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3月11日(日)、東日本大震災から一年が経ったこの日、モナコ公国 モンテカルロ・バレエ団日本公演の最終公演の前に、東日本大震災 追悼セレモニーが行われました。

セレモニーでは、まずモンテカルロ・バレエ団の日本人プリンシパル・小池ミモザさんが自身の振付作「La vie」を披露。同じくプリンシパルのガエタン・モルロッティが、チベットの楽器シンギングボールと自らの息づかいによって紡ぎだす音楽とともに、「春の芽吹きを思わせる、弱いようで強いものを表現し、"希望"を感じていただけたら」というミモザさんの言葉どおり、鎮魂の想いと明日への希望に満ちたダンスを捧げてくださいました。
その後、モンテカルロ・バレエ団芸術監督のジャン=クリストフ・マイヨー氏のスピーチに続いて、モナコ大公アルベール二世殿下のメッセージを在東京モナコ公国名誉総領事 諸橋晋六氏が代読。
地震発生時刻の14時46分に合わせ、ご来場いただいた観客の皆さまとともに、会場全体で1分間の黙祷が捧げられました。

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■小池ミモザ振付「La vie」(生きる)


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■ジャン=クリストフ・マイヨー(モンテカルロ・バレエ団芸術監督)スピーチ

12-03.13_maillot.jpgC'est avec beaucoup d'humilité, mais aussi avec beaucoup d'amour que nous allons danser pour vous et pour tout le peuple japonais, en cette journée si particulière.

Ce sont plus de vingt nationalités, représentant les cinq continents que composent l'ensemble des Artistes des Ballets de Monte-Carlo et c'est donc ainsi un peu le monde entier qui sur cette scène tient à vous dire que l'on ne vous oublie pas.

Nous sommes tous très touchés et très fiers de partager avec vous cet instant solennel de recueillement mais aussi de vous offrir au travers de notre engagement et de notre générosité artistiques, ce spectacle chorégraphique, Cendrillon, symbole de création, donc de vie et donc d'espoir !




【日本語訳】
決して忘れることのできない特別な日に、私たちは、深い敬意とたくさんの愛を込めて、日本の皆さまのために踊ります。
モンテカルロ・バレエ団には、五大陸の20以上の国からダンサーが集まっていますから、世界中の人たちがこの舞台の上で、日本への思いを伝えたいと願っていると言えるかもしれません。
厳粛な追悼の時を皆さまと分かち合えることに深い感動を覚えるとともに、創造、すなわち命と希望を象徴する作品である「シンデレラ」を、私たちの熱意と心を込めてお届けできることを誇りに思います。



■モナコ大公アルベール2世殿下からのメッセージ

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【日本語訳】
一年前の本日、東北を襲った大きな災害が日本を深い悲しみに沈めました。
我々は この悲劇の犠牲になられた大勢の方々のことを、決して忘れてはなりません。
この出来事は、自然を支配できると驕りがちな我々に、原点に立ち戻り、謙虚になるよう促すきっかけとなりました。
我々は、日本の国民がこの機会に示した、模範的な勇気を忘れることは出来ません。
また、日本の方々が、威厳を持って冷静にこの不幸な出来事に立ち向かわれたことに深い経緯を表します。
さらに、日本の方々は、素晴らしい組織力と、このような試練を乗り越えるに必要な強い能力を示されました。
ここに 日本の皆様とともに、我々は平和で自信に満ちた日本の未来に大きく期待していきたいと思います。

アルベール2 世


photos:細野晋司

昨夜、東京オペラシティコンサートホールえ開催された、バルバラ・フリットリの3年ぶりとなる東京でのリサイタルは、怒涛のブラヴォーに包まれ、初日を終えました。
音楽評論家の加藤浩子さんが寄稿してくださった昨夜のリサイタルの模様を、舞台写真とともにお届けいたします。




信頼感に支えられた至福の一夜〜バルバラ・フリットリ、リサイタルを聴いて

加藤浩子(音楽評論家)

 幸せな夜。
12-01.27_01.jpg コンサートを聴いてそう思える夜は、とても少ない。
 そのまれな幸せに、今年はじめて出会えた夜だった。
 バルバラ・フリットリ。イタリア・オペラなら何をおいてもまず彼女で聴きたい、そう思わせる、当代きっての、純イタリアのソプラノだ。美しく品格のある声と、完璧な技術との同居。若いころは清らかさも魅力だったが、今はより成熟し、格調の高さを豊麗なオーラが包みこむようになった。以前が白百合なら、今はカサブランカかカトレアといったところだろうか。このような美しい成長を見せてくれる歌手と同じ時代に生きていることは、大きな歓びだ。
 フリットリが一流である証は、ステージに出た以上は聴き手を必ず満足させてくれることにもあらわれている。当たり前なように思えるけれど、このハードルをクリアしている歌手はきわめて少ない。慎重にレパートリーを選び、声に合わないものは退けてきた、歌手としての知性の賜物だ。前半を歌曲、後半をオペラアリアで固め、しかも2回の公演のそれぞれに確固とした色がある今回の東京公演のプログラムも、フリットリの知性と自信を物語っている。
 その1夜目は、リヒャルト・シュトラウスとヴェルディという潔いプログラム。
 酔った。期待以上だった。音楽の美しさに涙するのは至福の体験だが、それを2度も味わえた。前半の《4つの最後の歌》と、プログラムの最後に置かれた《運命の力》のアリア〈神よ、平和を与えたまえ〉。フリットリとシュトラウスは意外な組み合わせだったけれど、そしてもちろんドイツ的ではなかったけれど、オーケストラと一体となり、音楽のなめらかな美しさを汲み上げた、馥郁とした香気に満ちた演奏は、一期一会のものだった。
 後半のヴェルディ・アリアは、フリットリの独壇場。彼女の美質であるやわらかで湿り気のある声、長いフレーズの艶やかさ、ふくよかさはいっそう味わいを増し、アリア1曲で全曲の輪郭を浮かび上がらせる表現力は卓越の極み。恋人を待つ夜の庭園の情景が目に浮かんだ《イル・トロヴァトーレ》の〈穏やかな夜〉。夜明けの海が語りかけてくるような、《シモン・ボッカネグラ》の〈暁に星と海は微笑み〉。そして、艶麗な声をたっぷりと聴かせた、《運命の力》の〈神よ、平和を与えたまえ〉。この曲の絶対的な美しさを、これほど確信できた演奏ははじめてだった。クライマックスへと上りつめ、最後の高音が宙に放たれた時、全身に戦慄が走るのを感じながら、ヴェルディがこれを聴いたらきっと満足しただろうと、なぜか確信してしまったのだった。

