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2013/06/24 2013:06:24:16:53:53

英国ロイヤル・バレエ団 スティーヴン・マックレー インタビュー

オーストラリア出身のスティーヴン・マックレーは、今年で入団10年目を迎える。入団当初こそ、その決してダンスール・ノーブル向きとは言えない小ぶりな体躯と赤毛の風貌から、テクニック重視の役柄ばかりが割り振られていたものの、ここ数年は、十九世紀古典バレエの王子役からマクミランの『ロミオとジュリエット』や『マノン』といったドラマティック・バレエの主人公まで幅広く踊りこなしている。また、今秋にはオンライン大学でビジネスマネジメントの学位を取得予定でもあり、同バレエ団の先輩ダンサーであるヨハン・コボーを思わせる、テクニック、演技、知性への全包囲への発展を遂げている。「僕はいつでも自分の意志で人生を切り開いてきた」と語る27歳のマックレーのダンスは、その人生経験を反映して円熟期のリリシズムをたたえている。


-------- 前回の2010年の日本公演は、プリンシパルに昇進されてからまだ1年程の時期でした。それから数年、あなたはプリンシパルとして劇的にレパートリーを増やしてきました。近年、記憶に残る特筆すべき舞台があれば教えてください。

最初に思い浮かべるのは、前回の日本公演で吉田都さんの相手役を務めさせていただいた『ロミオとジュリエット』です。自分が敬愛するダンサーのさよなら公演で、しかも彼女の母国で、ロミオを踊らせてもらえたことは非常に名誉なことでした。それから『マンン』のデ・グリュー役を初めて踊らせてもらったことも、大変嬉しかったです。僕が長年、踊りたいと願いつづけてきた役柄ですからね。それからミハイル・バリシニコフのためにアシュトンが振り付けた『ラプソディ』もキャリアハイライトの一つでした。僕はバリシニコフの完全無比なテクニックだけでなく、彼がダンスへそそぐ情熱とショーマンシップにも親近感を覚えます。ですから高い技術力と同時にエンターテナー性を要求される『ラプソディ』を初めて踊ったときには、少し矛盾して聞こえるかもしれませんが、舞台上でプレッシャーを感じると同時に自分らしくリラックスしてそこに居ることができました。これはいつか日本で踊りたいと考えている演目のひとつです。


-------- 2011年にはクリストファー・ウィールドン振付『不思議の国のアリス』が初演されました。あなたはかつての経歴を生かして、マッドハッター役で華麗なタップを披露されました。

稽古の初期段階では、クリストファーもタップを採用するべきかどうかで迷っていました。だから僕はとりあえずタップシューズとバレエシューズの両方を持参して稽古場に向かい、二人でいろいろとトライ&エラーを繰り返して振付を構築していきました。クリストファーの中には、マッドハッターに対してのある音楽的な像があり、その像を実際にタップの音で構築できるかどうかが採用の決め手になりました。結果的に、誰もが人生でいちどは体験したいと思うような、公園を笑いながら泣きながら叫びながら走りまわるようなクレイジーな感情が凝縮された場面が出来上がったように思います(笑)。毎公演、少し即興も取り入れていますよ。

13-06.24Steven McRae1 Photo Johan Persson, ROH.jpg

-------- 『不思議の〜』の王子役ともいえるハートのジャック/庭師ジャック役も日本公演で踊られます。

おそらく初演時からもっとも登場場面が増やされたのがジャック役です。それにより彼の若くて戸惑いにあふれた恋の感情がよりうまく表現できるようになりました。僕にとってジャックは、ロミオと同系列の役柄です。彼はアリスと恋に落ちるわけですが、若さゆえにその感情がなんなのか自分でもよくわからない。すべてが未知の感情であるがゆえに繊細な恐れを抱えていて、突然、電気が走り抜けるようなドラマティックな感情が溢れだす。そんな若くみずみずしい感情を、僕自身はジャック役で表現しようと考えています。


-------- あなたはたとえ『白鳥の湖』のジークフリート王子のようなある種の古典的な王子役を踊るのであっても、解釈として現代的な人間らしさを付け加えて踊っているように思えます。

そう言ってもらえると嬉しいです。『白鳥の湖』に関して言うなら、僕はイギリスのハリー王子を参考に役作りを進めました。現代の王族はかつての王族と違います。ハリー王子を見れば分かるように、彼は不遜で生意気で問題ばかり起こしているように思えるけれど、きちんと王族としての務めも果たしている。そういう長所も短所もある、普通の人と変わらない人間らしさを抱えた王子を、僕は演じようと思っているんです。おとぎの国にしか存在しない完全無欠な王子様を演じてもつまらない。人生の複雑さや豊かさが反映されない芸術なんて面白くないですからね。

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取材・文:岩城京子(舞踊・演劇ジャーナリスト)

Photo:Johan Persson(「不思議の国のアリス」)、Bill Cooper(「白鳥の湖」)/ROH