英国ロイヤル・オペラ 2015年日本公演「ドン・ジョヴァンニ」あらすじと聴きどころ

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ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」
スペインのある町
第1幕
スペインの貴族ドン・ジョヴァンニが、手当たり次第に女性を誘惑することはヨーロッパ中に知れ渡っている。彼の従者であるレポレロは、不本意ながら、主人の悪行の間見張りを務めている。今夜のお相手はドンナ・アンナだ。ドン・ジョヴァンニが家を去ろうとしたとき、運悪く彼女の父親である騎士長に見つかってしまい、決闘の末、ドン・ジョヴァンニは騎士長を刺し殺してしまう。
ドンナ・アンナは、駆けつけた婚約者ドン・オッターヴィオに、見知らぬ男に犯されたと告げる。父の死を嘆き悲しむドンナ・アンナと慰めるドン・オッターヴィオの気持ちは、復讐へと向かう(二重唱「ああ、なんという痛ましい光景が」)。
遂に殺人を犯し、逃げのびた主人に、レポレロは生き方を改めるよう進言するが、当のドン・ジョヴァンニは新たに女の匂いを嗅ぎつける。エルヴィーラの登場だ。「ああ、いったい誰が私に言ってくれるの?」と、自分を捨てた男への復讐を歌う彼女に近づいたところで、探されているのが自分だと気づいたドン・ジョヴァンニは、一目散に逃げ出す。後を追おうとするエルヴィーラに、レポレロはカタログの歌「奥様、これが目録です」と、主人の放蕩ぶりを語る。
場面変わって、ツェルリーナとマゼットの結婚式が行われているところに姿を現したドン・ジョヴァンニ。今度は花嫁ツェルリーナに狙いをつける。おてんばな娘ツェルリーナもドン・ジョヴァンニの巧みな誘惑にかかり、一旦はその気になる(二重唱「あそこで手に手を取り合い」)。しかし、あわやというところでエルヴィーラが「去っておしまい、裏切り者!」と割って入る。
悲しみに暮れるドンナ・アンナをドン・オッターヴィオが慰めているところに現れたドン・ジョヴァンニ。二人が殺人犯を突き止めるための協力を訴えるので、ドン・ジョヴァンニは、何食わぬ顔でドンナ・アンナに優しい言葉をかける。しかしそこに再びエルヴィーラがやって来て、ドン・ジョヴァンニを信じてはいけないと告げる(四重唱「信用してはいけません、不幸な御方よ」)。形勢不利と見たドン・ジョヴァンニがその場を去ったそのとき、ドンナ・アンナはドン・ジョヴァンニこそ、父を殺害した犯人であることに気づく(「ドン・オッターヴィオ、私、死んでしまう」)。これを聞いたドン・オッターヴィオは、愛する人の痛みと幸せを想い「彼女の心のやすらぎこそ私の願い」と歌う。
ドン・ジョヴァンニは、レポレロに自分の館で開く大宴会に人々を連れて来るよう命じ、上機嫌にシャンパンの歌「酒でみんな酔いつぶれるまで」を歌う。
ツェルリーナは先ほどのドン・ジョヴァンニのことで焼きもちをやいて怒っているマゼットを「ぶってよ、マゼット」と歌ってなだめている。
ドン・ジョヴァンニの館での宴会に、仮面を付けたエルヴィーラ、ドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオも復讐のためにやって来る。人々の酔いと喧騒のどさくさに紛れて、ドン・ジョヴァンニはツェルリーナを別室へと連れ込むことに成功する。しかし、ツェルリーナの悲鳴によって雰囲気は一転。みんなの目に晒されたドン・ジョヴァンニは、狡猾にも、レポレロの仕業と言い逃れようとする。しかしそこで件の3人が仮面を取り「おまえの悪事は知れわたった」とドン・ジョヴァンニに詰め寄る。ドン・ジョヴァンニはその場を逃げ去る。
[ききどころ&みどころ]
*ドン・ジョヴァンニと騎士長の決闘、そして騎士長の死の劇的場面は、舞台全体が“血”を連想させるような赤に染められる。
*レポレロが〈カタログの歌〉を歌い始めると、プロジェクション・マッピングによる女性の名前が次々と書き記され、舞台を埋め尽くしていく。聴いているエルヴィーラは、はじめは余裕をみせているものの、やがて悲しみへと落ちる。
ドン・ジョヴァンニとツェルリーナの二重唱「あそこで手に手を取り合い」は、ドン・ジョヴァンニのあまりにも巧みな誘惑ぶりゆえ、ツェルリーナがその気になるのも当然、と思わせる。細かい仕草に色っぽさが込められた演出も見どころ。
*ドンナ・アンナは、ドン・ジョヴァンニが発した一言で、“あの夜の男”が彼であったことに気づく。衝撃の事実を知った彼女の心情が視覚化されるようなプロジェクション・マッピングの効果は大きい。
*ドン・オッターヴィオが歌う「彼女の心のやすらぎこそ私の願い」は、甘い旋律に切々とした想いが込められている。高度な技巧が要求される聴きものアリア。
*何かとついていない状況にもめげず、みんなが酔っている間にオレはカタログの名前を増やすのだ!と息巻くドン・ジョヴァンニの〈シャンパンの歌〉。この演出では、音楽の疾走感に視覚的な効果も相乗し、常軌を逸した興奮と破壊的なパワーが盛り上がる。
*「ぶってよ、マゼット」は、ツェルリーナの愛らしさというだけでなくコケティッシュな魅力が発揮されるアリア。