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 聴衆も素晴らしかった。最初から最後まで会場に漂っていた幸福感は、フリットリと聴衆のあいだに存在していた信頼感によるところが大きい。彼女は裏切らない、と日本の聴き手は知っている。演奏でも、聴衆への誠意でも。だからフリットリは愛される。そしてフリットリも、その夜の聴衆を愛していた。
 カルロ・テナンの指揮もよかった。歌心に溢れ、イタリア人らしいテンションの高さもあるけれど、決して崩れない冷静さと知性。その点、今宵のプリマと共振していた。
 アンコールで歌われた《トゥーランドット》のリューのアリア〈氷のような姫君の心も〉は、たっぷりと甘いデザートの舌触り。2月1日の第2夜では、こんなプッチーニとチレアが聴けると思うと、またわくわくしてきてしまう。 


photos:Kiyonori Hasegawa



●バルバラ・フリットリ ソプラノ・リサイタル 公演概要>>>


12-01.07_news_01.jpg ウラジーミル・マラーホフ&東京バレエ団が2012年新春に贈る<ニジンスキー・ガラ>。20世紀初頭に一世を風靡したバレエ・リュスで活躍した不世出の天才ニジンスキーが活躍した名品によるミックス・プロだ。ここでは『レ・シルフィード』『薔薇の精』『ペトルーシュカ』に登場する東京バレエ団の踊り手に焦点をあて、見どころを探りたい。

 ショパンのピアノ曲にのせ、月明かりに照らされた森のなかで詩人が妖精たちと舞う『レ・シルフィード』は東京バレエ団の誇るお家芸のひとつ。整然と揃ったシルフたちの群舞をはじめ細部まで美しく磨きあげられた舞台は海外でも賞賛を浴びてきた。

 ニジンスキーの踊った詩人役をマラーホフと競演するのが木村和夫。この作品は筋のないバレエの先がけと称されるも詩人の個性によって趣が異なる。木村の詩人は単にノーブルに取り澄ましただけでも絵にかいたような純朴なロマンチストでもない。愁いの色濃い面持ちで、メランコリックな空気を漂わせる。とはいえ妖精たちと華麗に舞い一幅の泰西名画の中心にしっかりと収まるさじ加減はベテランならではといえよう。

 プレリュードには吉岡美佳、小出領子というプリマを配する。清楚可憐にして気品あふれる吉岡には妖精役がよく似合う。マラーホフと踊る日もあり、長きにわたって彼と築いてきたパートナーシップの妙が発揮されそうだ。小出は伸びやかなラインと豊かな音楽性を誇る。上半身をなだらかにもちいた優美な踊りを披露するだろう。楚々とした風情が得難い高木綾(ワルツ)、力強い踊りに定評ある田中結子(マズルカ)、堂々たる存在感をみせる奈良春夏(マズルカ)といった選り抜きのソリストたちにも注目したい。

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 『薔薇の精』はゴーティエの詩に基づく佳品。舞踏会から帰った少女が居間でまどろみ夢うつつに薔薇の精と踊りに興じる。タイトル・ロールを踊ったニジンスキーの驚異的な跳躍、両性具有の官能美は語り草となっている。薔薇の精を踊る男性につい目が行ってしまうけれども少女が夢と現実のあいだに抱く淡い恋が見えないとドラマは立ちあがらない。

 『薔薇の精』をマラーホフの秘蔵っ子、ディヌ・タマズラカルが踊り、少女を高村順子と吉川留衣が演じる。高村は愛くるしい容姿といきいきとした踊りが身上。お人形のように可愛らしいなかに少女が抱く大人への憧れを浮き彫りにする。初役となる吉川は見目麗しい顔立ちにしてスタイルも抜群の気鋭。美しく品のある踊りをみせるのではないか。


 本公演の大きな眼目はマラーホフがタイトル・ロールを初披露する『ペトルーシュカ』だろう。人間の心を持ってしまった人形の悲哀をマラーホフがいかに表すか目が離せない。加えて、ペトルーシュカを取り巻く面々を東京バレエ団の実力派が演じるのも楽しみだ。

12-01.07_news_05.jpg ペトルーシュカの思慕するバレリーナは真っ赤な頬紅をつけた可愛らしい人形。不器用な彼の思慕を解らず相手にしない。このたびは小出領子と佐伯知香が挑む。小出は以前踊った際、チャーミングな容姿が映え好評を博した。「人形振り」も堂に入っている。初めて挑む佐伯は愛らしく小粋な踊りをみせる成長株。バレリーナ役にぴったりといえる。

