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2011/10/21 2011:10:21:21:53:39

シルヴィ・ギエム記者会見レポート(1)

10月20日、シルヴィ・ギエムの<HOPE JAPAN TOUR>記者会見が、東京バレエ団新スタジオにて行われました。東日本大震災被災地の岩手・福島での公演を控えていることもあり、記者会見には、テレビ、新聞、webを中心に多くのメディアが集まり、<HOPE JAPAN TOUR>に寄せる関心の高さがうかがえます。
前日10月19日に、<HOPE JAPAN>チャリティ・ガラ公演を大盛況のうちに終えたギエムは、この会見で、<HOPE JAPAN TOUR>に賭ける特別な想いをじっくりと語りました。


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●<HOPE JAPAN TOUR>を企画した想いについてお話ください。

今回の2011年日本ツアーは、随分前から準備していたものです。しかし、3月11日に東日本大震災が起こり、今までどおりの日本ツアーというわけにはいかないと思いました。
そこで、まずチャリティ・ガラ公演を開催しようと提案しました。今回の東日本大震災で被災された方々への支援のためのガラを催したいと思ったのです。また、被災された東北で公演を行い、大勢の方にご覧いただけるようチケット料金もなるべく安くして、たくさんの公演ができるようにしたいという意向をNBSに伝え、いわきと盛岡で公演を開催できることとなりました。
私はこれまで長い間、日本を訪れて公演を行い、毎回日本の主催者や観客の皆様に温かく迎えていただいています。今回はこれまでの公演とは違い、恩返しをしたい、励まし、支援をしたいという気持ちで臨んでいます。


●昨日(10/19)の<HOPE JAPAN>チャリティ・ガラ公演はいかがでしたか。

この公演のために集まった、海外からのアーティスト、日本のアーティスト、全員の思いがひとつになって舞台に臨みました。私自身、日本人のアーティストと出会う機会に恵まれて幸せでした。また、お客様にも大変喜んでいただけのではないかと思います。
こんなにも多くの方が、被災された方々への精神的な支援と多少なりとも財政的にも支援をしたいという気持ちを持って集まってくださったのだと嬉しかったですし、本当に感動的な夕べとなりました。

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10/19(水)<HOPE JAPAN>チャリティ・ガラ カーテンコール



●いわき市は原子力発電所に近く、海外のアーティストはあまり行きたくない場所ではないかと思います。その中で公演を決断された理由は。

(被災地にお住まいの皆さんを)物質的な支援だけでなく、精神面での支援をしたいという気持ちがありました。深い悲しみにある中で、少しでも温かさと友情の気持ちを分かち合えたらと思ったのです。
皆さんご存知の通り、私は脱原発派です。しかし、苦しんでいらっしゃる皆様、被災された皆様と一瞬でも一緒に温かい時を過ごせたらと思っているのです。物事が一歩でも前進するようにという願いを込めて踊り、それが少しでも皆様の励みになれば幸せです。
そして、いま抱えている原発の大きな問題を考えていける機会なれば、と考えています。


●今回封印されていた「ボレロ」を被災地で踊られますが、「ボレロ」を選んだ想いについてお話ください。

「ボレロ」は、日本でこれまで何度も踊ってきており、この作品を通して私を知った方も多いのではないかと思います。日本の観客の皆さんは「ボレロ」のファンの方が多く、私自身も大好きな作品です。
こういう特別な機会だからこそ、ポジティブな気持ちになれ、勇気と力を与えてくれる「ボレロ」を日本で踊ることを決意しました。
震災前の日本で踊ってきた「ボレロ」を再び踊るのは、ちょっと"巡礼"のような感じなのですが、精神的にも皆さんのことをサポートし、支援できたらと思っています。

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10/19(水)<HOPE JAPAN>チャリティ・ガラより「ボレロ」



●昨日のチャリティ・ガラでの「ボレロ」は、今までのギエムさんの「ボレロ」より感情が表に出ていたように思います。今回の「ボレロ」の解釈はいかがですか。

確かに、今回の「ボレロ」は、今までほど肉体的な「ボレロ」ではなく、感情に触れるようなところがあったのかもしれません。観客の皆さんが、私が今回なぜ来日し、どんな気持ちで舞台に臨んでいるかをよく理解していただいている中で踊った「ボレロ」でしたので、そういう部分が出て、それを感じられたのかもしれませんね。
「ボレロ」は、振付がよく構成されており、作品自体が力強さを内包しているのですが、「ボレロ」を踊るアーティストがどういう気持ちで踊っているか、そしてそれをご覧になっているお客様の精神状態やどういう気持ちで受け止めているかによって、違いが出てくるのではないかと思います。