*ツェルリーナの悲鳴で、第1幕のフィナーレが始まる。エルヴィーラ、ドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオ、ツェルリーナとマゼットがドン・ジョヴァンニへの復讐に声を揃える一方で、ドン・ジョヴァンニとレポレロは恐れるものは何もないと歌う。緊迫の七重唱。
第2幕
逃げのびたドン・ジョヴァンニとレポレロはエルヴィーラの宿の前にやって来る。こんな生活はまっぴらと、“辞職”を申し出るレポレロだが、ドン・ジョヴァンニがお金を出すので撤回する。ドン・ジョヴァンニの今度の狙いはエルヴィーラの女中だ。ドン・ジョヴァンニはレポレロと服を交換し、レポレロにエルヴィーラを誘惑させ、その隙に女中を口説こうと企んでいるのだ。首尾よくレポレロにエルヴィーラを連れ出させることに成功したドン・ジョヴァンニは「おいで窓辺に」と、女中を誘い出すセレナーデを歌う。そこにマゼットが仲間を連れてやって来る。武器を手に探しているのがドン・ジョヴァンニだとわかると、レポレロになりすましたドン・ジョヴァンニは仲間に加わる振りをする。「半分はこっちに」と言葉巧みにマゼットと二人きりになったところで、ドン・ジョヴァンニはマゼットをぶちのめして逃げ去る。マゼットの声を聞きつけたツェルリーナがやって来て、薬屋の歌「恋人よ、さぁこの薬で」を歌い介抱する。
暗闇。ドン・ジョヴァンニに扮したレポレロは、まだ気づいていないエルヴィーラからなんとか逃れようとしている。ドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオ、ツェルリーナとマゼットも、それぞれの思いをもってドン・ジョヴァンニを追っている(六重唱「暗い場所にたったひとり」)。レポレロとは知らず、殺してやる!と憤るマゼットに、なんと、エルヴィーラは許しを請う。追い詰められたレポレロは「みなさん、どうかお許しを」と正体を明かし、ほうほうの体で逃げ去る。ドン・オッターヴィオは「今こそ、私のいとしい人をなぐさめて」と、ドン・ジョヴァンニへの復讐を自分が遂げると歌う。
エルヴィーラは、ドン・ジョヴァンニの酷い行いを知り、さらに重ねて裏切られたにも関わらず、ドン・ジョヴァンニへ愛を捨て切ることができない(「あの人でなしは私をあざむき」)。
再び逃げのびたドン・ジョヴァンニとレポレロは衣裳をもとに戻しながら冗談まじりに互いの“戦果”を報告しあう。するとそこに「その笑いも今夜限りだ」と荘厳な声が響く。声の主は死んだ騎士長だ。恐れるレポレロを傍らに、ドン・ジョヴァンニは騎士長を晩餐に招く。
結婚を延期しようとすることをドン・オッターヴィオから責められたドンナ・アンナは、「むごい女ですって」と歌う。
晩餐が始まる。エルヴィーラが訪れ、最後の改心を求められるドン・ジョヴァンニだが、まともに取り合いもしない。エルヴィーラが帰り、騎士長の亡霊がやって来る。「ドン・ジョヴァンニ、汝と晩餐を共にするためにわしは来た」と朗々たる声が響く。そして、ドン・ジョヴァンニは最後の悔悛を求められるが、断固として断る。「悔いよ」と声がするたびに、ドン・ジョヴァンニは苦しみに身もだえ、最後は叫び声をあげる。
音楽が一転し、ドン・ジョヴァンニ以外の6人が「悪人の最後はこのとおり」と歌う。
[ききどころ&みどころ]
*ドン・ジョヴァンニのセレナーデは、マンドリンと弦のピッツィカートを伴った甘く美しい歌。この演出では、籠絡された女中もかなり大胆に・・
*ツェルリーナが歌う〈薬屋の歌〉は、恋人の痛みをやわらげる慈悲に満ちた美しい歌。この演出では、慰め、愛を確かめ合うこの二人を、階上からドン・ジョヴァンニが見ている。
*「暗い場所にたったひとり」と、ドン・ジョヴァンニを追う6人が、それぞれの思いを歌う場面は、立体的な舞台装置とプロジェクション・マッピングの効果により、非現実的な空間が描きだされる。
*ドン・オッターヴィオのアリア「今こそ、私のいとしい人をなぐさめて」は、モーツァルトのテノールのアリアの最高峰の一つとされる。高音と跳躍など、難技巧が求められる。
*「あの人でなしは私をあざむき」は、エルヴィーラの愛憎の葛藤が歌われる長大なアリア。復讐を願いならも、彼の苦しみを見ることは辛いと、神への慈悲を請う。プロジェクション・マッピングによって、複雑な心境、葛藤が表される。
*「ドン・ジョヴァンニ、汝と晩餐を共にするためにわしは来た」という騎士長の亡霊の声に、この演出ではドン・ジョヴァンニは恐怖ではなく、痛みを感じている。
*ドンナ・アンナの歌う「むごい女ですって」は、美しく装飾的な大アリア。父を亡くした悲しみゆえ、とドン・オッターヴィオの苛立ちを抑える心情を歌うが、彼女自身のドン・ジョヴァンニへの複雑な心境も。この演出では、ドン・ジョヴァンニが叩き壊した騎士長の石像のかけらを集めながら歌う。
*晩餐の始まりからが全曲のフィナーレ。騎士長の亡霊とドン・ジョヴァンニの対峙は息を呑む緊迫感。[Photo]
*この演出では、幕切れ扱いが特徴的。六重唱「悪人の最後はこのとおり」を、ドン・ジョヴァンニが聴いている。