 ペトルーシュカの恋敵ムーア人を後藤晴雄と森川茉央が演じる。以前踊った後藤はペトルーシュカを斬殺する悪漢を冷酷に演じるはずだ。森川はベジャール振付『ザ・カブキ』の直義に抜擢されるなど上り調子の若手であり嘱望される。縁日の見世物小屋の老魔術師シャルラタンを演じる柄本弾も若くして主役経験重ねる俊英ながら『白鳥の湖』の悪魔ロットバルトを演じるなど役柄の幅を広げるだけに迫力十分の演技をみせるだろう。

 東京バレエ団は近年バレエ・リュス作品、ニジンスキーが踊った名作を折にふれて取り上げている。古典作品と現代作品の間に位置し、両者を繋ぐ役割を果たしたレパートリーに接することは、歴史を知り、バレエをより深く楽しむためにも有意義だ。今回は個性あふれる踊り手たちがニジンスキーの伝説をいまに伝える絶好の機会。心ゆくまで堪能したい。


高橋森彦(舞踊評論家)

舞台写真:Kiyonori Hasegawa



●東京バレエ団<ニジンスキー・ガラ>公演情報>>>


2012年の幕開けを飾る、東京バレエ団は<ニジンスキー・ガラ>の初日まで1週間となりました。
舞踊評論家の高橋森彦さんに、<ニジンスキー・ガラ>に出演する東京バレエ団のダンサーたちへの期待、見どころを2回にわたって紹介していただきます。

第1回目は、1月3日に開催された「NHKニューイヤーオペラコンサート」において、『牧神の午後』の牧神とニンフ役を初めて演じた後藤晴雄と上野水香の2人を取り上げていただいています。
届いたばかりの3日の舞台写真と合わせてご覧ください。


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 新春恒例の「NHKニューイヤーオペラコンサート」が1月3日夜に行われた。今年で55回目を迎えた伝統ある催しである。東京・渋谷のNHKホールから全国に生放送されたためご覧になった方もいらっしゃるだろう。内外で活躍するオペラ歌手が集い、名作オペラのなかから愛をめぐるアリアを中心に歌って華やかに競演した。そこに一組バレエの参加があった。東京バレエ団が上演した『牧神の午後』である。

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 同作はフランス象徴派詩人マラルメの詩に触発されてドビュッシーが作曲した「牧神の午後への前奏曲」に伝説の天才舞踊手ニジンスキーが振付・主演したもの。ちょうど今から100年前に初演された。牧神が水浴びに来たニンフたちと戯れるエロティックで夢想的な舞踊詩だ。今回主演したのはともに初役となる後藤晴雄と上野水香だった。

 幕が開くと、小川の側の岩棚で休んでいる牧神が笛を吹いたり、ブドウをむさぼり食ったり、まどろんでいたりする。そこへやって来たニンフに欲情し交わろうとするも果たせない...。やがて残されたスカーフに体を当て自らを慰める――。牧神役の後藤は客席に対し横を向きながら左右に歩いたり、絵画的なポーズを取ったりしながら半獣神に成りきる。フルートに始まる気だるい調子のテーマにのせた所作の一つひとつがナイーヴで、匂い立つような色香もある。野性味たっぷりに半身獣の牧神を演じたと伝えられるニジンスキーの残照を感じさせつつマラルメ/ドビュッシーの生んだ牧歌的な詩情に富む世界に息づいていた。

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 ニンフ演じる上野の演技も新鮮だ。高々と掲げられる脚が代名詞ともいえる抜群の身体能力、高度なテクニックを誇る彼女がエジプト壁画もしくはギリシャ陶器の絵柄を参照したといわれる平面的なポーズや鋭角的な動きの連なる独特な振付を踊るということにイメージが湧きにくいかもしれない。けれども上野は振付の一つひとつを丁寧に噛みしめるかのように踊る。牧神に気付くも逃げ遅れ、絡め捕られそうになり、驚き恥らいながら逃れようとするさまが違わずに伝わった。抑えた演技のなか、ほのかな色気が立ちのぼる。

 開幕迫る<ニジンスキー・ガラ>でも両者はパートナーを変えて『牧神の午後』に主演する。上野は世界のスター、ウラジーミル・マラーホフと組む。奇才マラーホフと、どのような化学反応を起こすか楽しみにしたい。後藤はニンフ役をマラーホフや牧神を当り役にする名手シャルル・ジュドと共演し好評を得た井脇幸江と踊る。ベテラン同士ならではの深みある演技となるだろう。ふたりの個性息づく舞台を、この目でしかと味わいたい。


高橋森彦(舞踊評論家)


舞台写真:NHKニューイヤーオペラコンサートより (c)NHK/NPS



●東京バレエ団<ニジンスキー・ガラ>公演情報>>>




 目下来日中の"ウィーン室内合奏団"が出発直前の11月19日、地元でコンサートを開催した。ウィーン国立歌劇場で今シーズンからはじまり、いま急速に人気上昇中の"ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団メンバーによる室内楽シリーズ"の一環として、歌劇場南翼のマーラー・ザールで開かれたマティネでは、日本で予定されているプログラムのうち、
 1.モーツァルト「弦楽四重奏曲 ニ長調 "ホーフマイスター" K499」
 2.ウィーバー「クラリネット五重奏曲 変ロ長調」
 3.シューベルト「八重奏曲 ヘ長調」、
それに儀礼としてのアンコールに「ポルカ」が演奏された。 

