。例えばウォン・カーウァイ監督の『花様年華』なんて、服からナプキンにいたるディテールに、目線の絡ませ方・・・。もう完璧と言える。ただ、オペラの場合は映画みたいに何カットも撮ってもらえないから(笑)、本番1回で素晴らしい表現にしなくちゃいけないの。でも、映画もオペラやオペレッタからインスピレーションをもらってるのよ(笑)。ロミー・シュナイダーやソフィア・ローレンの出演作の中には『ボッカチオ』的ストーリーのものもある。お互い様ね。実は私がカルメンを演る時、一番参考にしたのは、カルロス・サウラ監督のフラメンコ版『カルメン』なの。もう、あのときはフラメンコ教室にも通いつめたわ(笑)」


―――勉強というか、いろんな方面からヒントを得るのが大好きなんですね。

「ええ。今こうしてカフェにいる間も、向こうの席のおじさん3人は『ボッカチオ』みたいに女性談義しているのでは?って創造したり(笑)。そして、役も作品もどんどん肉厚になっていくのよ」

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『ボッカチオ』主演 アンティゴネ・パポウルカス インタビュー1

『デカメロン』などの著作で知られるイタリアの作家ボッカチオ。そんな彼を主人公にしたスッペのオペレッタ『ボッカチオ』はウィーン・フォルクスオーパーでも人気演目の一つだ。男女の機微を、女性の気持ちをくみ取って描いたボッカチオは、当然あの時代の女性たちの圧倒的支持を得ていたというが、フォルクスオーパー版でボッカチオ役を演じているアンティゴネ・パポウルカスが宝塚の男役トップスター並みの長身、美貌で舞台映えすることといったらない! 素顔の彼女もスポーティなハンサム・ウーマンで、来日公演では一番人気になりそうだ。


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アンティゴネ・パポウルカス(ウィーンにて)


―――舞台もカッコ良かったけど、ご本人も物凄くカッコ良くて、ドキドキしています(笑)。
「ありがとう。おかげさまで・・・かな(笑)」


―――以前、私が観た『ボッカチオ』のタイトルロールは確か男性でテノールだったような・・・。
「初演というか、元々はメゾ・ソプラノの女性の役として書かれているんですけど、その後、男性に変わって、今また女性の手に取り戻したという経緯なのよ」


―――取り戻せてよかった!
「特に、私はね(笑)。というのは、私が得意にしている役って、『フィガロの結婚』のケルビーノ、『ばらの騎士』のオクタビアン。何せ『ヘンデルとグレーテル』のヘンゼル役で男役がスタートしたぐらいで、もうどっちかというと男の役専門といってもいいくらい(笑)」


―――フェンシングのシーンもサマになっていましたし。
「あれは舞台のためだけじゃないのよ。私、スポーツとしてフェンシングをやっていたの。実際に私が10歳か11歳のとき、アニァ・ヒステルというドイツの女性選手がオリンピックで金メダルを取って、それを見て感動しちゃったのよ。とてもアグレッシブなスポーツなのに、でもそのアグレッシブさを自分がコントロールして、速さの中に優雅さもある。集中力もものすごいし。で、1歳下の弟とずっと一緒におもちゃの木の剣とかでフェンシングをやっていたんだけど、どうしても本物のフェンシングがやりたくなって、親に頼んでやるようになったの」

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『ボッカチオ』のフェンシング・シーン(photo:Dimo Dimov/Volksoper Wien)


―――歳がひとつしか離れていない弟というと・・・。
「そう。もう男の子が2人みたいなものね(笑)。実際、弟とはとても仲良しで、いつも走り回っていたから。でも、映画の中の剣ファイトって、『スター・ウォーズ』のライトセーバーとかはSFXをいっぱい使ってて、あまりびっくりしなかったけど、『マトリックス』はちゃんと生身の人間があそこまでやるのは凄いと思った。私は『マトリックス』が好きなのよ(笑)」


―――そういえば、どことなく(『マトリックス』に出演している)キャリー=アン・モスに似ているような。
「それ、一番うれしいお世辞よ(笑)」


―――でも、なぜフェンシングから歌の世界に方向転換したの?
「それは、私の家族の血というか、家系によるものが大でしょうね。私の父はずっとフォルクスオーパーと(ウィーン)国立歌劇場で歌っていて、テノール歌手なの。私自身はフランス語と美術史の先生になりたいと思っていて、そういう特別な学校に行っていたの。ま、それでも学校のコーラスぐらいでは歌っていたけど。それで、高校の最後の学年になって、父が「ちょっとくらいレッスンしてみようか」って(笑)。全然深刻なものじゃなくて、ただ、笑いながらの楽しいレッスンをやってくれたら、なんか「才能がある」ってことになって(笑)。あわてて音楽大学の願書を取り寄せ、試験を受けてみたら受かっちゃったの。それでまあ、音楽をやることにしたのよ」

佐藤友紀(フリーライター)

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