What's NewNews List

2011/04/19 2011:04:19:14:43:45

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団 現地レポート

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の日本公演開幕まで4週間となりました。
バーミンガムでは日本公演に向けて、着々と準備が進んでいます。

ライターの岩城京子さんが、3月上旬BRBを訪問し、日本公演を待ちわびているエリシャ・ウィリス、イアン・マッケイにインタビュー取材をしてくださいました。
2人のインタビューの前に、岩城さんの現地レポートをお届けします。


--------------------------------------------------------



徹底したプロ意識、地元の温かさ、民主的なレッスン
英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団 現地レポート

岩城京子(演劇・舞踊ライター)



首都ロンドンに次ぐ人口集中都市であり、イギリスの名古屋弁ともいわれるブラミー訛りの言葉をしゃべり、ジューダス・プリーストやブラック・サバスといった世界的ヘヴィメタバンドを輩出した街、バーミンガム。この「洗練」というより「個性的」という言葉のじつによく似合う英国ミッドランド地方の都市に、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB)の本拠地ヒッポドローム劇場はある。この街は第二次世界大戦中に「バーミンガム・ブリッツ」と呼ばれるナチス軍による絨毯爆撃を受けたため、ほとんどの建物が戦後に再建されている。例外的にヒッポドロームはその爆撃の被害から逃れた建物のひとつだが、2001年に外装がモダンにリノベーションされた。

11-04.19_03.JPG 11-04.19_04.JPG
バーミンガムの街並み

建物内には大小ふたつの劇場(席数1800人の大劇場と200人の小劇場)が収容されている。またそれだけでなく、BRBダンサーが必要とするほとんどの設備が含まれている。4つのレッスンスタジオ、事務オフィス、広報オフィス、トレーナー常駐の医療施設、衣装部、床山、照明部、小道具部、トゥシューズを管理するシューズルームまである。さらにこの施設におさまりきらない大量の衣裳に関しては、郊外に巨大倉庫を借りて、精密な温度調整のもと常時管理しているというから実にプロフェッショナリズムが徹底している。バレエ団に在籍する少数精鋭の56人のダンサーが、つねにベストコンディションで踊れるよう万端の体制でバックアップしているのだ。

11-04.19_01.JPG 11-04.19_02.JPG
BRBの本拠地バーミンガム・ヒッポドローム 劇場の外観。

サー・ピーター・ライトが芸術監督職を辞した95年からは、現職のデヴィッド・ビントリーがバレエ団の総合指揮を執っている。彼はつねにカンパニーの新陳代謝が滞ることのないように務め、毎年のように自身振付の新作バレエを発表し、若く有望なダンサーを世界中からスカウトしてきている(現プリンシパルの多くは、ビントリー自らの推薦で入団している)。その努力の甲斐あって、97年までは経営母体を同じくしていた英国ロイヤルバレエ団とは、まったく異なる、小規模ながらも良質な現代バレエを創出するカンパニーとして世界に名をなすようになっていた。
そんなBRBの底力は、日々のじつに地道なレッスンにより培われている。

朝10時半。ガールズ・クラスとボーイズ・クラスが、別の教室で同時に始まる。筆者がガールズ・クラスの見学に向かうとき、前日取材したイアン・マッケイと廊下ですれ違うと「ハーイ、キョウコ」と挨拶を投げかけてくる。一度しか話していないのに、もう名前を覚えている。アットホームなカンパニーであることがこの一点からもうかがえて、なんだかホッとする。

11-04.19_05.jpgガールズ・クラスの参加者は全30人ほど。まだ十代とおぼしき若い女の子から、堂々たるゲストプリンシパルである吉田都さんまで、実に民主的に分けへだてなくバーにつきワーミングアップをこなしている。専属ピアニストが席につきバレエミストレスが現れると、プリエ、タンデュ、ディヴェロペ、ロンデジャンブ、と淡々とバー稽古がこなされていく。日課的な単純動作ながら、各々その日の自分の体と会話をしながらを稽古をしているのが見てとれる。たとえば都さんなら、この日は最初からトゥシューズを履いて入念にバランス感覚を確かめていた。あるいは09年にプリンシパルに昇進したばかりのナターシャ・オートレッドはジャンプの踏切の感覚を繰り返し確認していた。朝一番のレッスンは、個人のためのもの。こうしろああしろという堅苦しいルールや、他者間の競争はまったくない。ゆったりと体のチューニングを行い、午後のリハーサルにのぞむのだ。

稽古場のアップライトピアノからは、ときにとても英国的な「マイ・フェア・レディ」の楽曲が奏でられる。また稽古が終わるころには、ドア窓の外から地元の運動部男子たちが賑やかに稽古場を覗きこんでくる。英国の地方都市ならではの、気さくで、あたたかで、庶民的な雰囲気が毎日のレッスン風景に溢れている。この地元バーミンガムの堅実な支援にささえられて、現在BRBは世界的バレエ団としての地位を築いているのだ。


※下の写真は「真夏の夜の夢」リハーサル中の吉田都とセザール・モラレス


photo:岩城京子(バーミンガム)、アンジェラ加瀬(リハーサル)