 クラシック音楽の精華であるウィーン音楽の、さらにそのエッセンスたる室内楽を演奏して彼等、"ウィーン室合奏団"ほど、世界的に評価の高いグループは他にない。ウィーン・フィルの歴代のコンサートマスターにあって、ひときわ傑出した存在であったゲルハルト・ヘッツェルは独奏や室内楽の分野でも卓越した音楽家であり、その彼が1970年に設立し、精魂を込めて育んできたこの合奏団には、いまも創設者の典雅で洗練されたスタイルが脈々と継承されている。
 三重奏、四重奏はもとより、さらに規模の大きいアンサンブルで、いわば彼らの母体であるウィーン・フィルの縮小版に相当するから、楽器編成がいかようにも可能であり、演奏される音楽もじつに多種多様なのが利点であり特徴だ。今回もそのような彼等ならでは魅力が十二分に発揮されたプログラム構成で、客席が大きく湧き上がった。

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 モーツァルトのしっとりとした佇(たたず)まいから、明るく軽快なクラリネットが疾走するウェーバーへと鮮明に一転する呼吸感。演奏する側にとっても大曲であるのみならず、なかなか手強いシューベルトで発揮される表情のゆたかさは、この作品を長年弾き続けてきた彼等の自信と余裕の表れに違いない。さすが実力者揃いであるだけに、一旦演奏がはじまれば、そこは文句の付けようがないほどの完成度の高さで聴衆を魅了したのだ。
グループ代表のタマシュ・ヴァルガ(チェロ)によれば、
「ほぼ1年前に国立歌劇場における"室内楽シリーズ"の企画が持ち上がったとき、つねに"ウィーン室内合奏団"の日本ツアーのことが念頭にあったので、即座にツアー直前の11月の日程を申請しました。日本向けのゲネプロ(最終総練習)に当てるのに絶好の機会だと考えたからです」。
「長い準備期間を経て実現した今日のコンサートで、ドミニク・マイヤー国立歌劇場監督、クレーメンス・ヘルスベルク楽団長以下、敵情視察のオーケストラ同僚(笑)、それに批評家、ジャーナリスト等々が揃った客席から十分な手応えが感じられましたね。これで日本の皆様に満足していただけることが確信できましたから、すぐに出発できますよ!」と誇らしげに語るヴァルガだ。
 錦秋の日本に雅(みやび)やかなウィーンの音楽家たちが、ひときわ彩(いろど)りを添える。

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山崎 睦(音楽ジャーナリスト・在ウィーン)

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●ウィーン室内合奏団2011年日本公演 公式サイト
 >>http://www.nbs.or.jp/stages/1112_wiener/index.html


▽2011/10/21 シルヴィ・ギエム記者会見レポート(1)>>>


現在、<HOPE JAPAN TOUR>で全国を巡演しているシルヴィ・ギエム。このツアーの東京公演を前に開催した記者会見では、11月17日に開幕する「エオンナガタ」についての質問にも、じっくり答えてくれました。

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●「エオンナガタ」は日本から影響を受けていると聞いています。具体的にその要素を教えていただけますでしょうか。


11-11.10news_eon01.jpg短く説明するのは大変難しい質問ですが・・・。
「エオンナガタ」は、男性なのか女性なのかわからない、ミステリーに包まれた生涯を送ったエオンの騎士(シュヴァリエ・デオン)の人生を描いた作品です。このテーマはロベール・ルパージュが提案したのですが、彼は長い間、エオンの騎士をテーマにした作品を創りたいという想いがあり、今回ようやく実現しました。
ルパージュの創作手法は、数週間かけてワークショップを行い、みんなで何か探しながら、遊び感覚でそこから生まれてくるものを見つけていくというプロセスを踏んでいきます。このワークショップを通して、お互い何が好きなのか、どんなことに興味があるのか、ということが次第にわかっていく中で、ルパージュも私も本当に日本が好きで、二人とも歌舞伎が大好きだと言う共通点が見つかりました。
また、ルパージュは、私と(ラッセル・)マリファントを見ていて、男性的な部分、女性的な部分が2人の中で強く際だっているところを発見し、やはりこのテーマ(エオンの騎士)が、3人の作品には合うのではないか思ったようです。
振付作業が進んでいくなかで、せっかくであれば私たちが好きな、(歌舞伎の)女形という様式がある日本を通して、 "性"とか"変装"というテーマを持つエオンの騎士の物語を構築できたらと思ったのです。


●日本には「エオンの騎士」を主人公にしたアニメーションもありますが、ご存知でしょうか。

11-11.10news_eon02.jpgエオンの騎士をテーマにしようと決めたときから、インターネットを通じて彼のことをいろいろと調べていくうち、You Tubeで日本にはエオンの騎士を題材にしたアニメーションがあることを知りました。
エオンは大変魅力的な人物です。当時として、とても進んでいた人ですし、外交官であり、戦地に赴いた時期は少ないのですが、軍人でもあり、スパイであり、一見女性のようなそんな一面もあって。
また、彼はフランスに住んでいた時代もあり、イギリスに行っていた時代もあるとことから、私はフランス人、マリファントはイギリス人であり、3人の中で(エオンとの)共通点があったんですね。
ルパージュはテーマを決めて作品を創っていくときに、表面的に人物を見つめていくのではなく、その人物を深く探求していき、パズルを組み立てていくような手法で創作していきます。最後にはパズルが出来上がって、その人物が深く浮かびあがるような作品が出来あがっていくのです。




