伝説の名演出「魔笛」〜舞台美術からその魅力にせまる〜前半

公演関連情報 2017年7月18日 20:21

伝説の名演出「魔笛」〜舞台美術からその魅力にせまる

2017年7月18日


いよいよバイエルン国立歌劇場の日本公演まで2か月とせまってまいりました。
今回上演する『タンホイザー』、『魔笛』、いずれも歌劇場が得意とする作品ですが、中でも『魔笛』は初演以来39年間、毎年のように上演され続けてきた大ヒットプロダクション。次々と新演出がうまれるドイツの劇場において、一つの演出がこれほどまで長く変えられずに上演されるというのは極めて珍しいことです。
そんな万人に愛される『魔笛』の魅力について、バイエルン国立歌劇場に28年も勤務されている唯一の日本人スタッフ、三浦真澄さん(背景画家)にたっぷりと語っていただきました。本日から2回にわたってお届けします。

Q1 今回日本公演では『タンホイザー』と『魔笛』の2作品を上演いたします。この演目を日本で上演することにおいてはどのように思われますか?

バイエルンでは「HOUSE GOD」と呼ばれる3人の作曲家がいます。モーツァルト、R・シュトラウス、そしてワーグナーです。劇場としてもゆかりの深いこの3名の作曲家の演目に特に力を入れていますので、その作曲家のオペラを日本にもっていけるのはやはりいいなと思います。

バイエルン国立歌劇場 オーケストラピットからみた客席

バイエルンでは新しい演出が多いのですが、『魔笛』、『チェネレントラ』、『ボエーム』、『ばらの騎士』など、一部のオペラは伝統的な演出を続けています。演出を変えるか否かというのはその時の総裁が決定することですが、やはり昔からのお客様を大事にしているといいますか、レパートリーは劇場にとっての財産ですから、傷んだ部分を修復しながら大切に使っています。背景画はそれほどでもないのですが、やはりパネルは舞台上で組み立てたり解体したりするものなので、一定の期間で修復をしないと持ちません。

その意味で、今回の日本公演では映像なども使った最新の『タンホイザー』と絵(画)で魅せる伝統的な『魔笛』、バイエルンという劇場の2つの面を観ていただけるというとても良い組み合わせだと思います。

"幕だけで魅せることができる"『魔笛』

Q2 特に『魔笛』のプロダクションには深く関わっていらっしゃるとのことですが、三浦さんからみてどのような点が魅力だと思いますか?また、「ココが面白い」というポイントがありましたらぜひお話ください。

この『魔笛』は1970年代に創られたものでもう40年近くになります。時代とともに少しずつ演出の内容も変わってきたのですが、10年ほど前、"もう一度『魔笛』を復活させよう"ということで、昔のデザイン画とその時に舞台で使っていたものを見比べ、(美術を担当した)ユルゲン・ローゼさんにも来ていただいて検証したんです。やはり長い年月の間に欠けていったものがありますから、その部分を描きなおし、それからローゼさんが新たに手を加えたりして復活させ、現在にいたります。

この演出の特徴としては最後のタミーノとパミーナによる火と水の試練の場面では大きな仕掛けがあるのですが、それ以外の場面では"幕だけで魅せることができる"という点が挙げられます。

70年代は今のような技術がなかったので、紗幕をよく使っていたんです。たとえば、紗幕に透けない布を貼って、正面から照明をあてると紗幕に描かれた画がうきあがります。後ろから照明をあてると紗幕の画はとんでしまい、布のシルエットが際立ってみえるというように、シンプルながらに非常によく考えられた演出です。

例えば、1幕で夜の女王が登場するシーン。客席からみると幕にライトがついていて、それが光っているようにみえます。今の演出ならばLEDライトをつけてそのようにするかもしれませんが、この演出では違います。小さな穴が無数にあいた幕を用意して、そのすぐ後ろに透ける白いスクリーンをたらします。そのスクリーンの後ろから光を当てると、穴から光がもれ、まるでライトがついているように輝きだすという仕掛けなのです。他にも、モノスタトスが寝ているパミーナに近づく場面では、彼の家来たちが後ろの幕をくるくるとまるめてもっていってしまうと、その後ろにパミーナがいたりと、ちょっとした幕の使い方で非常に効果的に魅せています。

今の若い方はこの『魔笛』のようなオペラを観ていないので、このような技術を知らないんです。その意味でもとても貴重な演出だと思います。

色彩的にもきれいな、まるで上質な絵本のような舞台です

Q3 そんな仕掛けが隠されていたんですね、場面の転換もとてもスピーディーですが、装置や衣裳もとても美しいプロダクションですよね?

