2009年12月 一覧

マリ=アニエス・ジロー インタビュー

マリ=アニエス・ジロー(エトワール)


1985年 パリ・オペラ座バレエ学校入学。
1990年 15歳でパリ・オペラ座バレエ団入団。
1992年 コリフェに昇格。
1994年 スジェに昇格。
1999年 プルミエール・ダンスーズに昇格。
2004年 3月18日「シーニュ」(カロリン・カールソン振付)の終演後、エトワールに任命される。


 フランスで2009年度のベストシンガーに選ばれたバンジャマン・ビオレー。彼のためにマリ=アニエス・ジローが振付け、かつ出演して踊っているクリップ"La Superbe"は、フランスで目下クリップ・ナンバー1の人気である。「私、新しいことをするたびに、なぜか毎回上手くゆくの。すごくうれしいわ」。オペラ座の舞台以外でもさまざまな活動を続ける彼女。社会貢献の面でも時間を惜しまず、12月のある日曜にはルーブル美術館のピラミッドの下で、一般人を率いて踊るというハプニング的イヴェントを成功させた。「病気の子供たちを援助する慈善団体"希望の鎖(La Chaine de l'Espoir)"の存在を世に知らしめるために、一役かったのよ。エトワールではマチアス、ジェレミー、オレリー、それから大勢の若手ダンサーが賛同して協力してくれたの。オペラ座での稽古では、ダンサーと一般人が一丸となって発するポジティブで幸せ感いっぱいのエネルギーが感じられて・・素晴らしい体験をしたわ」

 外界との交流が目覚ましい彼女には、さまざまな種類のオファーが次々と舞い込む。ハリウッド・スターの寝起きをカメラに収め続けた写真家からは、ハリウッドの往年の女優たちに扮しての撮影!というリクエストが彼女に来ているそうだ。「自分以外の人物になりきるという点では、バレエと同じね。カリフォルニアで撮影予定なの。大きな車とかを借りて、ハリウッドの良き時代を再現するのよ。エヴァ・ガードナーとか、本当の意味でのスターが存在した昔のハリウッドは大好き」。奇しくも彼女が来日公演で踊るヌレエフ版「シンデレラ」の世界と話がオーバーラップした。この作品を日本で初演するのだが、初稽古は今から15年くらい前というのが、驚きである。「ギエムがオペラ座を去った直後だったから、まだ20歳くらいのころの話。突然シンデレラの代役に配されて、稽古をしたのよ。でも、舞台には出ず。その後も配役されたものの、何かの都合で別の作品で舞台に出ることになって・・などと、稽古はするものの、舞台には出たことがないというバレエなの。ついに日本で初舞台というわけね!カール・パケットと一緒に踊るのは好きなので、すごく楽しみ。先日、お茶をひっくり返してしまって床を拭きながら、"私、もうシンデレラの準備をしてるのよ"って冗談を言ったくらいよ(笑)」

 3月13日、14日にゴージャスにシンデレラを踊った後、マリ=アニエスは18,20、21日と「ジゼル」の3公演でウィリの女王ミルタを踊る。愛するアルブレヒトを助けて!というジゼルの哀願を無慈悲に退けるミルタ。演技と存在感があいまって、彼女は強い印象を観客に残す。「非人間的な役に思えるけど、違うの。ミルタもジゼルの苦しみを一緒に生きてるのだから。でも、ウィリの女王なので、ジゼルを守ってあげたくてもできないだけ。ジゼルを踊るオレリーが、私の厳しい表情の中にジゼルの苦しみを感じてることが読み取れる、って言ってくれたの」

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「ジゼル」ミルタ
photo:Julien Benhamou / Opéra national de Paris