●エオンという人物はフランスでは、よく知られているでしょうか。

エオンの騎士は、確かにフランスでは知られていますけれども、それは名前だけです。どういう人物かということまでは、残念ながら知らないのではないかと思います。何故彼が知られているかというと、クロスワードパズルに彼の名前がよく登場するのです。「ルイ15世のスパイ、3文字で」とか、「半分男性で半分女性の3文字の人物は」という問いの答え(「EON」)として。
私もこの作品を踊ることになり、はじめて彼のことを勉強し、彼のことを深く知るようになりました。とても複雑な人生を生きた、とても興味深い、面白い人物です。


●「エオンナガタ」の衣裳を担当した、故アレキサンダー・マックイーンについて、お話いただけますでしょうか。

彼は大変才能があり、詩情豊かな素晴らしいデザイナーです。
(「エオンナガタ」の衣裳を依頼する際に)会いに行ったときにも、すぐに役のことを理解してくれました。そして、彼の創作した衣裳は、シンプルでありながら、(この作品で)必要とされているものが、しっかり表現されていました。
彼は、ファッション業界で苦労しながら多くの衣裳をデザインしてきましたが、彼のデザインは、単なるファッションではなく、すばらしい想像力をもって生みだされたものです。才能に恵まれ、クリエイティブで、詩情があって、知的で、繊細で、彼のような人物はなかなかいいません。亡くなられたことを悔しく、残念に思います。

photo:Erick Labbė(舞台写真)、Nobuhiok Hikiji(記者会見)



◆「エオンナガタ」の公式サイト>>>


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10月20日、シルヴィ・ギエムの<HOPE JAPAN TOUR>記者会見が、東京バレエ団新スタジオにて行われました。東日本大震災被災地の岩手・福島での公演を控えていることもあり、記者会見には、テレビ、新聞、webを中心に多くのメディアが集まり、<HOPE JAPAN TOUR>に寄せる関心の高さがうかがえます。
前日10月19日に、<HOPE JAPAN>チャリティ・ガラ公演を大盛況のうちに終えたギエムは、この会見で、<HOPE JAPAN TOUR>に賭ける特別な想いをじっくりと語りました。


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●<HOPE JAPAN TOUR>を企画した想いについてお話ください。

今回の2011年日本ツアーは、随分前から準備していたものです。しかし、3月11日に東日本大震災が起こり、今までどおりの日本ツアーというわけにはいかないと思いました。
そこで、まずチャリティ・ガラ公演を開催しようと提案しました。今回の東日本大震災で被災された方々への支援のためのガラを催したいと思ったのです。また、被災された東北で公演を行い、大勢の方にご覧いただけるようチケット料金もなるべく安くして、たくさんの公演ができるようにしたいという意向をNBSに伝え、いわきと盛岡で公演を開催できることとなりました。
私はこれまで長い間、日本を訪れて公演を行い、毎回日本の主催者や観客の皆様に温かく迎えていただいています。今回はこれまでの公演とは違い、恩返しをしたい、励まし、支援をしたいという気持ちで臨んでいます。


●昨日(10/19)の<HOPE JAPAN>チャリティ・ガラ公演はいかがでしたか。

この公演のために集まった、海外からのアーティスト、日本のアーティスト、全員の思いがひとつになって舞台に臨みました。私自身、日本人のアーティストと出会う機会に恵まれて幸せでした。また、お客様にも大変喜んでいただけのではないかと思います。
こんなにも多くの方が、被災された方々への精神的な支援と多少なりとも財政的にも支援をしたいという気持ちを持って集まってくださったのだと嬉しかったですし、本当に感動的な夕べとなりました。

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10/19(水)<HOPE JAPAN>チャリティ・ガラ カーテンコール



●いわき市は原子力発電所に近く、海外のアーティストはあまり行きたくない場所ではないかと思います。その中で公演を決断された理由は。

(被災地にお住まいの皆さんを)物質的な支援だけでなく、精神面での支援をしたいという気持ちがありました。深い悲しみにある中で、少しでも温かさと友情の気持ちを分かち合えたらと思ったのです。
皆さんご存知の通り、私は脱原発派です。しかし、苦しんでいらっしゃる皆様、被災された皆様と一瞬でも一緒に温かい時を過ごせたらと思っているのです。物事が一歩でも前進するようにという願いを込めて踊り、それが少しでも皆様の励みになれば幸せです。
そして、いま抱えている原発の大きな問題を考えていける機会なれば、と考えています。


●今回封印されていた「ボレロ」を被災地で踊られますが、「ボレロ」を選んだ想いについてお話ください。

「ボレロ」は、日本でこれまで何度も踊ってきており、この作品を通して私を知った方も多いのではないかと思います。日本の観客の皆さんは「ボレロ」のファンの方が多く、私自身も大好きな作品です。
こういう特別な機会だからこそ、ポジティブな気持ちになれ、勇気と力を与えてくれる「ボレロ」を日本で踊ることを決意しました。
震災前の日本で踊ってきた「ボレロ」を再び踊るのは、ちょっと"巡礼"のような感じなのですが、精神的にも皆さんのことをサポートし、支援できたらと思っています。

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10/19(水)<HOPE JAPAN>チャリティ・ガラより「ボレロ」