そうですね、やはり『魔笛』の決定版と言ってよいと思います。演出と美術がうまく連携していますし、良い意味でローゼの子どものような面が出ていると思います。グレーの背景の前に鮮やかな衣裳を着た人物を配置するなど、色彩的にもきれいな、まるで上質な絵本のような舞台です。

今のオペラ上演ではライトデザイナーがかなりの決定権をもっているのですが、初演された当時、特にドイツの劇場では、劇場付きの照明家が演出家や美術担当者の意図を再現することに心をくだいていました。そのため、この演出ではローゼの良いところが全部出ていると思います。

  

Q4『魔笛』などは幕の数が多くて描くのが大変そうですが・・・

そうですね、作品によって幕の数は全然違いますが、『魔笛』は10本以上あります。私も『魔笛』に関しては傷んでいるところを色々と描きました。

『魔笛』の場合は「流れ幕」といって、場面にあわせて舞台の上手から下手へ、というように幕が移動する演出があるんです。この方法は今のオペラではなかなか使われない方法ですので観ていても面白いと思います。

Q5 昔の演出には優れている部分がたくさんあるんですね! 他にも、歴史あるプロダクションでなるほどと思うところはありますか?

まず言えるのが、とにかく昔のパネルなどは「軽い」ということです。今は骨組みをアルミで作り、それにベニヤの合板を組み合わせるのですが、昔はすべて木でした。もちろんアルミの方が丈夫ではありますが、でも『魔笛』のように40年ももつかというと、そんなことはないと思います。

以前『ボエーム』を修復したときは、古いものと新しいものを並べて、古いものをみながら新しいものをつくっていったのですが、重さがあまりにも違うので驚きました。

photos:Wilfried Hoesl


>>>伝説の名演出「魔笛」〜舞台美術からその魅力にせまる〜後半


★バイエルン国立歌劇場 二次発売は7月22日(土)10:00より

NBSチケットセンター TEL:03-3791-8888

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ロメオ・カステルッチの語る 新『タンホイザー』~エピソード4「腐敗」




 演出家ロメオ・カステルッチの語る演出コンセプト、いよいよ最終回になりました! 

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~ 『タンホイザー』 リハーサル風景 ~

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~ 『タンホイザー』 第3幕より クラウス・フロリアン・フォークト(タンホイザー役) ~




 エピソード4は「腐敗」をテーマに語っています。これまでの3つのエピソード(金の円盤、弓と矢、肉欲)とあわせてご覧いただくと、カステルッチが目指そうとした『タンホイザー』の世界がみえてくるかもしれません。
 新たな『タンホイザー』の舞台が日本にくるまであと3か月! 本番まで楽しみにお待ちください!




(翻訳)
ロメオ・カステルッチの新演出におけるシンボル ~ エピソード4  「腐敗」

これは身体の衰退、腐敗のプロセスです。
ここでは、体内時計を感じることになるでしょう。
私たちに課せられた体内時計、しかし同時に、それは時をも超越するのです。
原子の最終段階にまで到達した時、出会いは叶えられます。
タンホイザーの塵とエリーザベトの塵はついに抱擁しあい、一つになれるのです。













ロメオ・カステルッチの語る 新『タンホイザー』~エピソード3「肉欲」



 バイエルン国立歌劇場『タンホイザー』プレミエ、現地での公演は残すところ7月9日のオペラフェスティバルでの上演を残すのみとなりました!日本に上陸するまであと3か月です。


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~ 『タンホイザー』 リハーサル風景 ~


 ミュンヘン現地では全7公演が即完売してしまい、チケットが全く手に入らない状況が続いているとのこと。来シーズンは『タンホイザー』の上演がないため、ペトレンコ指揮の『タンホイザー』を聴けるのは日本公演が最後になってしまう可能性があります!


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~ 『タンホイザー』第1幕より タンホイザー役のフォークト(写真左)、ヴェーヌス役のパンクラトヴァ(写真右) ~


 そんな貴重な『タンホイザー』をよりお楽しみいただけるようにお贈りしております、演出家ロメオ・カステルッチの語る演出コンセプト第3弾!今回は「肉欲」をテーマに語っています(なんだかドキドキするタイトルです)。






