ローマ歌劇場2014年日本公演

聴きどころ




 オペラのなかの主題が次々と現れる堂々たる序曲。ときに勇壮に、ときに優しく、はたまた勢いづく疾走感をもってドラマに突入! この序曲はオーケストラ・コンサートでも演奏される機会が少なくない。





 ソロモンの神殿の中で、ヘブライ人たちがバビロニア軍の侵入に動揺している。激しい感情と祈りが込められた 合唱〈祭祀の飾りなど砕けて落ちよ〉が聴衆をドラマへと引き込む。祭祀長ザッカーリアは、人質であるナブッコの娘フェネーナを連れて現れ、人々を勇気づける 〈エジプトの海辺で〉。そこにイズマエーレが敵の襲来を告げる。ザッカーリアはフェネーナをイズマエーレに託して戦いへと向かった。二人きりになると、「愛しい人!」と情熱的に声をあげるイズマエーレ。イズマエーレとフェネーナは密かに愛し合う仲なのだ。フェネーナを逃がそうとするイズマエーレに、フェネーナは仲間の憎しみをかってはいけない、と拒む。イズマエーレが無理にも秘密の扉からフェネーナを逃がそうとしたそのとき、ナブッコのもう一人の娘であるアビガイッレが立ちはだかる。実はアビガイッレもかねてからイズマエーレを愛していたのだ。アビガイッレは恋敵フェネーナへの憎しみを強烈に表すが、音楽が一転、ゆったりとしたテンポになると、イズマエーレに愛の告白を始める( 〈あなたを愛していました〉)。「フェネーナを捨てて自分を愛するなら、彼女の命を救ってあげる」と。アビガイッレの申し出に、イズマエーレはきっぱりと、そして軽蔑をこめて言う「命は預けられても心は預けられない」。なおも食い下がるアビガイッレと、悲しいことの成り行きを嘆くフェネーナとともに、緊張感たっぷりの 三重唱〈勇敢な戦士よ〉が繰り広げられる。
 そこに、押し寄せて来たナブッコの軍勢に恐れをなしたヘブライの民や兵士たちが駆け込んでくる。ここからは第1部の怒濤のフィナーレの始まり。器楽的なモチーフが次々とグループに引き継がれて繰り返される合唱が焦燥感を高めるなか、ナブッコ登場の力強い行進曲が始まる。ナブッコが馬に乗ったまま神殿に入って来るので「罰当たりな!!」とザッカーリアの怒りをかうことになっているが、この演出ではナブッコは堂々と歩いて登場する。「私を恐れよ!」と言い放つナブッコの暴挙に怒ったザッカーリアは、フェネーナの身に短剣を振り上げる。が、そのとき、イズマエーレがザッカーリアを阻む。ナブッコは再び勝ち誇り、兵たちを略奪と虐殺に駆り立てる。プレストの音楽のなかで、人々が愛、祈り、怒り、憎しみを歌い上げる大コンチェルタートが繰り広げられ、第1部の幕となる。





第1場 バビロンの王宮の一室

 アビガイッレは、秘蔵の文書を見つけ、自分が王の実の娘ではなく、奴隷の子であることを知る。しかもそこには王位継承権はフェネーナにあることも記されている。ここから始まるアビガイッレの シェーナとアリア〈私がみつけてよかった この宿命の古文書を〜かつて私も〉は、怒りと恥辱に震えるアビガイッレの聴かせどころ。激しい怒り表すシェーナでは2オクターヴの驚異的な跳躍が要求されるうえ、アリアでは心のうちにある悲しみを力強く劇的に表現しなければならないのだ。やがて、彼女の味方であるバビロニアのベル神に仕える大祭司が登場。フェネーナがヘブライ人捕虜たちを逃がしてしまった、と怒り、「今こそあなたが女王になる時だ」と勧める。有頂天で野心を燃やすアビガイッレは、卑しい生まれの自分が王座につくことで、フェネーナへの恨みを晴らし、ナブッコへの復讐を果たすのだと強烈な アリア〈国中が奴隷女の前にひれ伏すがいい〉を歌う。