●昨日のチャリティ・ガラでの「ボレロ」は、今までのギエムさんの「ボレロ」より感情が表に出ていたように思います。今回の「ボレロ」の解釈はいかがですか。

確かに、今回の「ボレロ」は、今までほど肉体的な「ボレロ」ではなく、感情に触れるようなところがあったのかもしれません。観客の皆さんが、私が今回なぜ来日し、どんな気持ちで舞台に臨んでいるかをよく理解していただいている中で踊った「ボレロ」でしたので、そういう部分が出て、それを感じられたのかもしれませんね。
「ボレロ」は、振付がよく構成されており、作品自体が力強さを内包しているのですが、「ボレロ」を踊るアーティストがどういう気持ちで踊っているか、そしてそれをご覧になっているお客様の精神状態やどういう気持ちで受け止めているかによって、違いが出てくるのではないかと思います。


●ギエムさんは震災後早い時期から支援の気持ちを表されています。どのような状況で日本の震災について知り、どのように受け止めて、行動に移されようと思ったのですか。

3月11日、私はロンドンにいました。東京公演のBプロで上演されるフォーサイスの作品(「リアレイ」)のリハーサル中でした。フォーサイスはよくパソコンを使ってリハーサルをしており、おそらく休憩中だったと思いますが、ニュースが目に入り、震災のことを知りました。そこでニュースをたびたびチェックしていたのですが、時間が経つにつれて、どんどん事態がひどくなる一方で、とても衝撃を受けました。 
テレビの小さな画面でもそこで起きている大惨事は伝わってきます。日本にはたくさんの友人がいますし、観客の皆さんとも本当にいい関係を築いてきました。被災された方々の痛みを感じ、悲しみと遠くにいて私たちには何もできないという無力感でいっぱいになりました。
そこで私たちに何ができるかと考え、<HOPE JAPAN>の公演を企画し、パリ、ロンドン、そして今回日本でも開催することができました。


●今回の<HOPE JAPAN TOUR>を行うにあたり、日本を愛したベジャールさんのことを、どのように思い出されましたか。

「ボレロ」といえば、モーリス・ベジャール、ベジャールといえば「ボレロ」というほどの作品です。
おそらく、モーリスが生きていれば、必ず日本に来て、きっと何かアクションを起こしたと思っています。<HOPE JAPAN>を通して、モーリスも一緒に日本にいるような、そういう機会を与えられる公演になればと思います。
「ボレロ」はこういうときに本当にふさわしい作品ですし、彼の存在は今回の公演で不可欠なものでした。


11-10.21_05HOPE_JAPAN.jpg●ギエムさんは「脱原発」を表明していますが、今回来日して改めて訴えたいことがありますか。

日本だけではなく世界全体でのことですが、将来のため、今こそ私たちは動かなければならないと思います。
私は、原発がなくても生活できると思っています。原発がないほうが人生も豊かになりますし、危険もありません。放射性物質は何万年も放射能を出し続ける恐ろしいものです。経済的には良い面もあるのかもしれませんが、私たち人間にとって果たして良いものかというと、決してそうではありません。
まずはみんなで他のエネルギー、他のソリューションはないかという問題について、しっかり議論をして、探していくべきだと思います。
原子力発電に代わる、代替エネルギーを日々研究している研究機関や研究者たちがたくさんいますが、そういうところにしかるべき予算が投じられるようにするなど、解決策は必ず見いだせるのではないかと思うのです。


●3月11日以来、日本の芸術家は、芸術に何ができるのかということをつきつけられ、今も答えを模索し続けている。ギエムさんにとって、芸術はどんな意味を持っていますか?

芸術は人間にとってとても大切なものです。芸術には、何か変える力、人々をひとつにまとめる力があると思っています。
太古の昔から、室内でも屋外でも人々は歌い、踊り、何か表現をしてきました。例えば、アフリカであれば雨を望んで、雨乞いの踊りをしたり・・・何かを表現する必要にかられて、さまざまな形で歌ったり踊ったりしていたのです。
どんなときでも、平穏な時代であっても悲劇が訪れた後であっても、芸術の存在は大きく、大切なものなのです。
歌いたいという人を止めることはできません。歌うために生まれてくる人もいます。そしてそれを受け止める人もいる。それぞれの立場の違いこそあれ、両者ともに必然があるのです。
芸術は人生にとって必要なもの、人生を変えることができるものだと思っています。



●<HOPE JAPAN>の公演では、どんな想いで一つひとつのパを踊られましたか。

<HOPE JAPAN>は一人の人間としての義務だと思っています。支援したい、サポートしたいという想いです。
深い悲しみの中にいる方たくさんいらっしゃるかと思いますが、「一人ではない」ということを伝えたいと思いました。
私は、日本がもう安全で、何も問題がないと言いたいためにここにいるわけではありません。むしろその逆です。
長い間にわたり、何度も日本に来ていますが、これまでは日本は本当に順調で、何も問題がなく、私もたくさんの物を見たり聞いたりしてきました。
けれども、やはり今はそういう状況ではないと感じています。まだ完全に安全とはいえず、大きな問題に直面している時だからこそ、私も手を携えて一緒にいたいという思いを持っているのです。

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※記者会見でギエムは、このほかに11月17日に日本初演の幕をあける「エオンナガタ」についてもたっぷり語ってくれました。「エオンナガタ」に関連の発言は、後日改めてお届けします。

撮影:長谷川清徳(舞台)、引地信彦(会見)


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 『エオンナガタ』は、常に新しいフィールドに挑み続けるバレエ界の女王シルヴィ・ギエムが、鬼才演出家ロベール・ルパージュと気鋭の振付家ラッセル・マリファントとともに、2年の歳月をかけて創作した作品。2009年ロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場で世界初演されました。