(翻訳)
ロメオ・カステルッチの新演出におけるシンボル ~ エピソード3  「肉欲」  

台本を注意深く読めば、ヴェーヌスが象徴しているのは、美や喜びではなく肉欲に対する嫌悪であることはお分かりになるでしょう。
皆さんが舞台上で見つけるのは、皮膚だけ、つまり表層です。
そこに肉体はなく、あるのは皮膚のみ、被覆、窒息。
それは子供時代の窒息のトラウマ。
タンホイザーはこの皮膚から自らを解放し、なにか本質を見つけだそうとします。
タンホイザーの最初の台詞、「もう十分だ!」がキーワード。
つまり彼の肉欲の恐るべき経験を意味しています。
私にはこの糸がワーグナーの中にどのように貫通しているのかが見えます。
美はヴェーヌスの中には存在しないのです。美とは理想であり、実在しないのです。
ワーグナーにとって、美とは手の届かない、到達不可能なものなのです。
一方、エリーザベトは、世俗ではない、神聖な愛のシンボル。
だからこそエリーザベトは、真にエロティックな誘惑を描き出すのです。
エリーザベトが唯一の欲望の対象であるからこそ、彼女は到達不可能な、触れることすらできない人物なのです。
つまりエリーザベトは並外れた、エロティックな欲望の対象なのです。



バイエルン国立歌劇場2017年日本公演 ビデオメッセージ集 vol.4 〜クラウス・フロリアン・フォークト(『タンホイザー』タンホイザー役)


シリーズでお贈りするバイエルン国立歌劇場日本公演、出演歌手のビデオメッセージ。
第4弾はいよいよ『タンホイザー』でタイトルロールをつとめるクラウス・フロリアン・フォークトが登場!!
普段の話し声も美声のフォークト、舞台映像とあわせてお楽しみください!




 




★バイエルン国立歌劇場2017年日本公演
 
公演の詳細はこちら>>>


『タンホイザー』プレミエ ~現地の公演評 ③~

公演関連情報 2017年6月16日 17:23

シリーズでご紹介している『タンホイザー』プレミエの公演評(抄訳)。
最終回はドイツを代表する新聞のひとつ、南ドイツ新聞に掲載された評をご紹介します。
ぜひご一読ください。


南ドイツ新聞 2017年5月23日付

圧倒的なタンホイザー

ワーグナーのオペラの初日後はブーイングの嵐が見込まれるが - それは一般の人々の歓声に沈んだ。今宵の公演には、演出家の比喩的な言葉に関しては、いくつか論議されるところがあるのは確かであるが。

アンドレアス・シューベルト

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 多くのブーイングをロメオ・カステルッチは、かなり早く消化したようであった。初日の後のパーティーでは、イタリアの演出家はかなりリラックスしていた。バッハラー総裁が演出を賞賛し、出席のメンバーから多くの拍手をもらったことにもよるのであろう。バッハラー総裁は、今回のキャスティングは全ての役で現在最高の歌手であったこと、そしてワーグナーのオペラの初日で必ず語るように、「ここミュンヘンでは作曲家の精神(魂)が今でも感じられるので、"なにか特別なもの"であった。」と述べた。

 だからといって、新しい『タンホイザー』が観客に不評だったということではない。終演後のカーテンコールで歓声に包まれた歌手たちのあとにカステルッチが舞台に出ると、ブーイングの嵐が待っていたのは、モダンな演出の際には常である。しかし、それに対して多くのブラボーもあった。
 ブーVSブラボー:これはミュンヘンの良いオペラの初日には、つきものである。今回のオペラの2回の休憩時間は、日曜日の午後の陽光に輝くオペラハウスの階段をそぞろ歩く観客の中にバイエルン州の文部大臣ルードヴィッヒ・シュペレがおり、顔を輝かせて「大変に素晴らしい」そして最上級の賛辞「圧倒的」と言った。今宵の公演には、特に演出家の比喩的な言葉に関しては幾つか議論されるところがある。シュペレ大臣は血を連想させるシーンでは、オーストリアのヘルマン・ニッチュ(血のアーティストとよばれた)を思い起こしたそうだが、これは彼だけではなかったであろう。
 しかしながらオペラが多くの議論の素材を提供するならば、それだけでオペラを見に行ったかいがあるというものだ。

 クラウス・フローリアン・フォークト(タンホイザー)は、まさに長距離走行を終えたばかりのようだが、にこやかなカーテンコールであった。ワーグナー・テノールの役には経験豊富な彼だが、タンホイザー役はこれがデビューであった。新しいタンホイザーの誕生に、「今は、本当にほっとした気持ちです」と。カーテンコールではまずプロンプターに握手をした。「彼には本当に助けられました。」初演後のパーティーでは魅力的な笑顔で、「今晩は長く祝っていたい!」と語った。。


〜 『タンホイザー』プロモーション映像 〜


 
 



>>> 『タンホイザー』プレミエ 〜現地の公演評 ①〜 はコチラ


>>> 『タンホイザー』プレミエ 〜現地の公演評 ②〜 はコチラ


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