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2019/07/03 2019:07:03:12:00:00

英国ロイヤル・オペラ2019年日本公演 ~知っているようで知らない、「オテロ」の豆知識

本年9月の英国ロイヤル・オペラの日本公演では、演劇の国に相応しく、シェイクスピア原作の『オテロ』を上演します。歌劇王ヴェルディの代表作として、初演から142年たった今でも世界中で上演され続けている傑作ですが、実はこのオペラが産声をあげるまでには様々な"事件"があったようです。ここではその一部をご紹介します。

(C) ROH. Photo by Catherine Asemore

「オテロ」は難産だった!?

「オテロ」は構想から初演までに7年という年月がかかっています。これはヴェルディには非常に珍しいことです(「椿姫」は約4か月で完成しています)。これだけの時間をかけたのには、ヴェルディが伝統的なオペラの形式から脱却を試みたためで、台本作家のボーイトと膨大な量の手紙をやりとりした記録が残っています。『オテロ』の音楽の形式をみると確実に前作の『アイーダ』とは構成が異なっており、独立したアリア(独唱)がほとんどありません。この形式は最後のオペラ『ファルスタッフ』に受け継がれていくのです。また、『オテロ』を作曲したとき、すでにヴェルディは70歳をこえており、前作から実に16年ぶりの新作でした。"ヴェルディの新作オペラを聴きたい!!"と、当時のイタリアの人々は、『オテロ』の完成を首を長くして待ち望んでいたようです。

ワーグナーに対抗するための「オテロ」!?

「オテロ」より前のイタリア・オペラは"番号オペラ"とも言われ、アリア(独唱)やレチタティーヴォ(朗唱)で場面を区切ることができましたが、「オテロ」ではワーグナーの楽劇のようにオペラ全体がまるで1つの曲のような構成になっています。そのため歌手は他のオペラのように装飾音を加えたり、高音を伸ばしたりすることができなくなりました。ワーグナーの台頭で、イタリア・オペラが"古臭い"などと批判されることもあった当時のイタリア音楽界の人々は「オテロ」の成功に歓喜し、初演の劇評では「ワーグナーはオーケストラに比重をかけすぎて、声の美しさを犠牲にしてしまった。それに対して、ヴェルディは理想的な解決法を見出した」(オピニオーネ誌)などと、対抗心に燃える評を掲載しています。

オテロ役はなにが難しいの?

テノール歌手にとって、オテロは難役の一つにあげられることが多々あります。その理由はたくさんありますが、まずは強い声と繊細な表現力、この2つが同時に求められるということです。「オテロ」の管弦楽はワーグナーの楽劇に匹敵するほどの大編成ですから、それを突き抜ける強い声が必要です。さらに主人公の心理を歌で表現するには細やかな声の動きや柔らかい弱音が欠かせません。この2つの要素を両立させるのは並大抵の技量ではできません。また、オペラは"歌劇"。歌いながら演技もこなさなくてはなりません。1887年の初演時には、作曲家のヴェルディが自ら初演のテノール(フランチェスコ・タマーニョ)に演技指導をしたほど、演技が重要な役なのです。

オマケ NBSスタッフのこぼれ話

ちょっとだけスタッフのこぼれ話を。海外歌劇場の引っ越し公演は数年かけて交渉と計画をする大プロジェクト(予算的にも...)。毎回一番時間がかかるのが作品の選定です。何度もやりとりを重ね、その時最高の状態で上演できる作品を探ります。英国ロイヤル・オペラには多くのレパートリーがありますが、今回は歌劇場の主人、パッパーノの17年間の集大成として「オテロ」が選ばれました。パッパーノはオーケストラと合唱を徹底的に鍛え上げ、飛躍的に水準を向上させました。「オテロ」の優れた上演には一流の歌手だけではなく、指揮者と一体になれるオーケストラ、合唱が必要不可欠です。最高のチームワークが築かれた今だからこそ生まれた"今のロイヤル・オペラのベストが出せるのは「オテロ」だ!"というパッパーノの強い信念。そしてロンドン現地にとんだNBSスタッフがマエストロの指揮する「オテロ」、そしてキース・ウォーナー演出の舞台をみて、「これならばお客様に喜んでいただける!」という確信。こうしてプロジェクトが実現したのです。