バイエルン国立歌劇場2017年日本公演 ビデオメッセージ集 vol.1 ~エレーナ・パンクラトヴァ(『タンホイザー』ヴェーヌス役)

インタビュー・レポート 2017年4月 9日 12:26

バイエルン国立歌劇場2017年日本公演に出演する歌手のビデオメッセージをシリーズでお届けいたします。
トップバッターは『タンホイザー』でヴェーヌス役を演じるパンクラトヴァ。
艶やかな美声から紡がれる、力強く妖艶なヴェーヌスは必見です!




もっと楽しく! オペラへの招待 [2] ~アンバランスなストーリーに、完全無欠の音楽『魔笛』

インタビュー・レポート 2017年4月 8日 12:24



バイエルン国立歌劇場の来日まであと半年をきりました。音楽ジャーナリストの飯尾洋一さんによる、大好評の連載コラム第二弾をお届けいたします。



アンバランスなストーリーに、完全無欠の音楽『魔笛』

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)





 モーツァルトの「魔笛」は、どこか落ち着かない気分にさせられるオペラだ。


 「魔笛」はしばしば子供たちにも鑑賞可能なオペラとして取り扱われる。しかし、メルヘン風の舞台設定とは裏腹に、このオペラは大人にとってもかなり歯ごたえのある作品だ。なんといってもストーリーが一筋縄ではいかない。


 よく言われることだが、「魔笛」では登場人物の善玉、悪玉の設定が途中で入れ替わっている。第1幕で夜の女王が登場し、王子タミーノにさらわれた娘パミーナを救ってほしいと訴える。パミーナ救出作戦開始! この流れで行けば、タミーノはザラストロ率いる悪の組織からパミーナを救い出してハッピーエンドを迎えるというのが常識的なストーリー展開だろう。


 ところが、ザラストロは実は高徳の人であることがわかり、彼はパミーナを夜の女王から守っているのだという意外な展開が続く。第2幕ではタミーノはザラストロ教団が授ける試練に立ち向かう。試練を乗り越えれば、パミーナと一緒になれるというのである。善玉と悪玉が入れ替わってしまっているのだが、主人公が得られるご褒美が美しい娘であることには変わりがない。


 その意味ではこのオペラは男子の「モテたい!」がストーリーの原動力になっているわけだが、見る側にとっては特段ザラストロ教団に共感する要素がないため、後半はどこか「モヤッ」とした気分が残る。これってかわいい女の子にふらふらとついていったら、よく知らない宗教の信者にされちゃった男子の話なんじゃないの......。ひょっとして夜の女王も教団側とグルだったりして(んなわけないか)。


 第2幕でくりひろげられる試練の儀式には、友愛結社フリーメイソンの教義が反映されているという。モーツァルトも、この歌芝居を上演する興行主シカネーダーもフリーメイソンの一員だった。「魔笛」のいくぶん奇妙なストーリーも、同志であれば「腑に落ちる」ところが多々あるのかもしいれない。


 しかし、フリーメイソンに縁もゆかりもない者としては、さらわれた姫を助け出すために主人公が次々とミッションをクリアするというのは、どこかゲーム仕立てのようにも見える。思い出すのは国民的名作アクションゲーム。パミーナがピーチ姫とすれば、タミーノはマリオ。とすれば、パパゲーノはルイージで、ザラストロは......クッパ?


 それにしても、この話の結末って相当ぶっ飛んでるんじゃないだろうか。夜の女王とモノスタトスらが「炎と剣で信心ぶった連中を追い払ってやりましょう」と息巻いて神殿に乗り込んできたものの、稲妻が鳴ったと思ったらあっという間に闇の力は打ち砕かれ、ザラストロたちが勝利の歌をうたう。むむ、今のはなにが起きたのか? 本当だったらここで夜の女王対ザラストロのスペクタクルなバトル・シーンがくりひろげられるべきでは。と、どこか割り切れない思いを残すストーリーだが、裏を返せば、それだけ余白があるからこそ、演出家の手腕や見る人の想像力によっていくらでもイメージが膨らむ作品ともいえる。