11-08.15EON_02.jpg この作品で描かれるのは、18世紀に活躍したシュヴァリエ・デオン(Chevalier D'Éon/本名シャルル・ド・ボーモン)の生涯です。"シュヴァリエ"とは"騎士"を意味するフランス語で、"シュヴァリエ・デオン"は"エオンの騎士"という意味になります。女装で活躍した"エオンの騎士"と歌舞伎の"女形(オンナガタ)"を組み合わせて『エオンナガタ』という、不思議な響きのタイトルが誕生しました。

 前半の49年をルイ15世直轄の優秀な外交官兼スパイ、軍人として、男性の性を生き、後半の33年間を王の命令によって女性として生きた、シュヴァリエ・デオン。彼の数奇な運命を、ダンス、演劇の垣根を越え、歌舞伎の手法を取り入れながら描いた壮大なコラボレーション作品、それが『エオンナガタ』なのです。
 『エオンナガタ』特集では、ギエム、ルパージュ、マリファントのインタビュー、そしてシュヴァリエ・デオンについてのキーワ―ドを通して、この作品をより深く紹介していきます。



●シュヴァリエ・デオンを知るキーワード(1)


 シュヴァリエ・デオン(シャルル・ド・ボーモン)の名前を今回初めて知ったという方も多いのではないでしょうか。
 『エオンナガタ』は彼の生涯について具体的に描いている作品ではありませんが、シュヴァリエ・デオンについての予備知識があると、舞台をより楽しんでいただくことができます。"女装の騎士"シュヴァリエ・デオンを知る、いくつかのキーワードをご紹介していきます。



11-08.15EON_01.png*洗礼名
1728 年10月5日、ブルゴーニュ・ワインの生産地であるフランス・トンネールでシュヴァリエ・デオンは誕生した。洗礼名はシャルル=ジュヌヴィエーヴ=ルイ・オギュスト=アンドレ=ティモテ・デオン・ド・ボーモン。 "ジュヌヴィエーヴ"という女性名が入っていることが、エオンの未来を暗示すると言う歴史家もいたという。


*女装のスパイ
シュヴァリエ・デオンは、優れた外交官兼スパイとして華やかに歴史の舞台に登場した。ルイ15世の個人的な秘密外交機関「王の機密局」の一員となったエオンは、王命を受け、女装してロシアに潜入。
輝くブロンドの髪、髭も体毛もなく、華奢で色白の美青年エオンは、美貌の女性リア・ド・ボーモンとして、ロシアの女帝エリザヴェータに朗読係として接近し、当時絶縁状態にあったフランスとロシアの国交を回復させるという重要任務を見事に果たした。


*龍騎兵隊隊長
若い頃から剣の修行に励んだエオンは、優れた剣士としても知られる。七年戦争では龍騎兵隊隊長として活躍。数々の武勲をあげた勇敢かつ優秀な軍人でもあった。


*イギリス
七年戦争の後、ルイ15世の命を受け、大使館付き秘書官としてイギリスに渡ったエオン。時に男性として、時に女装して縦横無尽に活躍し、外交官としてスパイとして活躍を続けた。ロンドンでは彼の性別が話題となり、彼が男性なのか、女性なのかという賭けが行われていたという。


【参考資料】
窪田般彌『女装の剣士 シュヴァリエ・デオンの生涯』(白水社 1995年刊)
池田理代子『フランス革命の女たち』(新潮社 1985年刊)
冲方丁/文芸アシスタント『シュヴァリエ』(日経BP 2006年刊)



いよいよ明日7月16日(土)10時より、東京バレエ団「ジゼル」の一斉前売開始となります。
この公演にアルブレヒト役でゲスト出演するセミョーン・チュージンは、前モスクワ音楽劇場バレエ芸術監督で、現在現ボリショイ・バレエで芸術監督を務めるセルゲイ・フィーリンの推薦によりモスクワ音楽劇場バレエからボリショイ・バレエにプリンシパルとして移籍することが決定。
舞踊評論家の吉田裕さんに、今後の活躍がますます期待される若きロシアの王子チュージンの魅力をご執筆いただきました。