 このミルタ役、肉体的にもとてもハードなのだそうだ。舞台の下手から上手に向い、左右の足を小刻みに入れ替えてするすると前進し、ミルタは登場する。ベルトコンベアーに乗ってるの?と知り合いにいわれたというのももっともなほど、滑らかさと均一なリズムで彼女は移動する。同じ歩みで、その後は舞台の後方から前方へと乱れることなく見事なほどまっすぐに。「この登場はバレエ作品中、高度なテクニックが要求され、最も難しい出といわれてるのよ。足もすごく痛いの。難易度が高いとはいえ、プルミエール・ダンスーズ時代に最初に配役されたときに、テクニックをしっかり体得した上で舞台に出たわ。もちろん他の作品より、稽古をたっぷりとしてね」
21世紀の偉大なダンサーの一人に挙げられるマリ=アニエス・ジロー。その舞台を生で見られる貴重な機会である。それにコンテンポラリー作品での来日が多い彼女が、今回はクラシック作品を踊るのだから、ますます見逃せない。

大村真理子(フィガロ・ジャポン・パリ支局長)



◆マリ=アニエス・ジロー出演予定日

「シンデレラ」
2010年3月13日(土)1:30p.m. (シンデレラ)
2010年3月14日(日)3:00p.m. (シンデレラ)

「ジゼル」
2010年3月18日(木)7:00p.m.(ミルタ)
2010年3月20日(土)1:30p.m.(ミルタ)
2010年3月21日(日・祝)1:30p.m. (ミルタ)

「シンデレラ」「ジゼル」キャスト追加発表~第2弾!

パリ・オペラ座バレエ団より、2010年日本公演のキャスト追加発表がありました。
「シンデレラ」のプロデューサー、二人の義姉、ダンス教師、「ジゼル」のヒラリオン、パ・ド・ドゥが決定いたしましたので、お知らせいたします。


「シンデレラ」


2010年
3/12(金)6:30p.m.


シンデレラ:アニエス・ルテステュ
映画スター:ジョゼ・マルティネス
継母:ステファン・ファヴォラン
プロデューサー:ヤン・ブリダール
二人の義姉:イザベル・シアラヴォラ、エミリー・コゼット
ダンス教師:バンジャマン・ペッシュ

3/13(土)1:30p.m.

シンデレラ:マリ=アニエス・ジロー
映画スター:カール・パケット
継母:ジョゼ・マルティネス
プロデューサー:ヤン・ブリダール
二人の義姉:ドロテ・ジルベール、ステファニー・ロンベール
ダンス教師:バンジャマン・ペッシュ


3/13(土)6:30p.m.

シンデレラ:デルフィーヌ・ムッサン
映画スター:マチュー・ガニオ
継母:ステファン・ファヴォラン
プロデューサー:アレッシオ・カルボネ
二人の義姉:イザベル・シアラヴォラ、エミリー・コゼット
ダンス教師:マチアス・エイマン


3/14(日)1:30p.m.

シンデレラ:マリ=アニエス・ジロー
映画スター:カール・パケット
継母:ジョゼ・マルティネス
プロデューサー:ヤン・ブリダール
二人の義姉:ドロテ・ジルベール、ステファニー・ロンベール
ダンス教師:バンジャマン・ペッシュ


3/15(月)6:30p.m.

シンデレラ:デルフィーヌ・ムッサン
映画スター:マチュー・ガニオ
継母:ステファン・ファヴォラン
プロデューサー:アレッシオ・カルボネ
二人の義姉:イザベル・シアラヴォラ、エミリー・コゼット
ダンス教師:マチアス・エイマン



「ジゼル」

2010年
3/18(木)7:00p.m.


ジゼル:アニエス・ルテステュ
アルブレヒト:ジョゼ・マルティネス
ミルタ:マリ=アニエス・ジロー
ヒラリオン:ヤン・ブリダール
パ・ド・ドゥ:ミリアム・ウルド=ブラーム、エマニュエル・ティボー


3/19(金)7:00p.m.

ジゼル:ドロテ・ジルベール
アルブレヒト:マチアス・エイマン
ミルタ:エミリー・コゼット
ヒラリオン:ジョシュア・オファルト
パ・ド・ドゥ:メラニー・ユレル、アレッシオ・カルボネ


3/20(土)1:30p.m.

ジゼル:アニエス・ルテステュ
アルブレヒト:ジョゼ・マルティネス
ミルタ:マリ=アニエス・ジロー
ヒラリオン:ヤン・ブリダール
パ・ド・ドゥ:リュドミラ・パリエロ、エマニュエル・ティボー


3/20(土)6:30p.m.

