フェリ、ボッレ&フレンズ レジェンドたちの奇跡の夏 「マルグリットとアルマン」(Aプロ)、「フラトレス」(Bプロ)の魅力を解説! Photo: Kiran West  Photo: Andrej Uspenski

Photo: Catherine Ashmore / ROH

「ポピュラーな古典のパ・ド・ドゥを並べただけではないプログラムを」というのは、バレエ・コンサートの座長格のダンサーに企画意図を尋ねれば、もはや必ず帰ってくるともいえる言葉である。オリジナリティを追求し、またバレエが現代の価値観にコミットした芸術であることを示したいとは誰しも望むことだが、それにしても今回の〈フェリ、ボッレ&フレンズ〉公演の予定演目として真っ先に発表された2作品は、目を引いた。特定の伝説の存在のために作られたバレエであり、ゆえに踊り手を選び、結果的に他にない感興をもたらす。観客にもある種の緊張感を求める選択だと言える。

 Aプログラムでフェリとボッレが共演するのは、フレデリック・アシュトン振付の『マルグリットとアルマン』。デュマの小説『椿姫』を原作に、マーゴ・フォンテインとルドルフ・ヌレエフのために振付けられた1幕の作品である。奔流のようなリストのピアノ曲を用い、死の床にある椿姫=高級娼婦マルグリットが、年下の恋人アルマンとの恋を回想する。
 アシュトンといえば英国のバレエ・スタイルの礎を築いた巨匠振付家であり、その作風は軽妙で詩的、加えて卓抜なユーモアの感覚で知られている。彼の多くの作品を初演してきたフォンテインの視野にそろそろ引退の二文字が入ってきた頃、ソ連から若き天才ヌレエフが亡命してくる。二人のために作られたのがこの、アシュトンとしては異例ともいえる激しさを表に出した、破滅のドラマだった。フォンテインの引退後は長く踊られなかったのを2000年にシルヴィ・ギエムが封印を解いたが、その後もごく限られたバレリーナしか本作を踊っていない(ということはアルマン役の経験者もまた希少ということになるが、ボッレはその数少ない一人である)。
 この役を踊ることは、フェリにとって夢だったという。アシュトンの次世代の振付家ケネス・マクミランに見出され、ジュリエットやマノンといった悲劇的なヒロインを得意とした彼女にとっては、もちろん相通ずる部分も大きい役である。ただ大きく異なるのは、マルグリットが分別を備えた大人の女であること。情熱のまま突っ走るのではなく、自分の思いを抑えて身を引く、そのあたりの複雑な心理は、「人生経験のすべてを表現できる役を踊りたい」という、まさに現在のフェリでこそ観たいと思わせる部分である。

 おなじ『椿姫』のバレエを、もちろんフェリはすでに経験している。2007年の引退時にミラノ・スカラ座で全幕を、東京でも第3幕のいわゆる「黒」のパ・ド・ドゥをボッレと踊った、ジョン・ノイマイヤー版である。そのノイマイヤーが2017年、復帰を果たしたフェリのために振付けたのが『ドゥーゼ』だった。タイトルは、イタリアの大女優エレオノーラ・ドゥーゼに由来する。フランスのサラ・ベルナールに匹敵する存在で(実際にそのライバル的な関係にあった)、スカラ座の博物館にもその頭像が飾られている。
 そのドゥーゼの人生に大きな影響を与えた男性たちとの関係を軸に描いたのが、このバレエである。第1幕は彼女の実人生。そして今回上演される『フラトレス』は、第2幕の「死後の世界」にあたる。元は独立した1 幕作品として1986年、マリシア・ハイデのためにシュツットガルト・バレエ団で初演されたが、その後も改定して上演されてきた。息の長いリフトをはじめとする独特の語彙が生み出すフォルムと時間感覚には、静謐や神秘、永遠、あるいは情熱の炎や悔恨までもが見え隠れするよう。本作の中に置かれることで、新たな生命を得たといえるのだろう。
 音楽はアルヴォ・ペルト。ミニマリストと称される現代作曲家の中でも情緒性を色濃く感じさせる一人でダンス作品に用いられることも多いが、ノイマイヤーによれば、バレエに使用したのは本作が世界で初めてだったという。


フェリ、ボッレ &フレンズ
—レジェンドたちの奇跡の夏—

【公演日】

Aプロ 「マルグリットとアルマン」ほか
7月31日(水)19:00
8月1日(木)19:00
8月3日(土)13:00

Bプロ 「フラトレス」ほか
8月3日(土)18:00
8月4日(日)15:00

会場:文京シビックホール大ホール
*演奏は特別録音による音源を使用します。

【予定される演目とキャスト】

<Aプロ>
「マルグリットとアルマン」全編
振付:フレデリック・アシュトン、音楽:フランツ・リスト  約30分
出演:アレッサンドラ・フェリ、ロベルト・ボッレ、ほか
「カラヴァッジオ」
振付:マウロ・ビゴンゼッティ、音楽:ブルーノ・モレッティ

出演:ロベルト・ボッレ&メリッサ・ハミルトン
「クオリア」
振付:ウェイン・マクレガー、音楽:スキャナー

出演:ロベルト・ボッレ&メリッサ・ハミルトン
*そのほか下記のメンバーによるパ・ド・ドゥを上演予定
シルヴィア・アッツォーニ、上野水香
マルセロ・ゴメス、アレクサンドル・リアブコ
<Bプロ>
「フラトレス」~「ドゥーゼ」より
振付:ジョン・ノイマイヤー、音楽:アルヴォ・ペルト
出演:アレッサンドラ・フェリ、カレン・アザチャン、カーステン・ユング、アレクサンドル・トルーシュ、マルク・フベーテ
「作品100~モーリスのために」
振付:ジョン・ノイマイヤー、音楽:サイモンとガーファンクル

出演:ロベルト・ボッレ、アレクサンドル・リアブコ
「TWO」
振付:ラッセル・マリファント、音楽:アンディ・カウトン

出演:ロベルト・ボッレ
*そのほか下記のメンバーによるパ・ド・ドゥを上演予定
シルヴィア・アッツオーニ、上野水香
マルセロ・ゴメス、アレクサンドル・リアブコ

*出演者と演目は2019年3月18日現在の予定です。ダンサーの怪我や都合により変更になる可能性があります。

【入場料[税込]】

S=¥18,000 A=¥16,000 B=¥14,000 C=¥11,000 D=¥8,000

U25シート ¥4,000
*NBS WEBチケットのみで6/28(金)20:00から引換券を発売。公演当日小学生〜25歳の方が対象。