「ジゼル」公演レポート

「ジゼル」公演レポート

 10月21日、「ジュエルズ」の初日にマニュエル・ルグリ引退後初のデフィレがガルニエ宮で行われた。ルグリに代わりに最後に登場するのは二コラ・ル・リッシュである。その貫禄、王者の風格といえばいいのか・・。彼は9月に「ジゼル」のファーストキャストでアルブレヒトを踊ったが、この時も(特に第二幕において)格の高さと存在感を存分に発揮。オレリー・デュポンと共にベテランエトワールによるレヴェルの高い舞台をみせた。第一幕のオレリーは踊ることが何よりも好き!という思いが伝わる、生きいきとしたジゼルである。女性ダンサーたちがこれぞ見せどころとする狂気のシーンについて、彼女のはあっさりしたものだと感じたのだが・・・。
 10月3日はアニエス・ルテステュに代わり、ジョゼ・マルティネスのパートナーを突如オレリーが務めることに。村娘に心から思いを寄せる優しいプリンスといった風情だったアルブレヒトの裏切りに対し、彼女は突如狂気に陥るのではなく、深い深い悲しみをこめて踊り、そして狂乱の一瞬をみせて最期を迎えた。このオレリーのジゼルの解釈は妙に説得力があり、私には1つの発見だった。 

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ジゼル:オレリー・デュポン (photo:JulienBenhamou/Opera national de Paris)

 このシーン場をこってり感なく、かつドラマティクに盛り上げたのはデルフィーヌ・ムッサンである。彼女は第一幕では恋する無邪気な娘を繊細な演技で披露し、第二幕では重力を感じさせず、かつ詩情たっぷりな精霊ぶりで観客を圧倒した。私が彼女を観た10月4日のパートナーは、バンジャマン・ペッシュだった。ケープをひるがえして登場した彼は、優雅かつ傲慢な男。アヴァンチュールを求める貴族という解釈が明解で、これで一気に物語に引きずりこまされた。パリのバレエファンが待ち望み、そして大好評を博したイザベル・シアラヴォラのジゼルを相手に、東京公演で彼がどんなアルブレヒトを演じるか、気になるところだ。

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ジゼル:イザベル・シアラヴォラ(photo:Michel Lidvac)

 10月8日はドロテ・ジルベールとマチアス・エマンという組み合わせで見た。9月19日にバスチーユで行われた公開リハーサルでは、指導するローラン・イレールのノーブルな振りに、まだ若いマチアスがかすんでしまった印象を受けたが、さすが向上心の強いマチアスだけあり、そんな日は遠い彼方という舞台だった。優れたテクニックで知られた二人ゆえに第二幕は見応えがあり、とりわけ、アルブレヒト役の見せ場のひとつであるアントルシャ・シスをマチアスは20回以上・・・。今後演技的にも磨きがかかった二人の舞台を期待したい。進化の様を追ってゆく楽しみがあるのが、若いダンサーの舞台を見るひとつの面白みなのだから。

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ジゼル:ドロテ・ジルベール、アルブレヒト:マチアス・エイマン(photo:Michel Lidvac)

 「ジゼル」は1841年の初演という古いバレエながら、今も観客の涙を誘う完成度の高いバレエ。さまざまな組み合わせで何度でも見たい作品である。第二幕、青白い光の中を幾重ものチュールを三角にひろげてコール・ド・バレエがアラベスクで移動するたび、ガルニエ宮は観客の感嘆のため息や拍手で満たされた。その美しさ、これだけでも劇場に足を運ぶ価値がある!という気にもなった。
大村真理子(フィガロ・ジャポン・パリ支局長)

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