ローマ歌劇場2014年日本公演

「ナブッコ」解説

 「ナブッコ」は、ヴェルディ3作目のオペラであり出世作。そしてイタリア人にとっては特別なオペラ。「ナブッコ」の合唱曲「行けわが思いよ、金色の翼に乗って」は、イタリア統一の機運を盛り上げ、第二の国歌としてイタリア人に愛されている。このオペラの初演はオーストリアの支配するミラノで行われたが、人々は独立への思いを重ね合わせて熱狂した。そして現在、オペラ「ナブッコ」の、全編にわたる血沸き肉踊る熱い音楽に人々は熱狂する。

 リッカルド・ムーティのキレ味鋭く、突き進むエネルギーに満ちた指揮は、このオペラのためにあると思わせる。一方、演出家ジャン=ポール・スカルピッタが“リアルなドラマ性を追求するために”用いた、微妙なグレーを使い分けたグリサイユ画法で描かれた舞台美術は、日本の水墨画のような「静」の美しさがみなぎる。

 歌手陣には、怒りから嘆きまでを表現できる柔軟な声と、傲慢さと後半の人間らしさのための表現力が要求されるナブッコ役に、目下欧米のオペラハウスで活躍著しいイタリア人バリトン、ルカ・サルシ、ナブッコが奴隷に生ませた娘で戦う女としての強さと音楽的なパワーが不可欠なアビガイッレにはタチアナ・セルジャンが登場する。ナブッコと対峙するユダヤ教の祭祀長ザッカーリア役ドミトリー・ベロセルスキーは、若いけれど人格者としての品性と崇高さを感じさせる美しい声の持ち主。さらに、ナブッコの実の娘フェネーナにソニア・ガナッシ、その恋人イズマエーレに注目の新鋭テノール、アントニオ・ポーリと、ムーティが選びに選んだ粒選りのキャストが揃う。