第2場 王宮の広間

 ザッカーリアが登場。エホバ神に「自分の口を通して“奇跡”を起こしてください」と祈り、聖なる法典をフェネーナのもとへ持って行こうとしている(〈預言者の唇をかりて〉)。“奇跡”とはすなわち、フェネーナがユダヤ教に改宗することだ。イズマエーレがヘブライ人の高官たちに、この“奇跡”が起ころうとしていることを伝えるが、彼らはイズマエーレを裏切り者として責める(合唱〈呪われた男に同胞はいない〉)。やがて、ザッカーリアがフェネーナとその妹のアンナを連れて登場。イズマエーレの愛がフェネーナを改宗させたと告げ、イズマエーレは許されるべきだと諭す。そこに老臣アブダッロが、王が死んでアビガイッレが王位に就こうとしている、フェネーナは逃げた方がよい、と駆け込んで来る。しかしフェネーナは王位を守り反徒とともに戦う決意をする。大祭司や僧たち、バビロニア人たちを伴って現れたアビガイッレが、フェネーナに「王冠を渡せ」と迫っているところに、兵士を率いたナブッコが登場! 王冠を奪還したナブッコはバビロニア人たちに裏切りを働かせたベルの神を罵り、ヘブライ人たちが信じる神を無力とあざけった挙げ句「神は私だ!」と宣言する。と、その途端、ナブッコの頭を稲妻が打つ。不思議な力が王冠を取り去るのを感じて怯えるナブッコは、混乱し、復讐に燃える亡霊たちに取り囲まれる幻惑に駆られ、助けを求める。王冠を、アビガイッレが冷笑して拾い上げ、幕となる。





第1場 バビロン城内の空中庭園

 王座に就いたアビガイッレを、集った民衆が讃える(合唱〈アッシリアは世界の女王〉)。大祭司はアビガイッレに、フェネーナを含むヘブライの捕虜たちを処刑する令状を差し出し、署名を求める。そこに、錯乱状態で監禁されていたナブッコが憔悴して現れ、王座へと進もうとする。アビガイッレに言いくるめられたナブッコは捕虜の処刑に同意する。しかしそれは娘フェネーナの処刑でもあると知り、後悔する。「フェネーナが死んでも娘はここにいるではないか」とごう慢に言うアビガイッレに、ナブッコは「お前は奴隷女だ!」と怒るが、アビガイッレは彼女の出生が記された証文をナブッコの前で破り捨て、勝ち誇る。絶望したナブッコは、アビガイッレの前に跪いて許しを請うが、アビガイッレが聞き入れることはない。アビガイッレとナブッコが激しいやりとりを繰り広げる二重唱〈女よ、おまえは誰だ?〉は、アビガイッレの勝ちに終わる。


第2場 ユーフラテスの河畔

 捕われのヘブライ人たちによる合唱〈行け、わが思いよ金色の翼に乗って〉は、イタリア人にとっては“第二の国歌”ともいわれる有名な曲。望郷の念を歌う彼らに、ザッカーリアは、バビロニアの崩壊を予言し、諦めるなと勇気づける(〈泣いているのは誰だ?〉)。





第1場 王宮内の一室

 長めの前奏曲で幕が開き、監禁されているナブッコが眠りから醒める。フェネーナを刑場へと連れて行く音楽が聴こえるので、ナブッコは救出に向かおうとするが扉はすべて施錠されて開かない。わが身の無力に絶望したナブッコは、思わず「ユダヤの神よ」と、ヘブライの神に許しを請い、祈る(〈ユダヤの神よ! 祭壇も神殿も〉)。やって来たアブダッロに、ナブッコは「王座に戻るぞ」と宣言し、勇壮な出陣の歌(〈ユダヤの神よ! 祭壇も神殿も〉)を歌い、軍隊とともに刑場へと向かう。


第2場 城内の空中庭園

 悲しげな葬送行進曲。処刑されるフェネーナと捕虜たちが刑場へと到着する。覚悟を決めたフェネーナは〈ああ、天国は開かれた〉と静かに祈りを捧げる。処刑が行われようとするそのとき、兵士を率いたナブッコがやって来る。ナブッコは処刑の中止を命じ、さらに「忌まわしい偶像を打ち砕け!」と叫ぶ。ベルの神のシンボルである偶像が崩壊する屋台崩しの演出がされることもある場面だが、ここでは純粋に「奇跡が起こった!」とヘブライ人たちが歌う音楽からそれを感じとることになる。さらにナブッコは、ヘブライ人たちに祖国に帰って神殿を建てよと言う。「地に伏して神を讃えよう」というナブッコの呼びかけに、全員がエホバの神を讃えるア・カペラ〈エホバ賛歌〉が力強く、壮大に響く。そこに、自ら毒を仰ぎ、瀕死の状態のアビガイッレが現れる。フェネーナにこれまでの仕打ちを詫び、ナブッコにはイズマエーレとフェネーナが結ばれるように、と頼み「わたしを呪わないで」と言って息絶える。最後に、ザッカーリアが「エホバの神を信仰するナブッコは、世界の王の中の王」と讃え、幕となる。