ジゼル:イザベル・シアラヴォラ
アルブレヒト:バンジャマン・ペッシュ
ミルタ:エミリー・コゼット
ヒラリオン:ニコラ・ポール
パ・ド・ドゥ:メラニー・ユレル、アレッシオ・カルボネ


3/21(日・祝)1:30p.m.

ジゼル:オレリー・デュポン
アルブレヒト:ニコラ・ル・リッシュ
ミルタ:マリ=アニエス・ジロー
ヒラリオン:ジョシュア・オファルト
パ・ド・ドゥ:ミリアム・ウルド=ブラーム、エマニュエル・ティボー

デルフィーヌ・ムッサン インタビュー

デルフィーヌ・ムッサン(エトワール)


1980年 パリ・オペラ座バレエ学校入学。
1984年 15歳でパリ・オペラ座バレエ団入団。
1986年 コリフェに昇格。
1988年 スジェに昇格。
1994年 プルミエール・ダンスーズに昇格。
2005年 5月3日「シンデレラ」(ヌレエフ振付)の終演後、エトワールに任命される。


「私、少し日本人なの」。来日への期待を尋ねたら、デルフィーヌから不思議な答がかえってきた。10年位前から日本に弟が住んでいて、義妹が日本人なのだから、というのがその説明だ。フレデリック・ワイズマン監督の映画「オペラ座バレエのすべて」の中で、リハーサル・スタジオで一人きりで「メデ」の稽古をするシーンや、メデが乗り移ったかのように鬼気を感じさせる舞台の彼女が印象的で、あれは誰?と思った人も多いだろう。オペラ座が隠し持つ素晴らしい宝を見たという声も耳にした。
 3月の来日公演では役がらをがらりとかえ、ハリウッドの女優となり、人気俳優と恋におちるシンデレラを踊る。この作品でエトワールに任命された彼女。これに良い思い出を持っているのは当然なのだが、それだけでなく、特別な思いが重なるのだという。なぜ?と聞いて、彼女がこともなげに語った答えに驚いた。「私の人生において重要な時期のことだったから。二人目の子供を妊娠している時だったし、それに腕を骨折していたの」と。

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「シンデレラ」(photo:Laurent Philippe)

 骨折は舞台出演の数日前にわかったそうで、彼女の衣裳だけギブスを隠すのに急ぎで袖をつけて、と。「普通は踊らないでしょうね、こんなとき。でも、痛みがなかった上に、妊娠でじきに踊れなくなるってわかっていたので、リハーサルもしっかりしているのだから、舞台にたちたかったの。任命はまったく思ってもいなかっただけに感動したし、自分の仕事が認められたということで、すごく幸せな気持ちになれたわ。シンデレラ役はもちろん大好き。このヌレエフ版は、ハリウッドを舞台にしたアニメ漫画みたいなバレエ。森英恵がデザインし、ビーズの1つずつが手刺繍されたドレスを着て、1900年風のヘアスタイルで・・・すごくフェミニンな役なのよ」
 もっとも義姉たちに虐められる自宅では、グレーの地味なワンピースで掃除に励む。ハリウッドの近くに住む不幸せな娘が夢見るとしたら、それは映画の世界。それで、チャーリー・チャップリンを真似て、父親の大きな靴を履いてタップを踊るシーンがある。
「だからタップダンスもしっかりと稽古したのよ。舞台ではトゥシューズの上から大きな靴をはいて踊らなければならないので、技術的になかなか難しいの」
 複雑な振り付けで難易度の高いヌレエフ作品をハンデを抱えて踊り、エトワールに任命されたデルフィーヌ。その才能とバレエへの情熱はお墨付きというわけだ。任命された時のパートナーはカール・パケットだった。東京公演では彼はマリー・アニエス・ジロをパートナーに踊ることになっている。では、デルフィーヌのプリンスは?「マチュー・ガニオと組むのよ。実のところ、これには二人でびっくりしたの。でも、それに先立って「ジュエルズ」のダイヤモンドをオペラ座で二人で踊ったところ。彼、素晴らしいパートナーよ。私はリハーサル・スタジオでの稽古から息が合わない相手とじゃないと、だめ。目も合わさないパートナーがときにいるのだけど、すぐに目で語りかけてくる彼とはすぐに上手くいったわ。彼の身長も私にはぴったりなの」
 華奢な身体にパワーと情熱を秘めた麗しいエトワール。マチュー・ガニオと彼女が繰り広げるハリウッドの夢の世界まで、あと3か月!