 一方、物語に対して音楽のほうはまさに天衣無縫、天才だけが書きうる奇跡の名作となっている。次から次へと絶美の音楽があふれ出てきて、モーツァルトの才能には限りがないと痛感する。作曲は1791年。つまり、モーツァルト最期の年である。この年、モーツァルトはピアノ協奏曲第27番を完成させ、歌劇「皇帝ティートの慈悲」を書きあげ、この「魔笛」、さらにクラリネット協奏曲を作曲し、未完に終わった「レクイエム」に取り組んだ。ひとりの人間が一年間にこれだけ歴史に残る名曲を書いたことは人類史上、後にも先にもないのでは。奇跡の名曲は奇跡の一年から生まれている。アンバランスなストーリーに、完全無欠の音楽。この不思議な取り合わせが「魔笛」の魅力の源泉となっているのではないだろうか。





photo:Wilfried Hoesl


【バイエルン国立歌劇場2017年日本公演】ダイレクトメール表記の訂正とお詫び

2017年4月 4日 19:15


NBSより3月初旬にお送りしたダイレクト・メールの中で、宛名の下に記載されていた、バイエルン国立歌劇場2017年日本公演の一般発売の開始時間に誤りがありました。

【誤】単独券(S~D)一般発売 4/15(土)21時~
         ↓  
【正】単独券(S~D)一般発売 4/15(土)10時~ です。

ここにお詫びして訂正させていただきます。


公益財団法人日本舞台芸術振興会



オペラの喜びと舞台の夢にあふれたエヴァーディング版《魔笛》 

インタビュー・レポート 2017年3月25日 13:59


演出が次々と現代的に塗り替えられていくドイツのオペラ界で、楽都ミュンヘンの至宝として変わらぬことなく上演されているエヴァーディング版「魔笛」。その魅力を音楽評論家の奥田佳道さんが紹介します。


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オペラの喜びと舞台の夢にあふれたエヴァーディング版《魔笛》 

奥田佳道(音楽評論家)


 月とシルエットを成す夜の女王に、パパパの二重唱に導かれ、ステージを彩るたくさんの子供たち。
 
 ここにオペラの喜びが、舞台の夢がある。深遠なテーマ、ドラマも美しく、さりげなく映し出される。もちろんユーモアはたっぷり。これぞメルヒェン。何度体感しても素晴らしい。


 神に愛されし者アマデウスをミドルネームに戴くモーツァルトが、天に召される年に紡いだ奇蹟の歌芝居「魔笛」──Die Zauberflote, The Magic Flute, La Flute enchantee, Il flauto magico──魔法の笛が多様なドラマに寄り添い、幻想的な空間を愛でたステージ。
 
 それが楽都ミュンヘンの「魔笛」。伝統と格式を誇るバイエルン国立歌劇場が、まさに宝物のように上演し続けているエヴァーディング演出の「魔笛」である。


 オペラ上演はもちろん進化する。モーツァルト、ワーグナー、リヒャルト・シュトラウス。ヴェルディにプッチーニ。わたしたちはたくさんの舞台を楽しんでいる。古典あり、大胆な読み替えあり。近年は抽象的なオブジェやプロジェクション・マッピングを効果的に用いた上演、それにセミ・ステージ形式のオペラも人気だ。


 しかしドイツ語の歌芝居であるジングシュピール「魔笛」は、20世紀後半のミュンヘン演劇界、オペラ界を牽引してきたアウグスト・エヴァーディングの、哲学的な問答もモーツァルトの戯れもお任せあれの舞台を経験しないことには、何も始まらないのではないか。40年近く経っても色褪せないエヴァーディングの演出、夢を育むユルゲン・ローゼのまさにファンタスティックな衣装、美術。古典の様式美がそこにある。その美しき環のなかで、今どきの指揮者や歌い手が羽ばたこうとしているのだ。


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 ミュンヘンの室内演劇場、ハンブルク国立歌劇場を経て1970年代中葉からバイエルン国立歌劇場の舞台を任され、同劇場の総支配人、バイエルン演劇アカデミーの総裁などを歴任したアウグスト・エヴァーディング(1928~1999)は、声高に申すまでもなく、筋金入りの、根っからのテアター・マンだった。ちなみにジョン・ノイマイヤーをハンブルクに呼んだのもエヴァーディングである。


 ハンブルクの「ローエングリン」にミュンヘンの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」、バイロイトの「トリスタンとイゾルデ」、パリの「ドン・ジョヴァンニ」、ウィーンの「パルジファル」「シャモニーのリンダ」、ウィーンで製作された「ヘンゼルとグレーテル」ほか、歴史的な舞台は、まさに枚挙にいとまがない。メトロポリタン・オペラでの構えの大きなワーグナー、リヒャルト・シュトラウスを挙げる方もいるだろう。2000年から昨年まで新国立劇場で上演された「サロメ」もエヴァーディングの舞台だ。
 
