英国ロイヤル・オペラ 2015年日本公演「マクベス」解説
英国ロイヤル・オペラ 2015年日本公演ヴェルディが、生涯においてシェイクスピアの戯曲に強い関心を寄せ、オペラ化したいと考えていたことはよく知られています。「マクベス」はその第1作として手がけられました。権勢欲に駆られ、妻と共謀して国王を暗殺して王位に就いたマクベスが、魔女の言葉に惑わされ、転落する物語。34歳の若きヴェルディの野心作です。
“シェイクスピアの国”のオペラハウスにとっては、他のどこよりも、このオペラへの思いは強いものとなっています。音楽監督のアントニオ・パッパーノは、このオペラにおいて最も重要なこととして「作品のもつ雰囲気、色合い」を挙げます。魔女の予言や亡霊が登場する不気味さ、罪の意識、錯乱…“壊れてゆく”マクベスと夫人の心理劇であるこのオペラでは、一つひとつの楽器の音色、歌手の表情や動作など、パッパーノは細かいディテールまで追究します。
ミュージカルや映画監督としても活躍しているフィリダ・ロイドの演出は、虚飾をそぎ落としながらも、魔女には強いインパクトをもたせ、光と影を効果的に使うことによって、マクベスと夫人の心理状態の葛藤を浮き立たせていきます。
追いつめられていく二人の主役をつとめるのは、イギリスの演技派人気バリトン、サイモン・キーンリサイドと強い声と幅広い表現力で驚倒させるウクライナのソプラノ、リュドミラ・モナスティルスカ。
“シェイクスピアの国”のオペラ「マクベス」は、指揮、演奏、演出、演技、舞台美術が相まった水も漏らさない緊密さで、かつて体験したことのない劇的空間へいざなってくれます。