●ギエムさんは震災後早い時期から支援の気持ちを表されています。どのような状況で日本の震災について知り、どのように受け止めて、行動に移されようと思ったのですか。

3月11日、私はロンドンにいました。東京公演のBプロで上演されるフォーサイスの作品(「リアレイ」)のリハーサル中でした。フォーサイスはよくパソコンを使ってリハーサルをしており、おそらく休憩中だったと思いますが、ニュースが目に入り、震災のことを知りました。そこでニュースをたびたびチェックしていたのですが、時間が経つにつれて、どんどん事態がひどくなる一方で、とても衝撃を受けました。 
テレビの小さな画面でもそこで起きている大惨事は伝わってきます。日本にはたくさんの友人がいますし、観客の皆さんとも本当にいい関係を築いてきました。被災された方々の痛みを感じ、悲しみと遠くにいて私たちには何もできないという無力感でいっぱいになりました。
そこで私たちに何ができるかと考え、<HOPE JAPAN>の公演を企画し、パリ、ロンドン、そして今回日本でも開催することができました。


●今回の<HOPE JAPAN TOUR>を行うにあたり、日本を愛したベジャールさんのことを、どのように思い出されましたか。

「ボレロ」といえば、モーリス・ベジャール、ベジャールといえば「ボレロ」というほどの作品です。
おそらく、モーリスが生きていれば、必ず日本に来て、きっと何かアクションを起こしたと思っています。<HOPE JAPAN>を通して、モーリスも一緒に日本にいるような、そういう機会を与えられる公演になればと思います。
「ボレロ」はこういうときに本当にふさわしい作品ですし、彼の存在は今回の公演で不可欠なものでした。


11-10.21_05HOPE_JAPAN.jpg●ギエムさんは「脱原発」を表明していますが、今回来日して改めて訴えたいことがありますか。

日本だけではなく世界全体でのことですが、将来のため、今こそ私たちは動かなければならないと思います。
私は、原発がなくても生活できると思っています。原発がないほうが人生も豊かになりますし、危険もありません。放射性物質は何万年も放射能を出し続ける恐ろしいものです。経済的には良い面もあるのかもしれませんが、私たち人間にとって果たして良いものかというと、決してそうではありません。
まずはみんなで他のエネルギー、他のソリューションはないかという問題について、しっかり議論をして、探していくべきだと思います。
原子力発電に代わる、代替エネルギーを日々研究している研究機関や研究者たちがたくさんいますが、そういうところにしかるべき予算が投じられるようにするなど、解決策は必ず見いだせるのではないかと思うのです。


●3月11日以来、日本の芸術家は、芸術に何ができるのかということをつきつけられ、今も答えを模索し続けている。ギエムさんにとって、芸術はどんな意味を持っていますか?

芸術は人間にとってとても大切なものです。芸術には、何か変える力、人々をひとつにまとめる力があると思っています。
太古の昔から、室内でも屋外でも人々は歌い、踊り、何か表現をしてきました。例えば、アフリカであれば雨を望んで、雨乞いの踊りをしたり・・・何かを表現する必要にかられて、さまざまな形で歌ったり踊ったりしていたのです。
どんなときでも、平穏な時代であっても悲劇が訪れた後であっても、芸術の存在は大きく、大切なものなのです。
歌いたいという人を止めることはできません。歌うために生まれてくる人もいます。そしてそれを受け止める人もいる。それぞれの立場の違いこそあれ、両者ともに必然があるのです。
芸術は人生にとって必要なもの、人生を変えることができるものだと思っています。



●<HOPE JAPAN>の公演では、どんな想いで一つひとつのパを踊られましたか。

<HOPE JAPAN>は一人の人間としての義務だと思っています。支援したい、サポートしたいという想いです。
深い悲しみの中にいる方たくさんいらっしゃるかと思いますが、「一人ではない」ということを伝えたいと思いました。
私は、日本がもう安全で、何も問題がないと言いたいためにここにいるわけではありません。むしろその逆です。
長い間にわたり、何度も日本に来ていますが、これまでは日本は本当に順調で、何も問題がなく、私もたくさんの物を見たり聞いたりしてきました。
けれども、やはり今はそういう状況ではないと感じています。まだ完全に安全とはいえず、大きな問題に直面している時だからこそ、私も手を携えて一緒にいたいという思いを持っているのです。

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※記者会見でギエムは、このほかに11月17日に日本初演の幕をあける「エオンナガタ」についてもたっぷり語ってくれました。「エオンナガタ」に関連の発言は、後日改めてお届けします。

撮影:長谷川清徳(舞台)、引地信彦(会見)