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「ジュエルズ」"ダイヤモンド" 
マチュー・ガニオ、デルフィーヌ・ムッサン(photo:MichelLidvac)

大村真理子(フィガロ・ジャポン・パリ支局長)


◆デルフィーヌ・ムッサン出演予定日

「シンデレラ」
2010年3月13日(土)6:30p.m. (シンデレラ)
2010年3月15日(月)6:30p.m. (シンデレラ)

カール・パケット インタビュー

カール・パケット(プルミエ・ダンスール)

1987年 パリ・オペラ座バレエ学校入学。
1994年 17歳でパリ・オペラ座バレエ団入団。
1996年 コリフェに昇格。
2000年 スジェに昇格。
2001年 プルミエ・ダンスールに昇格。


 ヌレエフ版の「シンデレラ」は一般に知られる童話の灰かぶり姫とは異なり、30年代のハリウッドが舞台。シンデレラと恋に落ちる男性の主役はプリンスではなく、銀幕の人気スターである。しっかりとした骨格の長身でブロンドヘアのカール・パケットには、役作りせずとも俳優的風貌が漂う。映画をみるのは大好きで、昔はショーン・コネリー、今はジョージ・クルーニーの作品は見逃さないと語るカール。「でも僕自身、俳優になろうなんて夢見たことはないですよ。言葉で表現することがひどく苦手。その点体を介して表現するダンスは、話さなくて済むので・・・」
 オペラ座では主役もあれば準主役も、という具合に、プルミエ・ダンスールの彼の活躍は幅広い。「クラシックの大作については、どの役がとりわけ好きということは特にないです。僕なりに登場人物を作り上げて舞台にたち、その舞台の上の僕は本当の僕ではない、ということが好きなので。ましてやヌレエフの振り付けなら、どれも男性ダンサーにとって踊りがいがあるように創られてますからね。「シンデレラ」はいかにもハリウッドという感じを誇張した世界。その人気俳優なので、とにかくショー・オフな役。森英恵による輝きのあるコスチュームもダンサーの価値を美しくひきたててくれて、踊るのが楽しい作品ですね。気に入ってますよ、これは」

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「シンデレラ」映画スター(photo:Laurent Philippe)

 第一幕に彼の登場シーンはない。第二幕、映画の撮影スタジオのシーン。いくつものコミッカルなスケッチの後、ようやく映画俳優が姿を現すのだ。しかも、舞台中央の階段の上からいともゴージャスに!「そうなんです。それまでのシーンはすべて彼の登場のため、という感じ。バレエそのものが、この俳優の役をひきたてるように創られてるんです。そして登場してから最後までは、ほとんど舞台上にいます。僕がこの作品で1つ驚くことは、第二幕のソロの部分。これはヌレエフらしくない、というか、ヌレエフの創作の中で最も男性的な振り付けだと僕は思っているんです」。自分のダンスは男性的と評価する彼ならではの指摘だろう。ちなみにバレエ学校時代、力強さを湛えた「ラ・バヤデール」の戦士ソロルが彼の憧れだったとか。 
 彼のこれまでのシンデレラはクレールマリ・オスタ、デルフィーヌ・ムッサン、エミリー・コゼットだった。3月の東京公演では、初めてマリ=アニエス・ジローと組む。最近は「ジュエルズ」、過去には「パキータ」で組んでいる二人なので、すでに良い関係が築かれている。バレエ団の中でも長身を競い、確かなテクニックで定評のある二人が踊る「シンデレラ」。ハリウッド全盛時代が持つスケールの大きさ、グラムール、豪華さも存分に味わえそうで、見ごたえのある舞台が待ち遠しい。

大村真理子(フィガロ・ジャポン・パリ支局長)

◆カール・パケット出演予定日

「シンデレラ」
2010年3月13日(土)1:30p.m. (映画スター)
2010年3月14日(日)1:30p.m. (映画スター)