ローマ歌劇場2014年日本公演

「シモン・ボッカネグラ」解説

 「シモン・ボッカネグラ」は、ヴェルディが43歳のときに書いた20番目のオペラ。失敗に終わった初演から24年後の改訂により大成功を得た。14世紀のジェノヴァに実在したシモン・ボッカネグラを主人公とするこのオペラは、政治的な背景や人間関係が複雑に入り組んでいるうえ、男声低音3人とテノールとソプラノの5人の適役歌手が揃わなければならないことから、優れた上演を目指すのは難しいとされている。リッカルド・ムーティが、長くこのオペラを取り上げなかった理由も、そこにあった。今回の日本公演には、ムーティが満を持して臨んだローマでの初演キャストが揃う。海賊の豪快さと政治家としての器の大きさ、さらに父としての情愛という3つの個性を要求されるシモン役を演じるのはルーマニア出身のジョルジョ・ペテアン。宿敵フィエスコ役は「ナブッコ」、「マクベス」などでもムーティの信頼厚いイタリア人バス、リッカルド・ザネッラートが演じる。策略と裏切で最後には身を滅ぼす悪人パオロ役は、若手ながら世界の注目を集めているマルコ・カリア、さらにアメーリアの恋人ガブリエーレ役にはフランチェスコ・メーリという万全の布陣が組まれている。

 演出を手がけたのは、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの芸術監督を務めたエイドリアン・ノーブル。野村萬斎や野田秀樹が彼の演出を学ぶために英国留学をしたという演出家だ。このオペラには、権力闘争や策略とともに、父と娘の情愛も描かれる。歴史大河ロマンの登場人物の心情表現において、シェイクスピアの演出で精彩を放つノーブルの手腕が光る。