 幾重ものメッセージを放つ「魔笛」の音楽とドラマに想いを寄せたエヴァーディングは、バイエルン国立歌劇場の音楽総監督(後に総裁を務めた)ウォルフガング・サヴァリッシュ(1923~2013)と相談の結果、第19曲=パミーナ、タミーノ、ザラストロによる三重唱<愛する人よ、もう二度とあなたを見ることはできないのでしょうか=私たちは、もう会えないのですか>を第2幕の「冒頭部」に移したが、その伝統は受け継がれているだろうか。
 
 バイエルン国立歌劇場はこの夏、十八番の「魔笛」をあらためて上演する。タクトを執るのは、エルサレム出身の鬼才アッシャー・フィッシュで、2016/17年シーズン、ミュンヘンでは「椿姫」「ファルスタッフ」「仮面舞踏会」「運命の力」そして「魔笛」を任されている。古典の様式美に、新たな光が差し込むか。開演が近い。


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photo:Wilfried Hoesl
 


オペラへの招待 [1]~うわさのペトレンコが、もうすぐベールを脱ぐ

インタビュー・レポート 2017年3月16日 21:49


この秋のバイエルン国立歌劇場日本公演に向けて、音楽ジャーナリストの飯尾洋一さんによる連載コラムがスタート。親しみやすい語り口で歌劇場や作品、オペラの鑑賞術を紹介します。

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うわさのペトレンコが、もうすぐベールを脱ぐ

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)


 ミュンヘンのバイエルン国立歌劇場といえばドイツを代表する歌劇場。19世紀半ばにはルートヴィヒ2世の庇護のもと、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」や「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を初演した名門中の名門である。

 そのバイエルン国立歌劇場で2013年より音楽総監督の重責を果たすのが、キリル・ペトレンコだ。今回、バイエルン国立歌劇場とともに待望の初来日を果たす。キリル・ペトレンコは2015年にベルリン・フィルの次期首席指揮者・芸術監督に選出されたことで、一躍注目を集める指揮者となった。

 ペトレンコを巡るストーリーはドラマティックだ。東京には毎日のように世界最高クラスの音楽家たちがやってくるというのに、天下のベルリン・フィルの次期芸術監督はいまだ来日したことがない。しかもこのウワサの才人は録音もごくわずか。どんな演奏をする指揮者なのか、ためしに録音を聴いてみようと思っても選択肢が極端に少ない。一昔前と違って、今はスター指揮者が次々と新録音をリリースするような環境にはないのだが、それにしてもメディア上でのキリル・ペトレンコの活動はかなり控えめだ。

 にもかかわらず(あるいはそれゆえに?)、日本国内でのキリル・ペトレンコへの期待は高まるばかりである。なにしろ、ベルリン・フィルの次期芸術監督決定までのプロセスが劇的だった。事前にさまざまな憶測を呼んだ楽団員投票日、ベルリン・フィルの発表は「決定に至らず」。固唾をのんで見守っていた世界中のクラシック音楽ファンが肩透かしを食らうことになった。それから数か月後、突然ベルリン・フィルは記者会見をインターネットで配信し、次期音楽監督がキリル・ペトレンコに決まったと発表した。「えっ、ペトレンコって......だれ?」(ざわ...ざわ...)。そこからだ。日本では十分に報じられていないが、この指揮者がいかにバイエルン国立歌劇場とともに快進撃を続けているか、バイロイト音楽祭での指揮ぶりはすばらしかった等々の評判が盛んに伝えられるようになったのは。ベルリン・フィルのデジタル・コンサート・ホールに収められたペトレンコのライブはお宝映像となった。

 今、自分のなかでキリル・ペトレンコは「幻の指揮者(期間限定)」に分類されている。過去を振り返って、セルジュ・チェリビダッケ、カルロス・クライバーと並べて三大「幻の指揮者」に列してもいいくらいだ。録音活動を拒否していたため海外ライブのラジオ放送が頼りだったチェリビダッケ、そもそも指揮すること自体がまれだったカルロス・クライバー、そして世界最高峰のオーケストラと歌劇場を率いるのに日本ではぜんぜん聴けないキリル・ペトレンコ。

 しかしキリル・ペトレンコはあくまで期間限定の幻の指揮者。ついにバイエルン国立歌劇場との来日でベールを脱ぐ。「こんなにすごい指揮者がいたのか」と海外から伝わる評判に臍(ほぞ)を噛むのもあとしばらくの辛抱だ。 ☆


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photo:Wilfried Hoesl


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