テクニックと演技力を兼ね備えた若きロシアの王子


11-07.15_01.JPG 優美な脚のラインに、颯爽とした立ち姿。煌めくブロンドをなびかせて長身の彼が登場するや、舞台の空気は一変してしまう。この、若きプリンシパルはボリショイ・バレエ芸術監督のセルゲイ・フィーリン(前モスクワ音楽劇場バレエ)が目を掛けてきた逸材であり、かつマニュエル・ルグリも高く評価する異才である。実際、チュージンはルグリが芸術監督を務めるウィーン国立バレエのゲスト・プリンシパルでもある。バレエ界の大物二人を唸らせている資質は、多くのバレエファンが知るとおり、昨年4月にはすでに日本デビューを飾っている。
 スタニスラフスキー&ネミロヴィチ=ダンチェンコ記念国立モスクワ音楽劇場バレエの来日公演。本邦初演の『エスメラルダ』全三幕に主演したときのチュージンは忘れがたい。十五世紀のパリで繰り広げられる重厚な運命劇において、彼はヒロイン・エスメラルダと恋に落ちるフェビュス役を好演した。細かい脚さばきもダイナミックなジャンプも、ともに一陣の涼風が吹き抜けるかのよう。加えて、サポート技術もじつに危なげない。誰の目にも明らかなスター性だけではなく、爽やかで切れ味鋭いテクニックをも、鮮やかに証明してみせたのだ。
 この役は古典にありがちな、いわゆるロマンティックな王子役とはまるで異なる。物語のラストでは、かつて熱く心を通わせ合ったヒロインに対し、冷酷な仕打ちを見せる人物像である。純愛を貫く若者像とは違い、観客の共感は概して得られにくい。その意味では、純真な村娘を欺く『ジゼル』のアルブレヒト役と、一脈通じる難しさがあろう。にもかかわらず、チュージンは登場した一瞬で観客の心を掴み、かつ説得力ある造形でドラマ全体の厚みを際立たせたのである。さすがは演劇性を誇るカンパニーの中軸、と、見る者が思わず納得したのも自然なことである。
 その演技派ぶりは、バレエ団の最大の財産であるウラジーミル・ブルメイステル版『白鳥の湖』でも、遺憾なく発揮された。こちらは一転、青年期のメランコリーと詩情性とを完璧に体現しており、第三幕でロットバルトたちの策謀に嵌まる悲劇性を、彼ならではの無垢な持ち味と解釈力で、いやがうえにも劇的に盛り上げていた。このように、対照的な二つの役柄をそれぞれ見事に演じきり、表現力の幅も申し分がないことを示したのである。
 さて、今回はまた、日本で初めて見せる『ジゼル』全幕。これほどの役者であるからには、期待にたがわぬステージを見せてくれることは請け合いだ。新世代のプリンスが放つ馥郁たる魅惑を、ぜひとも心ゆくまで堪能したいものである。


吉田裕(舞踊評論家)

photo:Hidemi Seto



この夏急遽開催がきまった、ディアナ・ヴィシニョーワ&セミョーン・チュージンの「ジゼル」。公演に先立ち、バレエ評論家の柴田明子さんにヴィシニョーワの「ジゼル」の魅力を執筆していただきました。


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全身全霊を込めて瞬間を生きるヴィシニョーワのジゼル


11-07.13_01.jpg ディアナ・ヴィシニョーワほど、強く生命力を感じさせるバレリーナはいない。舞台に登場した瞬間、観客たちの目を惹きつけてやまない華麗なる存在感。確かな技術に裏打ちされたニュアンス豊かな踊り。それらが圧倒的な迫力で迫ってきて、ヴィシニョーワという一人のダンサーのみならず、私たち誰もが本来持っているはずの命の力強さまでをも感じさせるのだ。
 クラシックバレエの最高峰『眠れる森の美女』で、舞台の真ん中に燦然と輝くオーロラ姫。たった一人で(一羽で)魔王とその手下たちをやっつけてしまう『火の鳥』。愛に殉じる『シェヘラザード』のゾベイダ。それらはまさにヴィシニョーワのためにあるような役だろう。
 そんな彼女の個性からすると、「踊りが大好きだが身体の弱いジゼル」は、一見不似合いな役に思われるかもしれない。だが、ヴィシニョーワのすごいところはここからだ。
 私が彼女の生命力をもっとも感じるのは、実は役柄への深い解釈に対してである。たとえば、長らく彼女向きではないと言われてきた『白鳥の湖』。役柄と自分の個性を突き詰めて、いままでに見たことのない、彼女にしかできない、独創的なオデットとオディールを生み出した。その力強さ、バレエにかける思いはヴィシニョーワ自身の命の輝きでなくてなんであろう。ヴィシニョーワの手にかかったら、どんな役柄をも彼女の方に引き寄せられてしまうのだ。実際、彼女の踊る「ジゼル」は彼女にしか踊れない非常にオリジナリティに富んだ感動的な『ジゼル』である。
11-07.13_02.jpg ヴィシニョーワのジゼルは生命力にあふれている。踊るときも、アルブレヒトへ愛情を注ぐときも、全身全霊、まるでその瞬間に命をかけているようなのだ。狂乱の場面も私には、そのあまりに激しい自身の生命力に耐え切れず、とうとうジゼルの身体が壊れてしまったというふうに思えてならない。だから、二幕でジゼルが墓から甦り、激しく高速で回転するさまを見ているとき、「ああ、彼女の魂はいまやっと、彼女が本来望んでいたように、思いっきり踊り、思いっきり人を愛することができるようになったのだな」という不思議な安堵感と開放感を感じたものだ。アルブレヒトをウィリたちから守ったのも、死してなお彼女のまわりに渦巻く、その生命力だったのかもしれない。ラストシーンは、普通の『ジゼル』で味わう、ジゼルとアルブレヒトがもう二度と再び会うことはないのだという悲しさに加え、やっと自由を得たジゼルがそれゆえ彼と永遠に別れなければならないというジゼル自身の悲劇という二重の悲しみをたたえていて、涙をこらえることができなかった。
 この夏、ヴィシニョーワが三度東京で『ジゼル』を踊るという。今回のパートナーはモスクワ音楽劇場バレエのセミョーン・チュージン。昨年のバレエ団での来日公演『エスメラルダ』で冷徹なフェビュスを演じた彼を覚えている方も多いだろう。モスクワ音楽劇場期待の若手である。前回の『ジゼル』から五年。さらに役柄を深めたヴィシニョーワが新たなパートナーを得て、どのようなジゼルを見せてくれるのか。いまから楽しみでたまらない。


柴田明子(バレエ評論家)

photo:Kiyonori Hasegawa




●ディアナ・ヴィシニョーワ「ジゼル」(2006年の公演より)



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