Report 東京バレエ団 32次海外公演 アラビア半島・オマーンに建つ白亜の劇場で東京バレエ団初公演

Photo: Khalid Al Busaidi / ROHM

ため息が出るほど美しい、ロイヤルオペラハウス・マスカット

Photo: Khalid Al Busaidi / ROHM

無事公演を終えてのカーテンコール

「ラ・バヤデール」を観にオマーンを訪ねた。32次海外公演を誇る東京バレエ団だが、湾岸諸国での公演は初めて。創立者の佐々木忠次さんも予想しなかった地域であろう。
 オマーンは大きなアラビア半島の先端にある小さな国だ。首都マスカットは、隣国の首都ドバイのような超高層ビルもなく、岩山と海に囲まれた静かな町だった。
オペラハウスが、ため息がでるほど美しい。1970年以降、鎖国を解き新生オマーンを築いたカブース国王により世界の舞台芸術を招聘する場として2011年に完成。世界の超一流バレエ団も公演してきた。入口や窓、柱廊はイスラム様式の尖頭アーチ。ロビーや客席の天井にはZouaqと呼ばれる優美で精巧なイスラム紋様の彩色が緻密に施されている。
 もっとも中に入るには空港並みの厳しい検査があり、ペットボトルは取り上げられた。客席はオーケストラが入ると800余席。来場者はイスラムの民族衣装を着た男性や頭にヒジャブを被った女性は2割程だろうか。しかし女性に教育を推進するオマーンでは普通の服装の女性も多く、約半数がオマーンの人、あとは在住する欧米人や日本人と思われた。
 それにしても、なぜ「ラ・バヤデール」だったのか。オマーン側がこれを選んだというが、女性の肌を隠すイスラム文化ゆえ衣裳が最大の課題になったという。制作の有田直子さんは「1年前に来た仕様書に沿って、下にレオタードを着たり、二の腕に石の飾りを足すなど最後まで試行錯誤が続きました。でも最終的にオマーン側から『繊細な直しで今後の参考にしたい』と感謝の言葉がありました」
 第1幕が始まった。一つの踊りが終わると拍手をするのは主に欧米人や日本人だ。私の隣の全身黒い服にヒジャブを被った若い女性2人もじっと魅入っているが拍手はしない。
 思えば昨年春、「バレエの街」シュツットガルトで激賞されたのも「ラ・バヤデール」だ。「あそこでは日に日に興奮状態が高まって、佐々木さんに見てもらいたいと泣きたいくらい思いました」と芸術監督の斎藤友佳理さんは話したが、「バレエの街」から「バレエ団をもたない国」へ、対照的な土地で同じ作品を公演するゆえの戸惑いもあったかもしれない。

Photo: Khalid Al Busaidi / ROHM

通常とはちがい、ニキヤの衣裳も お腹の部分の素肌が見えないように工夫された

無事公演を終えてのカーテンコール

 舞台は第2幕“ 影の王国”へ。24人のダンサーが暗闇のなかスロープを降り、見事なコール・ド・バレエを繰り広げた。ここでひときわ大きな拍手が湧いた。隣の女性も控え目に拍手をした。実は第1幕終盤、ソロルの踊りに彼女は初めて小さく拍手をしていた。終演後、感想を聞くと「素晴らしかった」と控えめに笑った。終了後、プリンシパルにも感想を尋ねた。
「初めて行く国なので不安でしたが、劇場も素敵でお客様も温かく、特に2回目は楽しめました。衣裳も気にせず踊れました」(上野水香さん)
「拍手が早く切れることは聞いていたので気にならなかった。最後に温かい拍手があり、温かく見てもらえたと思う」(柄本 弾さん)
「舞台の幅が狭く、最初苦戦したけど、ロシアで踊っていた劇場に似ていて、むしろ懐かしかった。お客さんの反応も素直でガツガツしてなくてやりやすかった」(秋元康臣さん)
「初日、主役が出て行くシーンでも拍手がないとわかり、でも2日目、自分が踊ってみて、むしろ現実に戻されないというか、気持ちが途切れないと思いました」(川島麻実子さん)
 みんな逞しい。友佳理さんもこう話した。
「オマーンの人の舞台芸術に対する意識が変わることに東京バレエ団が少しでも貢献できたなら嬉しいです」
 バレエ後進国日本から本場の地に挑み闘い続けた佐々木さんの時代から、東京バレエ団はいま確実に新しいステージへと進んでいる。

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